抑うつ的な人は現実的な判断を下すのか
抑うつリアリズム仮説(depressive realism hypothesis)という仮説があります。これは,うつ病患者が,健常な人よりも現実的な物事の推測をすることができるという仮説です。
歪んでいるのか正しいのか
この問題って,なかなか深いものだと思うのです。認知的に問題があるなら「それを正しくしよう」という試みが行われるのはよくわかるのですが,もしもうつ病の人たちの認知が現実的で正しいのであれば,それを修正すべきなのかという疑問も浮かんできてしまうからです。
もしも健常な人たちの方の認知が歪んでいるのであれば,「現実的で正しい認知を,幻想を伴う認知へと修正する」という,なんともおかしなことになってしまいます。
そういう意味で,抑うつリアリズム仮説は「治療とは何か」という問題にもつながる,興味深い問題でもあると言えます。
自動思考
歪んだ認知を対象に治療を行っていく認知療法では,抑うつ状態がネガティブな内容を何度も思い浮かべてしまう反すうや,自動的な思考に影響を受けて感情が生まれることを仮定しています。
この考え方では,うつ病の患者さんたちが自分自身の否定的な認知の仕方を自覚し,より「正しい」認知へと変えていくことを目的とします。
抑うつリアリズム
あなたは実験室に座っています。目の前には,ボタンがあります。そのボタンを押すように言われているので,何度か押してみます。
すると時々,ボタンを押すと正面にあるライトが光るように思えます。何度か押してみると,ときどき光りますが,押しても光らないときがあります。法則はよくわからないのですが,どうもボタンを押すコツがあるように思えてきます。
さて,このような装置を使って,どれくらいボタンを押した行為がライトが光るという反応につながっているかを報告します。ボタンと光との関係はあらかじめコントロールされていて,ボタンを押さないときにときどき光るパターンと,ボタンを押したときに時々光るパターンが用意されています。このような条件を用意すると,当然,ボタンを押して時々光るパターンの時に「ボタンを押すことと光ることと関連する」と認識します。これを,コントロールの錯覚と言います。
そして,抑うつ的な人はそうではない人に比べて,こういった認知的なバイアスを抱かない傾向があったそうです。また,何かの作業をしたときに,抑うつ的な人のほうがより正しい自己認識をする傾向にあることも報告されているようです。こういった研究が,抑うつリアリズムの証拠とされていきました。
メタ分析
抑うつリアリズムについて,これまでの研究を統合するとどういった結論を得ることができるのでしょうか。
メタ分析で検討した研究を見てみましょう(Depressive realism: a meta-analytic review)。
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