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サイバーステップの送る怪作ADV「宿主ガードマン」と原作ゲームの差異、また両者の感想(ネタバレ&エロ要素有)


前書き

 サイバーステップがニンテンドーSwitch向けに出している『PandaShoujo』というプラットフォームがある。これはいくつかの18禁ゲームブランドのゲームをSwitchやPCで遊べるように性的表現を極力削り、UIを共通化させて移植したものである。昔から18禁ゲーム、つまりエロゲーからエロを無くしてCSに移植させるのはいくらでもあったので、特段珍しいことでもない。
 ただ、PandaShoujoとして移植するゲームは原作が主に『抜きゲー』であることが多く、修正するにしてもどうすればいいんだこれみたいなガッツリエロが入っているものばかりだ。その結果いざSwitchにやってきたら原作ゲームでは竿役だった男がヒロインに手を出さない紳士になっていたり、ぶっかけ好きな主人公がただ「濡れた女の子が好きなので精液じゃなく水をぶっかける」男になっていたり、媚薬を飲ませて発情させた女性を見物するだけで何もしなかったり。時にはキャラだけでなく舞台設定ごとガラリと変えてみたりと、移植するに当たって苦労しているのが分かる。それがPandaShoujo作品なのだ。

宿主ガードマンと原作の違い

 今回紹介したいのはサイバーステップから2023年12月14日に配信された『宿主ガードマン』。e-shopの説明書きには『「インカローズ」ブランドより2017年に発売された』とあるがこの記述は間違っており、正確には2016年1月29日にアーテルから発売された『淫触の産声 〜禁忌の胤で孕む娘たち〜』が原作となっている。タイトルからは分かりくいかもしれないがいわゆる触手物である。
 ちなみにアーテルの公式HPはもう無くなっているようで、リンクを張る事が出来ないことを謝罪させて頂きたい。原作タイトルで検索すればDL販売サイトが引っかかるようになっている。

原作のあらすじ
>ある日、仕事がうまくいかず夜の公園で飲んだくれていた主人公、藤田雅人。
>泥酔していた彼を物陰から襲ったのは、ウネウネと蠢く不可思議な生物だった。
>それから雅人の体には異変が起きた…。(FANZAの説明欄より一部抜粋)

対して宿主ガードマンのあらすじ
>夜よりも、なお暗いように思える闇の中。
>目をこらして見ると、なにかが蠢いている。
>俺を待ちかまえている。
>俺はそのケースを開け――そして一息に、中身を吞みこんだ。
>……意識が落ちた。(e-shopの説明欄より)

 この時点でノリが少し違うことが分かると思う。実際に原作と宿主ガードマン(以後PandaShoujo版:PS版)の主な相違点をざっと挙げようと思うが、その前に登場人物の簡単な紹介だけしておく。双方に共通する登場人物は主人公を入れて4人しかいないのですぐ終わる。

藤田雅人(ふじた まさと):主人公。会社勤め。お酒が好き
早苗(さなえ):ヒロイン1。おっとりした性格で敬語で喋る。家事全般が得意。
葉月(はづき):ヒロイン2。早苗の妹。勝ち気でわがままな性格。姉妹仲はよい
美咲(みさき):藤田と同じ会社に勤める女性社員。「~っす」という語尾が特徴。とらえどころのない性格。

 以下が原作とPS版の大まかな相違点となる。

・キャラグラが違う
 最初に目に付いたのがこの点である。イラストは原作・PS版とも備後伯爵氏なのだが、PS版に当たって一部リファインされており、早苗と葉月は背が高くなって目が大きくなっている。原作よりPS版の方が大人びて見えるようになった。葉月は原作より胸が小さくなったが露出は増えた。以下に各ヒロインの原作・PS版のグラフィックの画像を載せておく。

原作早苗
PS版早苗
原作葉月
PS版葉月
原作美咲
PS版美咲

・設定が違う
 原作とPS版でヒロインの名字が違う。原作だと早苗と葉月は藤田の娘であり名字も同じ『藤田』なのだが、PS版では藤田とシェアハウスをする姉妹で名字は『香乃』となっている。つまりPS版は赤の他人。

・キャストが違う
 原作は早苗の声が箱森ゆめ氏、葉月と美咲が柿沼るい氏の兼役だったのだが、PS版は早苗:月永りと氏 葉月:一橋にと氏 美咲:よもぎかすみ氏 とそれぞれ違うキャストになった。早苗の声は原作の方が年上に聞こえる。

・ストーリーが違う
 最大の相違点がこれである。原作に対してPS版はテキスト及びストーリーにかなりのブラッシュアップが施されている。日常会話の小ネタや当時流行っていたが死語になってしまった台詞の改編(激おこぷんぷん丸→削除 葉月の学園の教授がVtuberをやっている設定の追加)、原作にいなかったキャラクターの登場もあり、またストーリーの展開にいたっては原作とはかけ離れている。

原作は一体どういうゲームなのか

 原作の流れとしてはこうだ(ネタバレ有りなので気をつけて欲しい)。

  • 夜中飲んだくれていた藤田に謎の生物がとりついてしまい、藤田の体は変貌。触手人間となった藤田は強い繁殖衝動の赴くまま自分の娘に手を出してしまう。

  • 娘のどちらに手を出すかでルートが変わる。早苗ルート、葉月ルート、姉妹ルートと美咲ルートの計4ルートあると思う、多分。CG回収を100%までやってないので断言出来ないが。

  • 一応美咲ルートではなぜそんな謎の生物がいたのかという理屈は判明する。全ルート通して完全にめでたしめでたしと言い切ることは出来ないオチがつく。

 購入して3時間かそこらで4ルート見ることが出来たので、ボリュームとしては少ない方ではないだろうか。基本的に藤田が酒を飲む→衝動に任せて娘に手を出す→藤田が酒を飲む、の繰り返しであり、アル中のDV親父みたいになった藤田をずっと見る羽目になる。
 個人的に気になった点が2点ある。

  • 自分の体が化物になってしまったのにほとんど気にするそぶりを見せない藤田

  • 父親が化物になってしまったのに大して気にしていない娘二人

この2つだ。
 藤田は触手人間になってしまった割に悩むことが少なく、病院に行こうとも考えない。ただ日々酒を飲んで娘に手を出して酒を飲む、を繰り返すだけである。
 娘の態度もおかしい。ある日突然父親が化物になってしかも自分を犯したにも関わらず、朝起きたら挨拶しご飯を作り、ごく普通に接する(特に姉の早苗は状況の適応能力が高すぎる、あまりに落ち着きすぎているため最初に犯されたときに心が壊れたのかと思った)。娘達も父親を病院に行かせようなどとは考えない。妹の葉月は最初こそ嫌悪感丸出しだったもののそれでも警察に頼ろうなどとは考えず最終的には藤田に丸め込まれる。
 もう藤田の触手には常識的にものを考えられなくなる効果のある液体を分泌する力があるとでも考えないと辻褄が合わない

 これをニンテンドーSwitch向け、つまり一般のご家庭向けに出すには相当な魔改造が必要だろう。何しろ酒飲んで娘犯すしかしてないゲームだからだ。そこで出てきたのがPS版、つまり宿主ガードマンという作品だ。

宿主ガードマンとは一体どういうゲームなのか

 PandaShoujoのプラットフォームでこの原作を出すとなった時にスタッフが取った行動は「根本からのシナリオの改編」だった(ネタバレ有なので気をつけて欲しい)
 PS版の流れとしてはこうだ。

  • 大規模災害によって区画整理の行われた未来の東京。茅道区という新しく出来た区に住む藤田雅人は、シェアハウスで香乃早苗・葉月姉妹と3人で暮らしていた。藤田はとある会社で警備関係の仕事を、早苗と葉月は親元を離れて学園(曖昧な言い方だがおそらく姉の早苗は料理の専門学校、葉月は大学)に通っている。藤田の会社は国からの支援を受けて何かしら後ろ暗い行いをしている模様。

  • 藤田は同僚の美咲からの誘いもあり、昇給に釣られて自分の会社が行う極秘実験の被験者になってしまう。治験くらいの感覚で気軽に引き受けたその実験は、地球外生命体である触手生物の細胞を体内に寄生させ、人工的に触手人間になるというものだった。恐怖で断ってしまう藤田。これを飲めばいつでも触手人間になれますよ、と細胞の入ったカプセルだけ渡される。

  • かつて藤田が警備員の勘で通報した不審者が詐欺グループのメンバーであり、藤田のおかげで逮捕に繋がったことがあった。その詐欺グループ『イッカク』の残党が藤田を逆恨みし、シェアハウスに襲撃をかけてくる。この先は早苗ルートか葉月ルートかで展開が変わってくる。

 共通ルートだけでもこの変貌ぶりである。少なくとも原作には

  • 藤田が会社で何の仕事をしているかの具体的な言及

  • 過去に起きた大規模災害

  • 詐欺グループ『イッカク』

  • 美咲は得体の知れない業務についており、日によって藤田の上司だったり部下だったりコロコロ役職が変わる。藤田の予想では「スパイ狩り」

  • 企業の手によって管理されている触手生物と、その細胞を寄生させて人工的に触手人間を作る

 といった展開はなかった。最後の点に関しては原作にも多少それっぽい展開があるのだが、大筋が全く異なっている。

 この後の展開もざっとではあるが記しておこうと思う。

早苗ルート編

  • 『イッカク』の残党を退治した藤田たちだったが、彼らのボスである通称『片翼』と呼ばれる犯罪者は藤田たちを恨んでいた。片翼は早苗を付け狙い、葉月や彼女たちの母親の名前を出して脅迫しおびき出す。何者かの手によって触手人間となっていた片翼は触手を使って早苗に毒を注入、助けに来た藤田の手によってなんとか早苗を助け出すも自らも毒を受け、片翼は取り逃がしてしまい瀕死の早苗だけ残される。

  • 自身が触手人間になれば早苗の毒を取り除けるかもしれないと知らされた藤田は隠し持っていたカプセルを飲み触手人間に。早苗から毒を取り除くことには成功したが、その際に体内の大部分を自身の触手と入れ替えてしまったため、早苗はガワは人間だが中身は触手人間と大差ない怪物になってしまう。

  • 藤田は町中に触手の『根』を生やし、早苗にやったことの落とし前を付けさせるために片翼の情報を収集し始める。その際藤田は転びそうになった老人を触手でこっそり助けており、また自身が地中に触手の根を張ることで草花を枯らしてしまうことにも心を痛めている。藤田は体こそ怪物になっても心は人間のままであった。

  • 片翼に触手を与えたのは藤田が勤めていた会社であった。美咲もグルになってなんとかして藤田を触手人間にさせようとしていたのだが、失敗に終わったので片翼に触手を与えたのだ。それを知った藤田は激怒、触手の力で会社を破壊し美咲や片翼も始末する。

  • 元凶を取り除いたかと思っていた藤田だったが、早苗が自らに起きた出来事を知ってしまい絶望してしまう。葉月から『その触手の力をどういう風に使っていきたいのか』と問われた藤田がたどり着いた答えとは。

藤田の運命を決める台詞

 ラストまでは記さなかったが概ねこんな感じの内容になっている。『人でなくなった主人公ではあるが心は人間のまま、怪物の力を使って巨悪と戦う』というダークヒーロー展開が待ち構えていた。原作の飲んだくれ親父だった藤田とはずいぶんな違いだ。ちなみにラストはダークヒーローらしい、なんとも言えないしんみりとした結末を迎える。『個人が過ぎた力を持ちすぎるとこうなる』という、ある意味藤田自身も予想出来なかったオチである。

葉月ルート編

  • 『イッカク』の残党によるシェアハウス襲撃から数日後。葉月の通う学園で教鞭を執るロジェラ教授が、葉月に頼み事をしてくる。藤田が会社から秘密裏に与えられた生物の細胞を持っていることをなぜか知っている教授は、同居人である葉月にその生物の細胞を盗んでくるよう頼む。多額の現金を渡され半ば無理矢理協力する羽目になってしまう葉月。

  • 藤田が仕事で留守にしている間に家捜しして細胞を見つけようとする葉月。結局目的のものは見つからず、姉の早苗に見つかってしまうがなんとかごまかすことが出来た。

  • 藤田は自分の留守中に自室に何者かが侵入したことに気づき、隠し持っていた触手生物の細胞を処分してしまう。藤田は侵入した人間が葉月であると勘付いて問い詰める。葉月はロジェラ教授にそそのかされてやったことを白状する。大金があれば母親にクルーズ旅行をプレゼントしてあげられる、という親を思っての行動だった。

  • 藤田の会社はロジェラ教授の行動を察知しており、葉月の存在にも気づきかけていた。藤田は早苗と葉月を高飛びさせるよう言い、ロジェラ教授の身辺調査を敢行する。しかしロジェラ教授は何者かの手によって殺害されてしまった。

  • ロジェラ教授は外国のスパイであり、藤田の会社から秘密を盗み出そうとしていた。教授を殺害したのは会社に雇われた『片翼』であり、片翼は子分の詐欺グループ『イッカク』のメンバーを逮捕に追い込んだ藤田を恨んでいた。触手人間となっていた片翼は藤田を殺そうと執拗に追跡を始める。

  • 片翼の手によって早苗と葉月は捕まってしまい、会社へと拉致される。藤田も片翼との戦闘で重傷を負うが、なんとか車の事故に巻き込むことで片翼を始末することに成功した。藤田は片翼の体から飛び出た触手を食べることで触手人間に変貌、早苗と葉月を助けるために会社へと乗り込む。

  • 葉月は触手との適合率が特別に高い人間であり、会社側の実験によって触手を埋め込まれてしまう。その力は強大で、葉月は周囲の人間を触手によってゾンビ化させて手下のように操りながら大暴れを始める。そこに現れた藤田に対し、葉月は今まで心の中に積もっていた本音を吐露し始める。

 概ねこんな感じの流れとなっている。葉月ルートの一番の見所は最後の藤田と葉月の会話だと思う。自分の欠点を自覚しつつも素直になれず居場所がないと嘆く葉月。「みんなの普通の生活ってね、『普通じゃない人間』を排除して成り立ってるんでしょ!? ウチはどこに行けばいいの!?」この台詞にはぐっときた。そしてそれに対する藤田の台詞。「『普通』に対して迎合出来ないくせに『普通』に認めてもらいたくてグズってんじゃねえよ」。ここから先も藤田の熱い台詞が満載である。

藤田の心からの叫び

 葉月は年は取っていても、やっぱりまだ子供だったということだ。自身が身勝手なことを言っていることも、多分心の中では気づいていたのだと思う。それでも他人が押しつける『普通』に耐えられなかったが、藤田や早苗との対話を通して現実と折り合いを付け、先に進んでいく決意が出来たのだ。それはラストで葉月が取ったとある行動を見れば分かる。
 葉月ルートはサスペンス物っぽい前半と、熱い人間ドラマの後半で構成されている。香乃家は父親がいなかったので、叱ってくれる藤田は葉月にとって父親の代わりでもあったのだろう。原作だと実父の上にクズだが。

感想

 大雑把にまとめたが、原作、PS版ともにこんな感じのゲームである。
 原作に関しては正直なところ、私自身がエロゲーの文脈にあまり慣れていないこともあり、『使う』ことは出来なかった。触手モノという人を選ぶ題材な上に行為の最中の台詞が実況っぽかったりバカっぽかったりで困惑した。興奮すると口調がおかしくなって「ふむ、誰も触れたことのない乳房が熱うなってきたではないか?」「さあここでさらに、両乳首にいのちの精をお注ぎ申す!俺の精をな!くっくっく」といった悪代官みたいな台詞を言い出す藤田を目にしたときの当惑はなんとも言いがたい。
 安易なパロディ(ジョジョネタが多かったがカイジの「キンキンに冷えてやがる…」とか孤独のグルメの「何て言うか救われてなきゃダメなんだ」、「これで勝つる!」といったブロント語もあった)もいらなかった。前述の展開の雑さも相まって、これに定価の7,000円を出すのはかなり冒険だったと思う。

 PS版に関しては先に原作をやっていたということもあり、「よくあのゲームをこんな魔改造したな」というのが最初の感想だった。内容に関してはダークヒーロー物の早苗ルートと人情物の葉月ルートとどちらもよく出来ている。シナリオのボリューム自体はそこまででもないが、展開の派手さや時に無機質とも思える独特の台詞回しなど、見ていて飽きさせない。単純にADVとしてよく出来ている。
 そんなゲームなのだが、作中で尋常でない災害が起きて何人も人死にが出ているという要素は必要だっただろうか。早苗ルートでは作劇上の藤田の立ち位置からして必要かもしれないが、葉月ルートでは災害が起こるまでの展開と起きている間の状況が滅茶苦茶である。作中でも突っ込まれていたが、なんであんな物を町中におっ立てようとしたのか不明だ。現実で例えるなら新宿駅の西口に牛久大仏より大きな初音ミクの像を建て、24時間『みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』を流し続けるようなものだ。この建築を計画した人間、GOを出した人間、資金を提供した人間、施工に関わった人間、そしてこれを建てる事を許容した住民全員頭がどうかしているとしか思えない。
 ラストについては葉月ルートがやや唐突に感じた。葉月と別れ、場面転換で早苗が藤田の元に現れ会話し、その後モノローグで締めなのだが、もう少し余韻に浸る間があってもよかったかなと思った。あと、作中で出てきて明らかになっていない謎(ロジェラ教授のノートの意味、濁雲災害、触手生物の出所など)もいくつかあるのでそれも気になった。とはいえ上記の不満点は全体の完成度から比べれば些末な物なので、安心してこのゲームを楽しんでもらいたい。

終わりに

 PandaShoujoのゲームは定価が安く、宿主ガードマンも1,980円という低価格だ。なおかつ定期的にセールをやっているので、安くなった時にでも手に取ってみてはいかがだろうか。『触手人間になって娘を犯すエロゲー』を一般向けにしたらダークヒーロー物になっていた、そんなゲームを遊んでみるのも乙なものである。お財布に余裕のある方は原作のゲームも一緒に遊んでみて、違いを比べて見るのも一興だろう。

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