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親から子に遺伝が伝わるコイン投げ

以前,8割の遺伝率は親から子に8割が伝わるという意味ではないという話を書きました(遺伝率が8割ということは両親の身長で子どもの身長は決まるのですか)。

実際に,親子の身長の相関はそれほど高いものではないのですよね。

身長の遺伝率

でも,ですよ。身長の遺伝率は70%とか80%とかあるわけです。

「遺伝率がそんなに高いのに,親子の身長の相関は0.3とか0.4くらい」

という状況は,なんだかモヤモヤしてしまいませんか?そこで,親から子へ身長がどのように遺伝するかを,シンプルに考えてみたいと思います。

なお,ここでは遺伝だけを考えます。環境の影響は考えません。

たくさんの遺伝子

身長も体重も,知能も性格も,次のような考え方をします。

×(誤った考え方)......あるひとつの遺伝子が身長の遺伝を決める

○(正しい考え方)......たくさんの遺伝子の影響の全体で身長の遺伝を決める

ある遺伝子があるかないかで,身長が決まるのではありません。たくさんの身長に関連する遺伝子があって,ひとつひとつの遺伝子は,「身長」という観点から考えると,プラスにはたらくものやマイナスにはたらくものがあります。

背を高くする遺伝子

このことについては,以前も記事を書いたことがあります。

たとえばある遺伝子を持っていると,ほんの少しだけ足の骨が伸びるとしましょう。すると,その遺伝子を「背が高いかどうか」というモノサシから見れば,「背を高くする遺伝子」になります。でも,その同じ遺伝子を別のモノサシを当てて見ることもできます。つまり,「体重の重さ」というモノサシから見ると「体重を重くする遺伝子」になり,「足の速さ」というモノサシから見れば「足を速くする遺伝子」になり,「スタイルの良さ」というモノサシから見れば「スタイルを良くする遺伝子」になり得るのです。

「背を高くする遺伝子」があるのではなく,「背の高さ」から遺伝子を評価した時に,「背を高くする方向」「背を低くする方向」があるのです。

10個の遺伝子

では,10個の遺伝子が身長の高さに関連するとしましょう。父親と母親の身長に関連する遺伝状態が次のようだとします。

父親
01110
00101
母親
10111
01010

父親は10個の遺伝子のうち5つが「1」ですので合計は「5」,母親は合計「6」です。おそらく,父親の身長は平均くらいで,母親の身長は平均よりも少しだけ高くなることが期待されます。あとは環境次第です。

この時,この夫婦に子どもが生まれるとします。親から子へ遺伝子が伝わるのですが,上下セットになった遺伝子の片方が,ランダムに伝わります。コイン投げをするようなものです。

子どもの状態

すると,子どもはどのような状態になるでしょうか。上下の数字の上が父親から,下が母親から受け取った遺伝子だとします。

ひとり目の子どもです。父親の最初の数字の上下のペアは0しかありませんので父親から0をもらい,母親の最初の上下のペアから0をもらいます。そしてたまたま,ペアの中から0ばかり受け取ってしまうと次のような組み合わせになります。

子どもA
00100
00010

この子の遺伝状態は「2」です。おそらく,平均よりも低い身長になることが期待されます。

数年後,二人目の子どもが生まれます。その子の遺伝状態は次のようになりました。

子どもB
01111
11111

二人目の子は,父親と母親から最大限「1」を受け取ることで,遺伝状態が「9」となりました。おそらく,とても身長が高くなるはずです。もちろん生まれた後の環境も影響するのですが,いくら牛乳を飲んでも魚を食べてもバスケットボール部に入っても,身長を環境的にコントロールするのはとても難しいのは皆さんが経験している通りです。

多くの子は

もちろん,ここでは極端な子を例に挙げました。確率的には,両親の遺伝状態の中間くらいの子が生まれてくる確率がいちばん高くなります。

しかしそれは,あくまでも確率です。両親が何度も行うコイン投げの結果,どんな組み合わせになるのかは子どもが生まれてみないと(受精卵がどうなっているのかを調べないと)わからないということです。

一卵性と二卵性

上のようなコイン投げを例にすれば,二卵性の双子だとコイン投げを挙げもう一度繰り返しますので,そのきょうだいは意外と遺伝的に似ていないこともあり得る,ということがよくわかると思います。

そして,一卵性の双子は,コイン投げの結果が全て同じなのです。このことからも,遺伝的な「似ている程度」は一卵性と二卵性の双子で全然違うという感覚になることがよくわかると思います。

遺伝率は高くても

遺伝率の高さは,「その遺伝を持って生まれた時の遺伝と環境との兼ね合い」を意味しています。「親から子に遺伝の8割が伝わる」ということではありませんので,注意してください。

子どもができる時というのは,コイン投げを何度も何度も繰り返すようなものだとイメージするとわかりやすいのではないでしょうか。

どんな組み合わせで生まれてきたとしても,その組み合わせはその子独特の組み合わせであり,かけがえのないものです。

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