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【文部科学省生成AIガイドライン】Chat GPTと音楽生成AI「SunoAI」を使った授業実践~1年間の思い出をもとにクラスのオリジナルソングを作ろう!~

1.はじめに

 この記事では、特別活動として行われたオリジナルソング作成の教育実践について紹介します。子どもたちが一年間の思い出を音楽という形で表現することを目的としています。

 良いことも、悪いことも、いろいろあった1年、せっかくだから「楽しかった」と子どもたちに思ってもらいたい、と考えたのがこの実践を行ったきっかけです。

 SunoAIを用いたこの実践では、AI技術を通じて子どもたちが自分の感情や経験を創造的に表現する過程を通して、メディア創造力の育成を目指します。さらに、文科省生成AIガイドラインの活用が考えられる例に示されている、”⽣成AIをめぐる社会的論議について⽣徒⾃⾝が主体的に考え、議論する過程で、その素材として活⽤させること”と関連させて、子どもたちに生成AIを活用した音楽作成の活動を通して、未来の「ものづくり」では何が大切なのかを議論することを目指しました。

2.メディア創造力とは

 「メディア創造力」は、子どもたちがデジタル技術やメディアを活用して、自分なりの発想や創造性を表現する能力を指します。この力は、情報教育を通じて発想力、企画力、表現力などの「豊かな学力」を育成することを目指しています。 

 この概念は、「メディア表現学習を通して、自分なりの発想や創造性、柔軟な思考を働かせながら自己を見つめ、切り拓いていく力」に重点を置いています。情報教育においては、メディア創造力の育成は、子どもたちが情報を扱うスキルやクリティカルシンキング、創造的な問題解決能力などを養う重要な要素となります。特に、情報化社会において子どもたちが主体的に情報を取り扱い、自分の考えを創造的に表現する能力は、未来の社会において重要なスキルと考えられています。

 授業でICTを活用することは、学力の向上に寄与しますが、「学力=狭い意味での基礎・基本」と捉えられがちです。しかし、メディア創造力は、基礎・基本の学習だけでなく、相手意識や目的意識をもち、自分の考えを効果的に伝える能力の育成を目指します。学習サイクルとしては、「相手意識・目的意識をもつ」「見る」「見せる・つくる」「振り返る」の4つの段階が重要とされます。

 この実践では、子どもたちがメディア創造力を発揮し、自分たちの思い出や感情を音楽という形で表現する経験を通じて、これらの能力を実践的に育てることを目的としています。

3.SunoAIについて

まずは、試しに作ってみた曲をいくつか、80年代フォークソングから、バンド、J-POPまで、幅広くカバーしています。

 SunoAIは、先進的なAI技術を活用した音楽生成プラットフォームであり、ユーザーがジャンル、リズム、メロディーなどの条件を指定することで、オリジナルの音楽を生成することができます。このサービスは、アメリカのSuno Incによって開発され、無料版のほかに月額10ドルや30ドルのプランが提供されています。

 SunoAIは、テキスト入力だけで曲、歌詞、歌声を生成することができるという点で革新的です。ユーザーは、歌詞と曲のスタイル、曲名を指定するだけで、自動で歌詞入りの楽曲を作成することが可能です。また、SunoAIは当初、Discord上でのみ動作していた音楽生成AIサービスでしたが、最近ウェブサイトが立ち上げられ、より使いやすくなりました。Discordでは、公式サーバーに参加し、特定のチャンネルでコマンドを使用して音楽を生成することができましたが、ウェブサイトの立ち上げにより、ユーザーはブラウザを通じて直接音楽を生成できるようになりました。

 ウェブサイト版では、操作が簡単であり、Discordアカウントだけでなく、GoogleやMicrosoftのアカウントを使用してログインすることができます。ユーザーはウェブサイトにアクセスし、「Make a song」をクリックして音楽生成のプロセスを開始することができます。これにより、Discordを使用していないユーザーや、Discordの操作に不慣れなユーザーでもSunoAIを利用しやすくなっています。

 教育の現場では、子どもたちが自分の感情や思い出を表現する新しい方法として活用できるほか、音楽制作のプロセスを簡素化し、創造性を引き出すことでメディア創造力の育成を支援する可能性があります。

4.SunoAIの使い方

5.実践のねらい

 この授業の主な目的は、生成AIの活用を通じて子どもたちが自分の感情や思い出を音楽に表現する方法を学ぶことです。SunoAIを使用して、子どもたちは自分自身の思い出や体験を基に歌詞を考え、それを音楽に変換します。このプロセスでは、AIの提案に盲目的に従うのではなく、出力を批判的に分析する能力を養います。例えば、AIが生成した歌詞やメロディーが子どもたちの意図や感情を適切に反映しているかを検証し、必要に応じて修正を加える活動を通じて、子どもたちはAIと効果的に協働する方法を学びます。この実践を通じて、子どもたちはAI技術の可能性と限界を理解し、自分たちの思考や感情をメディアで表現する力を養うことを目指します。

6.実践の流れ

スライドショー

 1年間の学級だよりに使用した写真を集めてスライドショーを作成し、クラスで視聴しました。これにより、子どもたちは過去一年間の大切な瞬間を振り返ることができました。

フォームでの思い出収集

 子どもたちは、自分の1年間の大切な思い出や、歌に使いたいキーワードやフレーズをGoogleフォームに入力しました。以下が、実際のフォームの画像です。

実際のフォーム

ChatGPTによる歌詞生成

 Googleフォームで収集した言葉を元に、ChatGPTを用いて歌詞を生成しました。この活動では、AIの創造的な可能性を探るとともに、子どもたちのアイデアを具体化しました。
 以下は使用したプロンプトを少し修正したものです。収集したアンケートの結果を加えて、ChatGPTに送りました。

### プロンプト: 1年間の思い出をテーマにした歌詞の生成
- **テーマ**:「1年間の思い出」
- **アンケート結果**:
- [アンケート結果をここに記述。]
- **サビに入れるべき言葉**:
- [アンケートで挙がったサビに入れるべき言葉を記述。]
- **スタイル**:
- [望むスタイルや雰囲気を記述。]

### 出力形式:
- バース1(Verse1):[バース1の主題や内容について記述]
- コーラス1(Chorus1):[コーラス1の主題や内容について記述]
- バース2(Verse2):[バース2の主題や内容について記述]
- コーラス2(Chorus2):[コーラス2の主題や内容について記述]

歌詞は、アンケート結果に基づく思い出や感情を反映し、サビには特定のキーワードを取り入れる内容であるべきです。また、各パートの構成に沿った一貫性のある歌詞作成が重要です。

歌詞の確認と修正

 生成された歌詞を子どもたちが確認し、加筆や修正を行いました。このプロセスでは、子どもたちがAIの特性を学び、自分たちの思いをより精確に表現する方法を模索しました。

「先生、”ホタルの群れ”とありますが、蛍は一匹しかいませんでした」
「そうなんだ、じゃあどうしよう」
「一匹だとさみしい」
「”蛍の光”としてはどうですか?」

「”リレーのよろこび”という歌詞がありますが、私たちは3位でした。」
「でも、本番当日が一番タイムが早かったよね」
「じゃあ、リレーのくやしさ、とか達成感、とかにしようか?」

など、1年間の思い出を出し合いながら、歌詞を修正していきました。

SunoAIで音楽生成

 完成した歌詞をもとに、SunoAIを用いていくつかの楽曲を生成しました。子どもたちは、生成された音楽からクラスの雰囲気に合った曲を選びました。

SunoAIの画面、映っているのは試しに作ったチーズあられの曲

音楽の選択

 「元気なクラスだからそれに合う音楽を選びたい」という子どもたちの意見を取り入れ、最終的に1曲を選定しました。

学習eポータル経由で曲の候補を送り、イヤホンを使って曲を聞いているところ(イメージ)

振り返り

 最後に、フォームを利用して学習を振り返り、子どもたちは自己の学習過程と成果を評価しました。この活動を通して、子どもたちは自身の成長と学びを振り返る機会を得ました。
 感想アンケートでは、

「AIで人の心情までは書くことができないから、AIを取り入れながら自分も書くと素晴らしい作品ができて良いと思った。」
「今までの楽しいことがいっぱい入っていたし私達のクラスだけの歌だと思ったので良いと思いました。」
「僕たちのクラスの一年がよく書かれることが重要だと思った。他のクラスとは違うところが書かれていることが重要だと思った。」

など、オリジナルソング作りから得た気づきも多いようでした。

7.成果と課題、今後の展望

創造の民主化 

 この授業実践で最も顕著な成果は、子どもたちがAIを利用して自分たちの思い出を音楽で表現したことです。特に、「私たちのクラスだけの歌」という感覚は、クラスのユニークな特徴や一年間の経験を歌詞に反映させることで得られました。子どもたちが「今までの楽しいことがいっぱい入っていた」と感じることは、彼らの創造力と共感力が発展した証拠です。また、AIの出力に自分たちの思いを加えることで「素晴らしい作品ができる」という認識は、AIの限界を理解し、自分たちの創造性で補完する重要性を示しています。

 AI技術の進展により、「創造の民主化」という新たな段階に入っています。従来、プログラミングや音楽制作などの創造的な活動は、個々のスキルや知識によって制限されていました。しかし、AIの導入により、これらの技術的な障壁が取り払われ、誰もが創造的なプロジェクトに参加できるようになりました。この変化は、子どもたちが自分のアイデアを形にする新しい方法を見出し、創造性をより自由に発揮できる機会を提供しています。

 一方で、全ての子どもがAIの出力を同じように理解し、批判的に分析することができたわけではありません。これは、子どもたち一人一人の理解度に合わせた教育アプローチの必要性を示唆しています。また、「僕たちのクラスの一年がよく書かれることが重要」という声は、子どもたちが自分たちのアイデンティティを表現することの重要性を認識していることを示しており、今後は個々の創造性や個性をより深く反映する教育方法が必要です。

AIとともに創る未来

 今後の展望に関しては、AI技術の進展と「創造の民主化」によって、教育現場での創造的な学びが大きく変化すると予想されます。従来の教育アプローチでは考えられなかったような創造活動が可能になり、子どもたちの学びに新たな次元をもたらすでしょう。

 具体的には、AIを活用した音楽制作やプログラミングなどのプロジェクトに取り組むことで、子どもたちは自分の想像力を実現する新しい手段を学ぶことになります。AIの能力を利用して、より複雑で創造的な作品を生み出すことが可能になり、学びのプロセス自体がより豊かで多様なものになります。

 また、AIの特性を理解し、その限界を知ることも重要です。AIによるサポートは有効ですが、最終的な判断や創造性の発揮は人間に依存するため、子どもたちはAIと協働しながらも、自分たちの個性や考えを重視する方法を学ぶ必要があります。

 将来に向けて、教育者は子どもたちがAIを活用する上で必要なスキルを育成し、個々の創造性を尊重しつつ、より良い学びの環境を提供することが求められます。このようにして、AIと人間が共に成長し、創造的なプロジェクトを通じて未来を形作っていくことになるでしょう。