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領域固有と全体の自尊感情の関連に注意

割引あり

自尊感情には,全体と個別領域があるという研究があります。全体的な自尊感情は,ある人全体でどれくらいポジティブな要素があるかということを問題とします。

領域というのは,学力とか外見とか,運動能力など,より特定の領域でのポジティブさを意味します。


因果関係

全体の自尊感情と領域固有の自尊感情との関係がどのようになっているのかは,なかなか難しい問題です。全体が領域に影響するのか,それとも各領域が全体に影響するのかという点も,簡単に明らかになるわけではありません。

ある研究では,8つの領域特有の自尊感情を想定しています。それらは,学力,身体的外観,運動能力,数学能力,道徳性,恋愛関係,社会的受容,言語能力です。

因果関係を検討するひとつの方法は,縦断的な調査でどちらからどちらに影響するのかを検討することです。これらの領域生固有の自尊感情と全体の自尊感情との因果関係を検討すると,どちらにも影響しうるという研究結果が報告されています。トップダウンの方向にも,ボトムアップの方向にも影響するという研究結果です。

問題

しかし,縦断的なデータによる因果関係の検討も,問題があることが報告されています。今回紹介する論文の中に例が書かれていました。

タクシー運転手は庭師よりも運転する傾向があると仮定します。その結果,ある週にタクシー運転手と庭師が同じくらい運転した場合,タクシー運転手は通常より運転が少なく,庭師は通常より運転が多くなります。しかし,全体的に測定と測定の間では,平均値に向かって回帰する傾向があります。従って,タクシー運転手は庭師に比べて,翌週の運転がよりプラスに変化すると予想されます。たとえ実際には変化の効果がないとしても,たまたまあるときに庭師と運転手が同じくらい運転していれば,結果はマイナスとプラスに出てくることになります。また一方で,たまたまタクシー運転手が普段より多く運転しており,庭師が普段よりも少なく運転していれば,平均値への回帰によってプラスマイナスが逆に出てくることもありえます。

実際に存在する因果関係と,2回の調査から分かる結果としての因果関係についてどのような結論を下すかについては,慎重にすべきでしょう。

では,このあたりの問題も考慮した上で,メタ分析の手法を用いて全体の自尊感情と領域固有な自尊感情との間の因果関係を検討した研究を見ていきましょう。こちらの論文です(Spurious prospective effects between general and domain-specific self-esteem: A reanalysis of a meta-analysis of longitudinal studies)。

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