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飛ぶアトリエ

わりと長めのトンネルだった。

次から次へと躓きがあって、なかなか立ち直れないのだった。

製本をしていても、味のしなくなったチューインガムを
クチャクチャただ噛んでいるだけのようだった。

音楽を聴いても、私の心のエンジンはかからないのだった。


それでもアトリエの行き来に、しがみつくように本を読んでいた。

メトロの中で読む本は、それがたったわずかな時間でも、ぎゅうぎゅう詰めの人混みの中でも、疲労困憊して目が虚な帰り道でも、私に残された居場所だった。


数年前にも、こうやって私は本に助けられたことがあった。


いつしか、アトリエで、貪るように「高橋源一郎の飛ぶ教室」をyoutubeで聴くようになった。

製本より「聴く」方に集中して、源一郎さんの「こんばんは」から始まる番組を、一日の間に何度も再生した。


そして少しずつ私は癒されていった。


子供の頃、国語のテストが嫌いだった。
答えが一つしかないことが納得できなかったし、先生と同じ答えを書かなければ◯がもらえないことに怒りを覚えた。


大学も、すごくいい加減な気持ちでフランス文学科を専攻した。
だからフランス文学にいつまでたっても親近感は湧かなかった。


今でも私は本を読むのがすごく遅い。
今までに読んだ本なんて、「本好き」からみたら微々たるものだ。


でも私は本が好き!
物語が好き!

そして私も「物語」の中に生きている。


私の「飛ぶアトリエ」は、アトリエが飛ぶんじゃなくて、私が翔ぶのだ!

私はあいかわらず2つのアトリエを行ったり来たり。

時に乱気流あり。

アトリエの中だって、私はいつも頭の中で翔んでいる。


やっとトンネルを抜けたなと思ったら、今夜は満月。
帰り道が楽しくなった。