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虚から実を産む苦しみ 『ぐうたら娘更生計画』におけるサイバーステップの苦労を想う(ネタバレ感想&エロ要素有)


前書き

 サイバーステップがPandaShoujo作品として全年齢向けに移植しているエロゲーは複数のブランドから選ばれているが、これらの母体は同じでライドオンワークス株式会社という。違うブランドなのに同じキャラクターデザイナーやシナリオライターが定期的に出てくるのも、全体的なグラフィックの塗りが似ているのもスタッフが共通しているためだ。
 ライドオンワークス系列が手がけたゲームは非常に多く、その中にはたまに首をかしげるようなクオリティのものが出てくる。この記事ではそんな話をしたいと思う。
 今回紹介する作品は2024年2月8日に配信された『ぐうたら娘更生計画 ~Neet Girl Rehabilitation Plan~』だ。原作は2021年11月26日にカルサイトより発売された『ニート娘を更生させよ! ~性技があれば生きていける~』(公式サイト。18禁なのでアクセス注意)。いつものように元になったゲームを原作、PandaShoujo製はPS版と記述する。

原作について

 原作のあらすじ
>働かざる者、ニート。
>それは年々増え続け深刻な数となり、社会問題へと発展した。
>そこでニートの数を減らすための企業が多く登場した。
>公設民営の「ニートを更生」させる為の機関。
>主人公はそこで訓練を受けた正式なニート更生員だ。
>「お兄さん誰? お医者さん?」
>「いいえ。貴方を治療するのではなく、更生させるために来ました」
>「まあ、誰でもいいよ。一人でするのも飽きてきたから」
>そう言って、ニート娘は不敵に笑う。
(公式サイトより一部引用)

 すっかり定着してしまったニートという言葉だが、これは年代によって定義が微妙に異なっている。ただ大まかに言うと『就学も就労もしておらず、また就労意思のない人』のことを指すとされている。

 本作はそんなニートを社会復帰させるニート更生機関の職員が主人公であり、自分が受け持った担当の3人のニート女性を相手にどうにか就職や復学(後述)させるために奮闘する物語だ。
 以下が登場人物紹介となる。4人しかいないのですぐ終わる。

  • 夏目 愛衣(なつめ めい CV:柚原みう) 就職活動の際、面接で立て続けに断られたことで就労意欲がなくなりそのままニートに。放任主義の親に育てられ、ぐうたらな大人になってしまった。あまり感情を表に出さないタイプで、何を考えているのか分かりづらい。

愛衣
  • 弓槻 鏡(ゆみつき かがみ CV:月永りと) 女子大生ニート(?)。大学には在籍しているが通っていない。入会したサークルで意図せずオタサーの姫となってしまい、結果サークラを引き起こした事で人間不信になり通学しなくなった。被害妄想が強く、些細な言葉も攻撃と捉えてしまいがち。

  • 須田 楓子(すだ かえでこ CV:榎本ねむ) 学生ニート(?)。学校に在籍していて登校こそしているが、授業は受けていない。見た目は幼く甘え上手だが、他人に甘えるより甘えられる方が好きらしい。洞察力や推理力がやたら高く、またゲームも上手い。

楓子
  • 三木 祐太朗(みき ゆうたろう) 主人公。ニート更生機関の新人職員。ニートの数が増えてきたため、新人にも関わらず3人も同時に担当する羽目になってしまった。

 どうも本作の世界ではニートの定義が一般社会と違うようで、不登校や学校に通っているが授業に出ていない、いわゆる保健室登校をしているような人間も『ニート予備軍』として復学させるよう更生員が請け負っているらしい。そういうのはスクールカウンセラーの仕事なのではないかと思うのだが、鏡曰く「カウンセラーは役に立たない」とのことだ。

 三木は新人ではあるが成果を求められており、担当している3人のうち誰でもいいから社会復帰させないと進退に関わることを知らされる。というわけでそれぞれのヒロインの元に行って社会復帰に向けた打ち合わせをするのだが……。
 このゲームはとてつもなく空虚だった

いびつな作品

 ストーリーの流れとしては

  • 三木がヒロインの元に行って会話、選択肢を選ぶ(場合によってはエロシーン有)

  • どのヒロインのルートに行くか決める選択肢が出てくる。『ハズレ転生』と同じシステム

  • 個別ルートに入った後にED分岐

 以上である。ヒロインごとに3つ、または2つのEDがあるのだが、全キャラ必ず風俗嬢になるEDがあるということに驚いた。
 一番の問題点はボリュームが少ないところだ。文章量が少なく、1ルート終えるのに1時間かからない。数時間もあれば全部のEDを回収できてしまう。ボリューム不足の原因は主人公と各ヒロインとの交流が短いことで、ニート脱出のための努力シーンも少ないため余計にスカスカになってしまっている。主人公の三木をはじめとしたキャラクターに愛着を持ったり感情移入したりする間もなく、気づいたらルート選択になっていてEDを迎えている。

 各ヒロインのEDについても記載しておく。愛衣・鏡は3ルート、楓子は2ルートのEDがある。

  • 愛衣ルート 面接に対してやる気を見せなかったのは、就職してしまうと三木と離ればなれになってしまうのが嫌だからだった。

    • 社会復帰ED:就職した愛衣は順調にキャリアアップしていき、3年後には三木の職場に転職してくる。三木と愛衣は正式に交際する事に。

    • ニートED:三木が愛衣に惚れてしまい、愛衣と結婚する。結婚しても愛衣は何もしないぐうたらのままだが、幸せだからよしで満足する三木。

    • 風俗嬢ED:やりたい仕事がないなら風俗嬢でもどうですかと提案する三木。天職だったらしく愛衣は人気風俗嬢になる。

  • 鏡ルート 実は難病を患っている事が判明する。徐々に視力が落ちていき失明する病気だった。手術には莫大なお金がかかるらしい。

    • 社会復帰ED:親に金を借りて手術し、病気を克服。大学をやめて就職し、三木とは本格的に交際こそしていないもののいい仲に。

    • ニートED:三木と相思相愛になった鏡。三木は自分の金で手術を受けさせ、鏡の目はよくなる。社会復帰はめざしているが三木の元でもうしばらくニートを続ける予定らしい。

    • 風俗嬢ED:手術代を稼ぐために風俗嬢になる鏡。稼いで目の手術をした後はAV女優に転身する。

  • 楓子ルート 成果が出ない事に焦り始めた三木に対し、楓子は自分の立場を利用して肉体関係を要求してくる。

    • 社会復帰ED:アプローチを受けて楓子と付き合う事になった三木。楓子は就職し、三木と同じニート更生機関で職員として一緒に働く。

    • 風俗嬢ED:手っ取り早く金を稼ぐために学校を辞めて風俗嬢に。大金を稼いだ後、うだつの上がらない三木の元に現れる。駄目な大人が好きなため、三木に改めて交際を申し込む事に。

 正直な話、いろいろと雑であることは否定のしようがない。三木は愛衣と両思いなのに風俗嬢を勧めるというのもおかしいし、鏡は親に金を借りられるはずなのに手術代を稼ぐため風俗嬢になるなど設定に矛盾がある。そもそもなんでみんないきなり風俗嬢になるのか分からない。
 また立ち絵をはじめとしたグラフィックも、お世辞にもクオリティが高いとは言えなかった。エロシーンのCGにはどういう姿勢なんだこれみたいなものも混じっているし、楓子は普段の立ち絵の変なポーズも相まってなんだか怖い。立ち絵とエロシーンで別人みたいな見た目になっているし不気味だ。

なんか怖い楓子。表情以外に差分がないため常にこのポーズ

 それ以外にも普段ならキャンセルになっているはずのマウスの右クリックが左クリックと同じ決定になっていたり、バックログやメッセージウインドウを消すのにもいちいちアイコンをクリックしないといけなかったり、楓子ルートで特定のフラグを立てた状態でシナリオを進行するとゲームの最序盤にループするバグがあるなどシステム的にもおかしな点が満載だ。
 いろいろ調べていて気づいたのだが、某KOTYeの2021年版にこのゲームがエントリーされていた。本作の全方位的な品質の低さ、作りの粗さを考えるとそれも宜なるかなと思った。サイバーステップの移植作と原作を比較する記事を書き始めて、ここまでクオリティが低い作品に当たったのは初めての経験だった。これに定価7,480円を払うのはかなりの冒険だ。

おまけ

 このゲームにはノベライズ版がある。設定やキャラクターの深掘りがされているのかと思って電子書籍で購入してみたのだが、1ページ目から見覚えのある文章が並んでいた。小説というより『書き起こしたゲーム内のテキストにアレンジを加えたもの』だった。さすがにこれには驚いた。

原作プロローグその1
ノベライズ版本文1ページ目その1
原作プロローグその2
1ページ目その2

 大半がゲームと全く同じテキストの上、三木の心情などもほとんど補足されていないためキャラクターの掘り下げになっていない。唯一よかったのはエピローグで、社会復帰EDを迎えた3人のヒロインが一同に介して三木を囲んでワイワイやるというオチになっている。これはゲーム内にはなかった描写であり、こういうパートを小説にも本編にももっと増やして欲しかった。

PS版でどう変わったのか

 今まで散々書いた通り、原作は品質に問題のある空疎な内容のゲームだった。それがPS版ではどのように改変されたか、大まかにまとめていきたい。

  • キャラクターの内面に対するブラッシュアップ 三木と各ヒロインの交流パートが増えたことで、新人の三木が仕事や将来に対している不安を吐露したり、各ヒロインの抱えている思いが詳細に分かるようになった。三木自身が他人を救ってやれるほど優秀な人間ではないと自覚するシーンもあり、また祖母が入院していて介護問題を抱えていることも示唆される。

    • 愛衣が今まで失敗してきた経験談を三木に話す。コンビニバイトを3日でバックレた経験を話し、自分に価値がないと嘆く。そんな愛衣に対して三木は「全ての人間には個性がある。個人の個性と会社の個性が合致して、物理的であれ非物理的であれ、価値を社会に提供する。価値は必ず自分か環境の側が見つけ出す。そのうちね」とアドバイスする。

    • 鏡の大学時代に入っていたサークルの話について詳細が語られる。文芸サークルにいたが、男子からは好意を向けられ女子からは妬まれていた。そして最終的に人間関係が破綻してしまった。また企業説明会に行ったご褒美として漫画喫茶でデートをする事になるが、ソフトクリームをどっちが持っていくかとか、注ぎ方の綺麗さで張り合ったりといちゃつく。普段ツンケンしている部分もありながら、心を許した相手に対しては甘えるツンデレ(死語だろうか)キャラクターが確立された。難病にかかるのは原作と同じだが、こちらは治療代を捻出するために鏡の家族を含めて皆が努力するシーンが挟まれている。

    • 楓子はミステリアスな部分が増えた。原作だと最初に会った時点で三木を格好いいと褒めそやしていたのだが、PS版では「いきなり会った人間を信用出来ない」と言い放つ。自分たちニートの事を客観視している楓子は「私たちって、泥の中にぬかるんでいても『誰かに助けて欲しい』って思っているんです。誰か魅力的な人に導いて欲しいって」と言う。楓子はセリフがかなり増え、三木のブレーンのような立場になっている。ちなみに原作の立ち絵の変なポーズはPS版でも変わっていない

  • ニート更生機関で働く人々について 原作では同僚や上司のセリフが少々あるくらいだったが、こちらもだいぶパワーアップした。ニートが病院にかかりたがらない理由は医療費のためだと教えてくれたり、上司が指定難病患者への医療費助成制度について調べてくれたり。更生のやり方は人それぞれで、ニートも十人十色なので皆苦労している。とりあえず仕事に就かせてそれで終わりという職員も多い。

  • スチル絵の一新 原作のCGはほぼエロシーンだったので、PS版ではほとんど削除。一部は残っているが修正されて全年齢対象になっている。日常パートを切り取ったようなCGだが、クオリティは原作と大差なく人体がグニャグニャになっていたり、ゲーム内の立ち絵と別人みたいになっている物も多い。

背骨がえらいことになってそうな愛衣
  • EDの改訂 風俗嬢EDは軒並みカットされ、各ヒロインにつき1つのEDのみになった。原作と同じくどのヒロインのルートを選ぶか選択すると分岐し、あとは一本道である。全員基本は社会復帰EDなのだが、流れが大きく異なっている。

    • 愛衣ED:原作の社会復帰EDと同じくキャリアアップした後に三木の職場に転職してくる。しかしそこでニートを更生させる仕事の過酷さに直面し、挫折してしまい退職する事に。しばらく三木の元でニート生活を送るのかと思いきや実家に帰り、次の仕事を探すまでの充電期間としてのニート生活に入る。ただぐうたらするためではない、前向きなニートである。次の仕事が見つかったら三木と一緒になろうと約束する。原作の社会復帰EDとニートEDを混ぜ合わせて新しいEDにしている。

    • 鏡ED:大学時代文芸サークルに入っていた経験を活かし、就職が決まった後にライトノベルを執筆していた鏡。三木に読ませたところ面白いというお墨付きを得たので新人賞に応募する。あっという間にプロの作家としてデビューした鏡だが、それと並行してパワハラやサービス残業の多い会社を退職してしまう。しかし編集者から「仕事は辞めない方がいい」と言われていたため、作家をしながら新しい仕事を探すことに決める。売れっ子作家になっていく鏡を見ながら、三木も自分の仕事を頑張る事を決めるのだった。実を言うとこのEDには、原作の風俗嬢EDのオマージュのようなシーンも含まれている。

    • 楓子ED:一番ヤバイED。学校を中退して三木の勤めるニート更生機関に就職してきた楓子。楓子は学生時代から暗号資産と株取引で多額の資産を有しており、三木に金を見せびらかして「駄目な大人が好きなので、三木さんと交際したい」と言い出す。一度は断ろうとした三木だったが、提示された金があまりに高額だったため誘惑に負けてしまった。更生員になった楓子は辣腕を振るい、心にも無い嘘をつきまくってニートたちを更生させる。時には自腹を切って金を与えたり、人脈を使って有名人に会わせたりと無茶なやり方で更生させていくが、楓子本人はニートを救う事に何の興味もなかった。ただ駄目な人間を近くで見ていたい、という欲求のために働いているだけで、三木もその駄目な人間の一人だった。三木と結婚してもそれは変わらず、「これからもずっと駄目人間のままでいてね」でED。正直一連の展開がホラー過ぎて怖かったし後味も悪い。原作の楓子は多少勘のいい小悪魔キャラだが、PS版では悪魔のような女になっている。

 今回の作品にも、ゲームシナリオライター『おおるりしん』氏が関わっている。追加されたテキストは相変わらずのおおるりしん節であり、どこか世の中を悲観・達観したような、そして自分の事にも関わらずどこか他人事のような、そんな独特のテイストがちりばめられている。

愛衣に対して自分の考えを伝える三木
ちなみにこの後の三木の台詞は
「その上で、多少はマシな地獄を選べるようになると、楽ですよ」
自身が無能であると自覚した三木。同僚は自分よりちょっとだけマシな無能だった

終わりに

 両作をプレイし終えて。この原作をベースにPandaShoujo作品として全年齢向けにしてください、と言われたとき、スタッフはどういう気持ちだったのだろうと考えてしまった。少なくともPS版で追加された部分では、恐ろしく空虚な内容だった原作をどうにか膨らませて一本のADVとして成り立たせようという気概を感じた。実際原作と比べて遥かに高い完成度になってはいるのだが、やはり土台が土台だけにどれだけカスタマイズしてもどうにもならない厳しさを感じてしまった事は否めなかった。元から0なものを1にするのは、とても難しいことなのだろう。

 何はともあれ、『ぐうたら娘更生計画 ~Neet Girl Rehabilitation Plan~』の開発に関わったスタッフの皆様、大変お疲れ様でした。

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