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人間の行動を変える寄生虫

今回は『心を操る寄生生物』という本の中からの一節の紹介です。この本には,さまざまな寄生虫が宿主の行動を変えていく様子が紹介されていて,読み進めるにつれて興味深いと同時に,からだがぞわぞわしてくる感覚を味わうことができます。

ギニア虫

この本の中で書かれていた「ギニア虫」について,紹介したいと思います。この寄生虫による感染症は撲滅寸前で,もうすぐこのような状態になってくる人はいなくなりそうです。

ちなみに,世の中には「このキーワードで画像を検索しない方がいい」というものがありまして,「ギニア虫」もそのひとつといえるかもしれません。というのも,こんな感じだからです。

 現在ではほぼスーダンのみに生息するギニア虫は,その幼虫を体内にもつケンミジンコで汚染された濁った飲み水を通して人間の体内に入る。人間の胃に備わっている酸でケンミジンコは死ぬが,その中にいた幼虫は死ぬことなく,やがて腸壁をくぐりぬけると腹筋の内側で成虫になり,交尾する。雄は体長二,三センチで,その場で死んで吸収されてしまう。だがメスのほうはどんどん成長し,最終的にはおよそ一メートルもの長さになる(私は以前,とぐろを巻いたホルマリン漬けのギニア虫を見てゾッとしたことがある。とてつもなく長いスパゲッティのようだった)。

『心を操る寄生生物』(p.44)

体のなかを移動する

ギニア虫のメスは,成長するにつれて感染した人間の体のなかを移動していきます。人間を操るというと,脳の方へ移動するのではないかと思いがちなのですが,その反対方向へと移動するのです。たいていは,ふくらはぎやその先の足の方です。ギニア虫は,人間の足がどっちの方向なのかがわかっているのでしょうか,なぜ知っているのでしょうか……。

子どもを放出

足の方にたどりついたギニア虫は,そこでわざと酸性の物質を放出して,人間に痛みを与えます。すると人間は,炎症が起きた足を水につけようと身近にある水に足をつけます。すると,ギニア虫は水を感じて目的を達成するそうです。

 これまでさまざまな策略で免疫系から姿をくらましてきたギニア虫だが,この時点になると酸を放出し,宿主である人間の皮膚にひどく痛むうえに痒い水ぶくれを作る(この病気の英語名は「ドラキュンキュリアシス」,ラテン語で「小さな龍の苦痛」を意味する,なるほどと思える名だ)。このメスの運がよければ,焼けつくような感覚に我慢できなくなった宿主は身近にある水に炎症のある足を浸し,ひと息つくだろう。その瞬間,ギニア虫は水の環境を感じとり,人間の皮膚を打ち破って口から幼虫を吐き出しはじめる。一回の痙攣ごとに数百から数千の幼虫が飛び出す。それから何日かのあいだ,母親は水を感じるたびに千匹単位で赤ん坊を噴出させるのだ。水に入った幼虫はあたりを泳ぎまわりながら新しいケンミジンコの体内に寝床を見つけ,さらに多くの人間を苦しめる不気味なサイクルを繰り返す――そのなかにはまったく同じ人間が含まれることもある(ギニア虫に対する免疫はできないので,同じ人が何度でも感染する可能性がある)。

『心を操る寄生生物』(p.45)

いったいいつどうやってこのサイクルが確立されたのかまったくわからないのですが,とても不思議です。とはいえ,衛生教育と水濾過システムのおかげで,ずいぶん感染は減ってきているそうです。撲滅できる日も近いということですので,何よりです。

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