思い思いの過ごし方ができる場づくりを。『喫茶prologue』ができるまで
「カフェに行く」というだけで、胸が高鳴るのはなぜでしょうか。おいしい珈琲やお菓子や食事だけではなく、心ときめく店内や行くまでの道中、そこで過ごす時間、さらに店の人との対話……などなど、自分の心地よい過ごし方を知っている人が集うカフェは、いくつになってもときめいてしまいます。
hito noteでは、atelier hito(以下、hito)と仕事をした店主さんにインタビュー。hitoさんたちが仕事を通じて新しく何かを始める人たちを応援するように、このhito noteでは空間づくりのことや、これから何かを始めたい人たちの背中を押すような思いやエピソードを伺っていきます。
第5弾は、名古屋市千種区で『喫茶prologue』を営む、山本さんと富永さんにお話を伺いました。
東山動植物園の向かい、本屋『ON READING』の同じ建物の2階に、『喫茶prologue』があります。アンティークの木の扉をそっと開けると
目の前にはショーケースとカウンター。奥にはさまざまな木の椅子とテーブルが置かれています。白を基調としたミニマルな内装と、ほっこりとした木のアンティークの家具のバランスで、甘くなりすぎないモダンな空間に。
ということで、hitoさんたちが手がけた店舗の内装について、まずは伺っていきます!
「カフェに行く」までのワクワク感を大切に
ーー外観からは白を貴重とした、ミニマルでやさしい印象だったのですが、店内に入ってみると、薄暗い光がさして、アンティークの椅子やテーブルがあって、落ち着いた雰囲気で、心地よいです。
山本さん(以下、山本):ありがとうございます。「カフェ」って女性のお客さまが多いイメージですが、男女問わず、年齢問わず、例えば男性1人でもくつろげる場所にしたいと思って、内装は“可愛過ぎない”トーンに仕上げていただきました。木材をメインにしつつ、天井はコンクリートでメリハリをつけています。
ーーこの壁はお二人で作業して塗られたのですか?
山本:そうです。hitoさんたちも手伝っていただき、みんなで塗りました。自分たちでできる部分はできる限り手を動かしてつくっています。内装に興味のあるお客さんもいらっしゃって、自分たちで手を動かした分、ストーリーが語れるのはよかったなあと感じていますね。
店内にある家具の一部は、元々ここにあったカフェのものを再利用しています。カウンターはそのままですし、天板はアイアンの脚をつけてテーブルに。余計なものを買わず、居抜きだったので、あるものを生かしています。
ーーすごい……そうなんですね!他にも店作りでこだわったところを教えてください。
山本:僕自身、カフェが好きでお店を巡っていたときから、その店に「行こう」って決めてから行くまでのワクワク感が好きでした。なので店内だけではなく行くまでの景色にもこだわっていて、スロープから上がったときに見える外観でドキッとしたり、徐々に見えてくるアンティークの扉の佇まいや扉を開けた時の印象まで、考えてつくっています。
ーー開店当初と現在とで、店内の中で変わった部分はありますか?
富永さん(以下、富永):BGMの音と照明の明るさは、半分以下になりました。お客さんが盛り上がってしまうと、私たちの店らしくないなと感じまして……。ルールで縛るよりも、空間で過ごし方を自然と感じてもらえるように。本当に来ていただきたいお客さんが、気持ちよく過ごせるような環境にしたいと思っています。
ーーこのテンションなら、一人でも行きやすいです。現在はどのようなお客さんが訪れますか?やはりカフェだと女性の方が多いですか?
富永:若干女性の方が多いですが、男性客の方も意外と多くて、常連さんの中には、男性1人の方もいらっしゃいます。
山本:『ON READING』の帰り道に、読書をして過ごしてくださる方もいます。先ほどお話したような、来ていただきたいお客さんの像に適っていてありがたいですね。
一緒に考える“人”がいる心強さが背中を押してくれた
ーー喫茶prologueの2人は、お店ができる前は『ずっとや』の屋号で活動されていましたよね。2人で活動し始めたのはいつからですか?
山本:2021年に、自由ヶ丘にある『八O吉』で「おやつと珈琲」という企画が最初でした。八O吉の吉田くんと僕たちは同じカフェで働いていたよしみで、「出店しないか」と声をかけてくれました。
富永:わたしは元々管理栄養士の勉強をしていたので、お菓子の勉強はゼロからでした。明確なイメージはありませんでしたが、これまでやってきたことをいかして、お菓子作りを始めました。
ーーその時から一緒にお店をやろうと思っていたんですか?
山本:ずっとやとして活動していて、イベント出店などの回を重ねて行く度にお互い実店舗への憧れは強くなり、自然な流れで実店舗を持とうという話になりました。
ーーそこから、なぜhitoさんに依頼しようと?
富永:hitoさんたちが開催している相談会「HITOTOTALK」に行ったのが、最初の出会いでした。実店舗ができる1年半前くらい、まだ出店が3回目くらいのときに、とりあえず勢いで行ってみたんですよね笑。
山本:お店を持ちたいと漠然と思っていたけれど、何もわからなくて、話が進まなくて……。2人でわからないことを話しても解決できないですし、店作りのことをわかる人に聞くのが一番だと思ったんです。その時ちょうど、「hito to talk」があって、自分たちが考えていることを伝えたら、モヤモヤが解消されました。「そういう順序で進めていけばいいんだ!」と。
そこからhitoさんには少しずつ、定期的に相談に乗っていただいていたので、関係も構築されていたし、何より「実店舗を持ちたい」と思う自分たちのことを一番知っている方だったので、ご依頼しました。これまでhitoさんたちがつくってきた店も素敵で、出来上がりも間違いないと信頼していたんです。
ーー店作りは順調に進んで行きましたか?
山本:工事はほぼ順調だったのですが、最初はなかなか理想的な物件が見つからなかったですね……。僕も富永も本業をやりながらの活動でしたし、全然次に進めなくて。でもずっと「実店舗を持ちたい」とは周りに話していました。
ある日、僕が通っている近所の洋食屋さんのオーナーが、ON READINGの黒田さんと友達で、今の物件が空くタイミングでご紹介いただいたんです。そこからは順調で、物件が決まって融資も降りて、とんとん拍子で進んでいきました。
hitoさんたちは基本的に僕たちの理想像を聞いて叶えてくれました。時折、古いビルなので構造上できなかったり、限られた予算でできないこともあったりしましたが、岡島さんはいつも僕たちの意見を遮ることなく聞いてくれて、次のステップを示してくれました。やりたいことと現実は常にすり合わせで、イメージが確定してからも何度も上書きして……hitoさんたちには、たくさんのわがままを聞いてもらいました。
対話が特別な時間になるように
ーーそうして実店舗を構えて、屋号も『ずっとや』から『喫茶prologue』に変わりましたね。
山本:店名の「prologue」は「序章」という意味で、ぼくらの「始まり」を指しています。お店で過ごし、自分と向き合うことによって、お客さんが新しい何かを発見するきっかけになったらいいなと願いを込めて名付けました。
ーーそんなお二人が、日々の営業において大切にしていることを教えてください。
山本:お客さんとのコミュニケーションです。店の空間とコーヒー、特別な時間のなかで、店の人間と話すのもプラスで楽しんでもらえたらいいなと思っています。僕自身、前職時代に人と話す機会がなくて……カフェで過ごしたり、店員さんと話したり、心の癒しがカフェでの時間でした。だから今度は、自分がお客さんに特別な時間を与えられたらと思っています。
富永:私は、店での時間の過ごし方をどう伝えていくかについて、常に考えています。おいしいのは当たり前、技術は個人の課題であって、ただ単においしいコーヒーとお菓子が楽しめるお店だけにはせず、空間や店の人との会話があって、この店で過ごす時間が、ちょっとした思い出になったらうれしいです。
ーー今後、お店を通じてやっていきたいことは何ですか?
山本:アート作品の展示と、自分たちの世界観らしい夜喫茶をやってみたいと思っています。ほぼ自然光が入らないので、アンティークの照明だけ灯した空間で。
富永:昼間はゆっくりしようと思っても、ありがたいことにお客さんがたくさんいらっしゃって、提供に精一杯になってしまうんです。だから夜にコーヒーとスイーツをゆっくりと、それぞれが楽しんでほしいと思っています。通常の営業では出せないメニューも提供するなど、自分も挑戦して、技量をあげたいです。何より、いつも来てくださっているお客さんに還元するために、やってみたいと思っています。
ーー夜喫茶行ってみたい……!楽しみにしています!最後に、これからお店を持つ方へのメッセージをお願いします。
山本:店作りのことを自分たちだけで考えていると、どこかで行き詰まってしまいます。僕たちにとって、次のステップに進むためのパートナーがhitoさんで、それが僕たちの正解でした。経験や知識があるだけじゃなく、僕たちの好きな人柄だったので、幸運だったと思います。だからこそ、夢を語れたし、スムーズにステップアップできました。まずはhitoさんに相談してみて欲しいです!
富永:店を持つ前のあの時の自分に言うなら、「たくさん、いろんなものを見て欲しい」ということ。私は忙しいのを理由に、あまり名古屋から出ていけなかったけれど、今は時間が許す限り、違う県に行って、いろんなものを見てインプットの時間にしています。それは、自分の好きなものを極めるためで、自分がどの味が好きなのかを知るためです。好きなものをみつけて、それを目指してつくりあげたい。もっといいものを作るために、自分の好きなものを知る旅に、ぜひ行って欲しいなと思っています。
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