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子どもが幸せに生きるのに必要なのは、自己肯定感より「自己◯◯感」【前編】

atama+ 教育コラムとは
atama plusは教育を通じて社会を変え、自分の人生を生きる人を増やすことを目指しています。このコラムでは、子どもたちが「社会でいきる力」を伸ばすために役立つ情報を、さまざまな観点からお届けします。 

「いい大学に入り、いい会社で働くのが幸せ」。
私たち親世代の多くは、こんな価値観の中で育ってきました。

ですが変化の激しい今の時代、そうした「結果」だけで幸せを語るのには限界が見えてきました。子どもたちには、自分の尺度で幸せになってほしいと思いませんか?

「“ご機嫌”に生きるために必要なのは、他者の評価に依存せず自分軸で考える『自己存在感』です」と語るのは、スポーツドクターで産業医の辻 秀一先生。

多数の企業やプロスポーツで人材育成に貢献してきた先生に、幸せな人生を送るための「自己存在感」についてお話を聞いてきました!

成績や順位を気にするのは「認知的」な考え方

ーatama plusが保護者を対象に行った調査で、「子育ての関心事」の上位は学力や進路でした。子どもには自分らしく生きてほしい一方で、やはり“結果”も気になるのが正直なところです。
辻 秀一先生(以下、辻):成績や順位などの目に見える結果を求める思考を「認知的」思考というんですが、これ自体は文明の発展に貢献した大切な脳の進化で、人間にとって大事なものです。
ただ忘れてはいけないのが、認知的思考は常に他者や世間との比較にさらされた、ストレスフルなものであるということ。つまり、勝ち続けない限り心は休まらないのです。

そのため、認知的思考だけでなく、気持ちや感情など自分自身の“内側”に向く「非認知」思考も使って脳のバランスを保つことが重要なんです。例えば“得意科目”は評価や比較をされますが、“心から好きなこと”は人と比べる必要がありません。どちらも大切にしたいですよね。

自己肯定感が子どもたちを苦しめる?必要なのは「自己存在感」

ー辻先生がご著書で説かれている「自己肯定感」至上主義の問題点について教えてください。
辻:「自己を肯定する」というと聞こえがいいですが、自己肯定感は高いのが良くて低いのはダメ、何が何でも肯定しなくては、という考えに支配されているとすれば問題です。
子どもの自己肯定感を上げるために、「もっと成功体験を積ませなきゃ」「とにかくポジティブなことを探さなきゃ」と思う親御さんがたくさんいます。でもそれって、子どもを追い込むことにも繋がりかねません。

認知的な脳の仕組みによって作られた自己肯定感は、他者との比較や、他者からの評価・レッテル・期待などで作られています。そんな“他人の目”や評価という檻の中で「肯定」を模索し続けるのは苦しいものです。どこまで結果を出し、成功し続けなきゃいけないのか。どれだけ努力しても上には上がいる。結果や外の評価に依存する状態に陥ると、自己肯定どころではなくなってしまうんです。

僕自身も、中高一貫校での勉強、医学部時代のスポーツ、医師としての仕事と、競争の世界で戦いながら自己肯定感を高めようともがいてきました。でもこれってなにか違うぞと30代で気づいたんです。そこから人生の“質”「QOL(Quality Of Life)」について考え始め、キャリアを手放して競争の中でも自由に自分らしく生きられるようになったのです。

ー自己肯定感を上げ続けることには、苦しみが伴ってしまうのですね。
辻: 現代はVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代といわれています。社会の変化が次々と起こって、新たな価値観が生まれ続ける中、他者との比較や認知的な結果に頼る人は、どんどん変わる尺度に振り回されながら生きていくことになります。

こんな時代だからこそ、誰とも比べなくていい、肯定や否定という概念とは無縁の「ただ自分でいること。それだけでいい」という自分らしさを大事にする発想、「自己存在感」を大事にしてほしいんです。
子どもの自己肯定感を上げるよりも、自己存在感を育むことに注力すると、親も子も楽になるはずです。

「自己存在感」がある子どもたちの強みとは?

ー子どもに自己存在感がある状態だと、どんなサイクルが生まれるのでしょうか。
辻:人と比べずに自分らしくいればいいと分かっている子には、生きるエネルギーがあります。

他者と比べる焦りや不安、強迫観念から解放されて、幸せもエネルギーも、自分の中に見つけられる。だから心が整った“ご機嫌”な状態でいられるんです。
すると健康にもなるし、周りとの人間関係も良くなる。パフォーマンスも上がるから自分の力を最大限発揮できて、結局はテストの点やスポーツの順位などの“認知的な”成果にもつながります。
もちろん全員が1位になれるわけではありませんが、その子の力を発揮できるって重要ですよね。

逆に「テストで100点を取る」のような外的評価ばかりを求めて自己肯定感を上げ続けると、自己存在感や自分らしさは失われていきます。生きるエネルギーが外側でしか作られず、言わばいつも“不機嫌”な状態なんです。

ー“結果”だけに視点と価値を置くのではなく、まずは自己存在感に置くことが大切ですね。
辻:自己存在感をしっかり持てると、自分がどうありたいか、自分は何が好きで何をしたいかなど、自分の内側を見つめる力も伴ってきます。すると子どもは“自分のために”という内発的なモチベーションで、積極的に動けるようになります。
自分らしさや「好き」を求めながら、主体的に変革や成長をし続けることができる。これこそ、人間が生きる上で大事なことだと思いませんか?

ーまさに、その子らしい幸せな生き方ですね!

後編では、子どもが自己存在感を持てるようになるために「親にできること」についてお聞きします。


【辻 秀一(つじ・しゅういち)先生】
スポーツドクター。産業医。株式会社エミネクロス代表取締役。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学病院内科、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターを経て独立。応用スポーツ心理学とフロー理論を基にした「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 ベストセラー『スラムダンク勝利学』(集英社インターナショナル)、『自己肯定感ハラスメント』(フォレスト出版)など著書多数。

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