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「小さい関連」なのに「意味がある」時とは

「相関係数が0.1しかないのだから,ほとんど意味はない」と言ってしまうのは簡単なことです。でも,「そんなに小さな関連でも意味がある」というスタンスで論文が書かれている時があります。

たとえばこの論文などは典型的なのですが,ビッグ・ファイブ・パーソナリティと身体的な活動性との間の関連は,標準化された回帰係数で0.1程度か,それを下回るくらいの関連しかありません。『The five-factor model of personality and physical inactivity: A meta-analysis of 16 samples』

こういった小さな関連でも,論文では「関連が見つかった」と考察されているのです。もちろん論文の中でも関連の大きさについては触れられているにもかかわらずです。これは,どういうことなのでしょうか。

あるかないか

実際,大学の授業でこういった研究知見を教える時には,たとえ0.1の関連でも「外向性と身体的な活動性に関連があります」とか「外向性が高い人ほど活動性が高いのです」とか「内向的な人よりも外向的な人の方が活発なのです」という話になりがちです。きっと,教科書にもそう書かれてしまうのではないかと思います。その場合「どれくらい」の関連や影響や差があるのか,ということにはあまり触れることはありません。

その判断はまさに「0か1か」なのです。関連でも差でも,「あるかないか」なのです。吊り橋効果が「あるかないか」。きょうだいで性格の違いの法則が「あるかないか」。遺伝の影響が「あるかないか」で考えがちなのです。私たちはつい,そのように考えてしまいがちです。

そこでできれば,「どれくらいの関連か」という意識を持っておきたいものです。それはそうなのですが,ある研究の話が世の中に伝わっていく時には難しいことかもしれません。それは,言葉そのものの問題かも......。

数字を見れば

実際には,ひとくちに関連といっても,論文には「その程度」が数字で示されています。論文に出てくる数字を見れば,「これとこれはこの程度の関連なのか」ということが理解できるというわけです。そこを無視していると,100人中1人しかクジに当たらないのに「みんな当たる」と言ってしまうような,奇妙なことが起こります。

授業で扱う時

そこで授業では,できるだけもとの論文を紹介して数字を示しておくことを心がけています(もちろん,授業に参加している学生の状況や授業の進度,授業内容にもよります)。すると,紹介した論文に出てくる数字がとても小さかったりすることもあるのです。相関係数が0.2とか,先ほどのように0.1前後とか。

そして授業の中では,この程度の関連ですよということも触れておきます。

そこで気づく学生は気づくのです。「関連が小さすぎませんか」ということに。そういう質問が来たときには,よく気づいてくれたなと嬉しくなります。そして,さらに説明を加えます。関連の大きさの意味についてです。

小さな関連を扱う時

さて,小さな関連は,目の前の人を理解したり目の前の人に何か働きかけたり,少数の集団に効果をもたらすことにはまったく向いていません。小さな関連や小さな効果しかみられないことを一生懸命やってみても,自分自身の足しにはほとんどならないのです。例外が多すぎるからです。

では,小さな関連は何に役立つのでしょうか。ひとつは,視点を大集団に置くことです。国や企業など,多くの人間を相手にする場合には,1%(相関係数0.1)程度の関連でも非常に大きな効果をもたらす場合があります。国全体で見れば,1%収入が上昇したり,1%健康が改善されたりするだけでも,大きなメリットになります。企業でいえば,1%業務が改善されるととても大きな利益になります。このように,多くの人を相手にして効果を利用する場合には,小さな関連にもメリットが生じる場合があると言えます。

より確実な小さな関連

ただし,小さな関連は偶然見つかる可能性が大きくなります。そこで,先の論文でもそうなのですが,小さな関連を強く主張する場合には,「その関連が安定して見られること」(国を超えて見られること,時代を超えて見られること,結果が何度も再現されること)が重視される傾向があります。

関連の大きさは一律に判断されるのではなく,それも研究の文脈に依存しているということなのです。

「関連がある」と言葉だけで示されている時には要注意です。

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