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5/26 「サロンに響くプレイエルの詩」第1回 モーツァルト&ショパン ~人とピアノと空間の変容~

 みなさんこんにちは。群馬県高崎市のコンサートサロン「アトリエミストラル」オーナーの櫻井紀子です。

2024年の主催公演シリーズ「サロンに響くプレイエルの詩(うた)」全3回の第1回が5月26日(日)にアトリエミストラルで開催され、大好評のうちに終了しました。

シリーズのチラシ

シリーズの目的

プレイエルピアノは、まろやかな音色と繊細な表現を得意とし、ショパンが愛したピアノとしても有名です。プレイエル全盛の19世紀は「サロン」と呼ばれる小規模でプライベート空間に近い「場」で弾かれることが多かったと言います。今回のシリーズでは、アトリエミストラルという小さなホールで「サロン」の雰囲気を味わっていただきながら、ショパンを中心としたプログラムにより、多くの方にプレイエルというピアノを知っていただきたいという思いで、企画いたしました。(全3回)

アトリエミストラルのプレイエル(1905年製)

第1回 モーツァルト&ショパン ピアノ:吉岡裕子

【プログラム】
 イグナツ・プレイエル ソナタ変ロ長調 B.571より第2、第3楽章
 W.A.モーツァルト ソナタ第3番 変ロ長調 KV 281
          ソナタ第10番 ハ長調 KV 330
 F.ショパン 3つのマズルカ Op.50
       ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58

吉岡さんは群馬にお引越しされた直後、アトリエミストラルをご訪問くださり、プレイエルピアノを弾いた時、ショパンはもちろんだがモーツァルトとの相性も良いかも、と気づきを得て、このモーツァルト&ショパンのシリーズを開始しました。

モーツァルトとプレイエルとショパン

(吉岡裕子さんのプログラムノートより抜粋)
モーツァルトの時代にはもちろんプレイエルはありませんでした。しかしプレイエル社の創始者であるイグナツ・プレイエルはモーツァルト誕生の翌年に生まれ、同時代を生きた人です。ハイドンの弟子でもあったイグナツは優れた音楽家でもありました。二人が出会っていたかは今となっては分かりません。イグナツがプレイエル社を設立したのはモーツァルトが亡くなった後です。

1831年、イグナツの息子カミーユ・プレイエルは、パリでショパンと運命的な出会いを果たします。ショパンはモーツァルトを崇拝しており、彼の弾くモーツァルトは大変美しかったと伝えられています。しかしショパンは「最後のモーツァルト弾きはカミーユ・プレイエルである」と言ったと言われています。
カミーユは優れたピアニストであり、ピアノの技術者としてショパンを支え、ショパンのために最高のピアノ「プレイエル」を制作しました。
(抜粋 ここまで)

吉岡裕子さんの「モーツァルト&ショパン」

ただただ美しいだけのモーツァルトではない、一段階も二段階も深いところに潜むものを掘り起こしている感じがしました。3番と10番の作曲年が離れていることから、その間に、モーツァルト自身と取り巻く環境が変化していること、そしてそれはより深化しているということが納得できる演奏だったと思います。

しかし何といっても圧巻はショパンの「ソナタ第3番」だったのではないでしょうか?取り憑かれるがごとく集中する吉岡さんの姿と演奏には、ショパンの音楽の厳しさと、そこに潜む強い思いを代弁しているようでした。

この日のショパンのソナタは、明らかに吉岡さんの変化が感じられました。「骨太」「重厚感」という言葉がぴったりかと。ずっと地響きのように鳴り続ける低音、軽やかさと同時に強さも併せ持つ高音。アルトのように柔らかく包み込む中音。ただ鍵盤を強く叩いたのでは絶対に表現できない音。

私はショパンの楽曲には、耳障りの良い美しい曲と相反する、言葉にできないけれど誰かに何かを伝えたいという強い強い思いを、いつのころからか感じるようになりました。それはポジティブなものばかりではなく、絶望や失望という人間としての感情。 そういう演奏に出会えると、心が勝手に反応して、打ち震え、そんな世界に誘ってくれたピアニストを心から尊敬します。

1905年製プレイエル(アトリエミストラル)

ピアノとピアニストと空間と

演奏会が終わると、そこで感じた得体のしれない何かを「言語化」するのに苦労するのですが、今回のコンサートを言葉にするとすれば『変容』でした。内側から本質的に変化することを意味する「変容」。

ピアニストである吉岡さんの変化、そしてプレイエルというピアノが出会った個性豊かな、数多くのピアニストにより今なお変化しているさまを目の当たりにしたのです。まさに楽器も人間も生きているのです。

そして、このアトリエミストラルという「空間」も変化している気がしてなりません。「空間」は、そこに集まったお客様や、演奏する人を含めた空気感を「吸って」生きている、と確信するようになりました。そのような「空間」を「より良い状態」に保ち続けることこそ、私の役割、使命ではないか?と思った次第です。

アトリエミストラルに行って音楽を聴きたい、アトリエミストラルで演奏したい、と思ってもらえるには何をしたらよいか?今までもこれからも模索していく覚悟ができた気がしています。

素晴らしいコンサートにしてくださったピアニストの吉岡裕子さん、ご来場いただいたたくさんのお客様には心から御礼申し上げます。

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