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【前編】子どもが自分らしい人生を歩むために、今必要な「3つの考え方」とは?ーキャリア教育専門家 児美川教授に聞くー

atama+ 教育コラムとは
atama plusは教育を通じて社会を変え、自分の人生を生きる人を増やすことを目指しています。このコラムでは、子どもたちが「社会でいきる力」を伸ばすために役立つ情報を、さまざまな観点からお届けします。  

 

 皆さんはお子さんと、将来の夢について話していますか?
子どもには自分らしい幸せをつかんでほしいと思っているのに、一方で失敗してほしくないという気持ちも当然もってしまいますよね。今回は、キャリア教育の専門家で、法政大学キャリアデザイン学部教授の児美川 孝一郎(こみかわ・こういちろう)先生にお話を伺います。
子どもと将来について話すときの注意点など気になる話題を、前・後編にわたりいろいろ質問してきました。

仕事だけじゃない“生き方”を考えるのが「キャリア教育」

ーatama plusが保護者に行った調査では、約3割の方が「キャリア教育について言葉も内容も知らなかった」と回答しています。そもそも「キャリア教育」って、何ですか?
児美川 孝一郎教授(以下、児美川): キャリア教育とは、子どもたちがどんな人生、生活を送りたいかという“生き方”を考え、それを実現するための力をつける教育のことです。
日本でキャリアというと仕事や職業のうえでの経歴を指すことも多いですが、キャリアというのは本来「これまでどう生きてきて、これから先どう生きていくか」という、人の生きざま全体を表す言葉なんですよ。

「夢」は職業でなくてもいい。その子のペースも大切に

児美川:子どもの「やりたいこと」は、必ずしも職業名である必要はありません。これを実現したい、これで世の中の役に立ちたい、家族を喜ばせたい、自分が住んでいる地域を良くしたい、などでもいいんです。
それに、変化の激しいこの世の中です。今の時点で夢を職業レベルに落とし込んだとしても、将来その職業がどうなっているかわかりませんよね。

ー「やりたいこと」だけでも、早くみつけた方がいいですか?
児美川:いいえ、焦らせないことがとても大事です。自分のやりたいことを早くから見つける子もいれば、まだ自分にはしっくり来ないという子もいます。その子のペースでいいんですよ。

子どもの夢が「ちょっと難しそうだぞ」と思った時は

ー子どもが夢を語ってくれても、例えばプロのサッカー選手になって海外に行きたいなど、親から見るとちょっと現実的じゃないかも……と思った時は、どう対応したらいいのでしょう。
児美川:小学生の時点では、あまり現実的に考えすぎたり否定したりしない方がいいでしょうね。適性があるかどうかは中学生、高校生くらいで自ら気づくし、もし仮にその時点で難しいとなっても、それでもサッカーに関わりたいと思ったら、トレーナーやチームの運営側の仕事など他の道を探ることもできます。
大切なのは子どもの「これをやってみたい」という気持ちを掘り下げて、育ててあげること。何が自分の生き方を見つけるきっかけになるかわかりませんからね。

キャリアデザインを考えるのに必要な「3つのこと」

ーキャリアについて考えるために、必要なことは何ですか?
児美川:私は、3つあると考えています。
1つ目は、“自分自身”をより深く理解すること。自分の熱中できることや得意なこと、大切にしていること、をしっかり見つめましょう。
自分を知るには、人と交わり、他人を鏡にすることが重要です。学校でたくさんのクラスメイトとやり取りをする中で、時にはぶつかることもありますよね。そんな時って、「自分とあの子は大事にしてるものが違う」「自分にはこういう癖があるな」などが見えてきて、自己理解が深まっていくんです。「ちょっと苦手、自分とは違うかも」という人との接点もあえて作った方が、 自己理解も深まるし、経験値も上がりますね。

ーたしかに気の合う仲間とだけ交流するより、成長の機会が増えそうです。
児美川: 2つ目は視点を変えて、“社会”がどう成り立っているかを理解することです。世の中にはどんな仕事があり、働くとはどういうことなのかを子どもなりに捉えます。
時には親御さんが「学校には先生だけでなく、事務をしてる人、給食を作る人もいるよね」「このおもちゃが自分のところへ届くまでに、どれだけの人や仕事が関わっていると思う?」など、少し手助けをしてもいいですね。
最後の3つ目は、1つ目の“自分”と2つ目の“社会”をつないで、「じゃあ自分がこの社会でできること、役立てることは?」と考えることです。
ーキャリアって奥が深いですね。日々の子どもとの会話もとても大切そうです。

後編では、子どものキャリアデザインのために保護者ができることや、「どうして勉強しないといけないの?」という疑問への答えなどを、引き続き児美川教授に聞いていきます。


【児美川 孝一郎(こみかわ・こういちろう)教授】
法政大学キャリアデザイン学部教授。専門はキャリア教育。東京大学大学院教育学研究科博士課程を経て、1996年から法政大学に勤務し、2007年から現職。日本教育学会理事、日本教育政策学会理事。主な著書に、『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)等がある。

 

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