『暗号解読 下』(サイモン・シン著、青木薫訳、新潮文庫)
前回の上巻に続いて今回は下巻。
あらすじ
上巻は第二次世界大戦のドイツ軍が使用した暗号についてまで扱われていた。下巻では、同じく第二次世界大戦中に、アメリカ軍が使用していた暗号についての叙述から始まる。これは正確には暗号ではなく、ナヴァホという少数部族が使用していた言語だった。これに日本軍は大いに苦戦し、結局解読することはできなかった。
そのまま近現代の暗号について話が進んでいくのではない。
古代文字ヒエログリフや線文字Bの解読をめぐるエピソードが語られる。これらの文字を解読した人たちも、はるか古代の世界に心を躍らせていたようである。
そして、現代、さらには未来の暗号についての話へと進んでいく。
誰もがインターネットに接続している現在、暗号とプライバシーは大きな問題である。しかし、ここで論争が生じるわけだ。
ある人たちは次のように主張する。誰もが強力な暗号を使うことができれば、自らのプライバシーは保障される、と。つまり、犯罪者はもちろん、政府などの盗聴などからも個人情報が守られるということである。
別の人たちは次のように主張する。暗号の使用が制限されればテロリストなどの犯罪者の通信を捜査当局が盗聴し、犯罪を阻止できるかもしれない、と。
自らのプライバシーを守ることを優先するか、それとも犯罪を阻止できる可能性を優先するか。このどちらを取るべきか、という問題である。
しかし、これらの論争に終止符を打つものがある。量子暗号である。量子暗号は解読不可能とされており、これが実用化されればもはやメッセージを誰かもわからない他者に盗み読まれてしまうということはなくなり、暗号の進化は止まる。もし、量子暗号が解読された場合、量子力学には欠陥があることになり、もしそうなったら、物理学は壊滅的な打撃を受けることになるという。
量子暗号が実用化されるのはそう遠くないことかもしれないが、それを市場に流通させるかどうか、という問題が生じてきそうだ。その時、プライバシーの保護と犯罪の阻止可能性のどちらを選ぶのか、それは私たちの選択にかかっているという。
現代の暗号の進化は目覚ましい
下巻になると、暗号の世界でもコンピュータが用いられるようなってくる。そのため、文章中でもコンピュータについての記述があり、若干難しくなった。丁寧に読んでいけば問題なく理解できると思うが。
近現代になってからの暗号の進化は目覚ましいものがあると本書を読んで感じた。一昔前までは最強とされていたような暗号が、今では1日足らずで解読できるようになっていたりする。また、量子暗号という絶対に解読できないとされる暗号の開発も進んでいる。もう暗号の進化が止まろうというところまで来ているのだから、科学の進歩というのは凄まじいものである。
未解読文字の魅力と失われた文化
このように、暗号に関する技術が高度に進歩した現代において、今もなお解読されていない文字も多数ある。線文字Aやインダス文字などといったかつて使われていた文字である。これらの文字は、まだ解読されていないということが魅力にも見えてくる。
一方で、未解読の文字を読み解くことが非常に難しいように、一度失われてしまったような文化を再び取り戻すことがいかに困難なことであるか。このことにも本書を通して想いを巡らせることとなった。
量子暗号はすでに一定の距離間の通信では実用化されているようです。
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