満月にはいつもと違う何かが起こる?

冬は空も澄んでいて雲も少なく,月がとてもきれいに見えます。たまにスーパームーンの日もありますよね。皆さんは夜空を見上げましたか?

以前見ることができたスーパームーンですが,気づくとまたやってきます。こんなに来るもの?と,つい思ってしまいますよね。

こちらは2019年1月の記事です。

月の不思議

月についてはいくつか不思議なことがあります。

たとえば,公転周期と自転周期が一致していていつも同じ側を地球に向けながら地球の周りを回っているのも不思議です。ただ,これは木星の衛星でも見られる現象のようですが。

それから,月と太陽は地球からの距離が全然違っていて,天体としての実際の大きさもとんでもなく違うのに,なぜか地球から見た大きさがほとんど同じになるのも不思議です。だからこそ,太陽が月の陰にちょうど隠れる日蝕を見ることができるのですが,偶然にしては本当によくできた現象です。

こういう話を聞いていると,月の存在に何か意味を見出そうとしてしまっても,しょうがないかのようです。

月の錯視

月と言えば「月の錯視」がよく知られています。これは,空高くにある月よりも,地平線近くにある月のほうが大きく見える現象です。

実際に,月の大きさが変わっているわけではないのです。それは,空高く昇っている月と,地平線近くにあるときの月と,それぞれにコインでも重ねてみればわかります。物理的には同じ大きさなのに,月の位置によって大きく見えたり小さく見えたりするので,これは一種の錯覚だというわけです。

なお以下の記事にあるように,月の錯視の原因はひとつではなく,いくつかの要素が重なりあって生じるようです。

以前読んだ本では「見かけの位置と物理的な位置との違い」が原因のひとつだと書かれていて,私もそのように認識していました。この領域は専門ではありませんので,その本の受け売りで説明します。

どういうことかというと,そもそも人間の天球の認識は実際の天球よりも水平方向に平たくなっているというのです。たとえば,立った状態で「腕を斜め45度の角度に上げてください」と指示をして腕を上げてもらうと,たいていの人は45度まで上がらず30度くらいになってしまうそうなのです(ですから下の図のように,イメージの天球は頂上がつぶれています)。

月が上の方にあるときには,想像する月よりも遠くにあるように見えるので,小さく見えます。そして,地平線近くにあるときには,イメージの月よりも近くに見えるので大きく見えるというわけです。

画像1

この説明を読んだ時には「なるほど」と思ったのですが,本当にこれが正しいのかどうかはわかりません。先ほどの日本心理学会の記事のように,実際には複数の原因が影響しているのでしょう。

満月に起きること

もうひとつ,昔から言われていることは,満月になると何かが起きる,という話ですね。絵本『かいじゅうたちのいるところ』でも,満月がキーになっていますよね。

満月は出産しやすいとか,事件が起きやすいとか,病気になりやすいとか,ありとあらゆることが満月に結びつけられているようにも思います。月(lunar)lから派生した“lunacy”という単語は,「狂気」とか「精神錯乱」,「軽率な行為」や「愚かさ」を意味する単語です。月と言えば,こういうイメージも強いのではないかと思います。

そこで1985年と少し古いのですが,この問題を取り扱った心理学の論文があります(Much ado about the full moon: a meta-analysis of lunar-lunacy research)。

この論文では,37本の論文を集めてメタ分析を行うことで,月の状態といくつかの心理的な問題との関連を検討しています。

殺人,犯罪,自殺…

取り扱っている問題は,「殺人」「犯罪」「自殺・自傷」「精神障害」「精神科への入院」「救急電話」です。その他雑多な問題についても検討されており,これらの問題が,「満月」「新月」「その他の月の状態」でどのくらい異なるのかを,メタ分析で検討しています。

結果としては,満月の時に犯罪がほんの少し,新月の時に自殺・自傷がほんの少し多くなるような傾向は見られはするのですが,その関連はとても小さく,月以外の要素を分析に加えると消えてしまうような関係のようです。

どうして関連があると思うのか

実際の関連はほとんど見られないにもかかわらず,どうしてこんなに色々なところで月の影響が取り沙汰されるのでしょうか。

ひとつは,「関連がある」という前提で見ることで「当てはまる例」ばかりを見てしまう,そのような情報ばかりを集めてしまう,確証バイアスが働くためだと思われます。ネットを検索すれば,「月の影響がある」という記事も「影響はない」という記事もどちらもヒットします。ところが,「あってもおかしくない」という態度でその検索結果を眺めれば,やはり「関連がある」という情報にアクセスしやすくなります。そして「やっぱり」と思うのです。さらに「やっぱり」と思う人が次の記事を書いていき,関連があるという証拠(のように見える記事)がさらに増えていきます。

そして,「関連があるはず」という前提のもとで,色々な理論化がなされていきます。満月の時にはシルバーのアクセサリーが影響を受ける,とか人体も海水と同じように水分が多いのだから潮汐の影響を受けるはず,とか。なかには「そう思いこんでいるのだから何か影響があるはず」といった,本来のプロセスじゃない単なる思い込みを前提にした理論でいいの?というものもありそうです。

これらは,月の問題だけではなく,ほかのことにも共通して見られる現象です。

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