大人になっても『やさしさに包まれたなら』

「MISSLIM(ミスリム)」とは「MISS SLIM」の造語。
ユーミンのセカンドアルバムタイトルである。その3曲目に収録されているのが、名曲『やさしさに包まれたなら』。

ユーミンの名曲と言うか、日本の名曲であろう。
この曲との出会いには、ちょっとした思い出がある。

まだ小学生だった頃、帰国子女が転校して来た。名前はなおちゃん。栗毛の天然パーマの女の子で、ご両親や親戚に外国の人がいたのかはわからないのだけれど、顔のつくりは日本人なのだが、色素の薄い女の子だった。彼女は私が風邪で休んだ日にやって来たので、話し掛けるチャンスを逃したまま何日か過ぎた。

ある日の事。休み時間に体育館のステージの縁に腰掛けて、お友達とお喋りしていた時、なおちゃんが、よっこらしょっと私の隣に座って来て、「この歌知ってる?」と言うと、唐突に可愛い声で歌い始めた。それが、『やさしさに包まれたなら』。

面食らった私は、何か感想を言ったのか、「上手だね」なんて気の利いた事でも言えたのか、全然覚えていない。

ただ、この曲の優しい歌詞だけが印象に残って、その後、何年かしてからようやく誰の曲なのかがわかって、アルバム『MISSLIM』をお小遣いで手に入れた。

今、なおちゃんはどうしているんだろう。きっと、良いお母さんになっているような気がする。大の仲良しというわけではなかったけれど、彼女のお誕生会におよばれしたり、そこそこ仲良くしていた気がする。曖昧なのは、私の記憶力がないからか、余りにも時が経ち過ぎているからか。

で、この曲の肝。当時は、

「小さい頃は神さまがいて
不思議に夢をかなえてくれた」

と言うところに共感していたけれども、大人になった今、肝だなと思うのは、この部分、

「目にうつる全てのことは メッセージ」

普通だったら、と言うか、今の若いミュージシャンだったら、朝の木漏れ陽の優しさを「今日は良い事ありそう!」みたいな陳腐な表現しかしないのではないか。

この誰でも感じた事のあるであろう情景を、「全てのことはメッセージ」と解釈したユーミンは、『MISSLIM』発売当初、まだ20歳。

こんな感性、天才過ぎ。

近年、NHK紅白歌合戦に出演する事もあるユーミン。年末にユーミンが見られて、『やさしさに包まれたなら』を聞けるのは勿論、嬉しい。

でも、私は、会場にいる人達、ゲストの有名人達も、会場に詰めかけた一般人も、老若男女が一様にこの曲を口ずさんでいる光景にグッとくるのである。

『やさしさに包まれたなら』の感性は、若い時特有ではない。ずっと持ち続けたい穏やかな感性。それを思い起こさせてくれる、永遠の名曲。

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