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読書感想文 「可燃物」米澤穂信

自分で設定した夏休みの宿題で、やると宣言していたので書くことにした。しかし、夏休みの宿題といえど、せっかく先生のことを気にせずに書けるので、なるべく学校の宿題では書かないようなことも自由に書いてみようと思う。


「可燃物」はこの夏に入って初めて買った本だ。僕の好きな作家である、米澤穂信さんの新刊で、本屋に行ったときたまたま目に入って買ってしまった。久しぶりに本屋で新刊を買ったので、レジで値段にびっくりしてしまった。ハードカバーの新刊ってこんなに高いんか。しかし、本に使う金をけちる大人になりたくないので歯を食いしばって購入した。

本の内容としては、警察物のミステリである。米澤穂信さんは高校生が主人公の若者向けの本と、大人が主人公のちょっとシリアスな本と、二種類書かれるのだが、これはシリアスな方。主人公の葛警部は、事件解決を何より優先するため、周りとの人間関係は良好というわけではないが、とても有能な刑事だ。そんな葛警部のもとに、一筋縄ではいかない事件が舞い込む。この本は、5つの事件がそれぞれ短編として収録された短編集となっている。

まず、ミステリとしてはとても丁寧だと思った。ミステリにはいろいろな謎の種類があるが、大きなジャンルとして下の3つがある。
フーダニット(who 誰がやったか)
ハウダニット(how どうやってやったか)
ホワイダニット(why なぜやったか)
それぞれの短編においてこれが明確に意識されているな(全てではない)、というのが読み終わったときの感想のひとつだった。ネタバレにならないよう断片だけ書くと、例えば犯人も動機もわかっているのに、凶器がわからない(ハウダニット)や、犯人も方法もわかっているのに動機だけわからない(ワイダニット)など。特に前者のハウダニットを意識した短編においては、不自然なほどに動機と犯人がすぐに分かり、凶器は何かという純粋な推理ゲームに持ち込んでいるのが面白かった。それを成立させる舞台設定や状況の設定がうまいのはもちろん、その謎のみで短編を成立させるミステリとしての質の高さがある。やっぱり好きだ、米澤穂信。

ついでに、米澤穂信さんがどれくらい好きかという話も書いておきたい。米澤穂信さんの作品を初めて読んだのは、たぶん小4か小5。「クドリャフカの順番」だった。人気シリーズ、古典部シリーズの第三作である。そんな途中から読んでも面白いのか、と思うかもしれないが、これが面白かったのだ。もちろん第一作「氷菓」第二作「愚者のエンドロール」も面白いのだが、この二つは比較的短めで、キャラクターの深みもそこまで増してはいない。しかし、第三作「クドリャフカの順番」はまず、主要な登場人物4人にそれぞれスポットライトが当たる。それまでの2作は主人公である折木奉太郎の視点で話が進んでいくのだが、この作品では、それぞれの登場人物の一人称で話が進んでいく。それによってそれぞれの内面がより深くうかがい知れるという点で、この作品はむしろ最初に読むのにふさわしいかもしれない。そのあと、古典部シリーズを全巻読み、小市民シリーズを全巻読み、とさっき書いた「高校生が主人公の若者向けの本」は大体読んでしまい、結局中学生のころには米澤穂信さんの作品は単行本として出ているものであればすべて読んだ。そんな多作な作家さんではないので、みんなも全部読んでほしい。全部面白いから。

こんなことを書いていますが、最近アニメ「氷菓」を見たばっかりなので、それについても今度書きたいです。

本題に戻す。米澤穂信さんの作品の魅力の一つに、僕は「苦さ」があると思っている。それは大人向けのシリアスな作品はもちろん、青春ミステリにおいてより輝くもので、古典部シリーズ第四作「遠まわりする雛」に収録されている短編「手作りチョコレート事件」でその苦さが存分に発揮されていると思っているのだが、その話はおいておこう。ここでいう苦さとは嫌な言い方をすれば、後味の悪さということである。ミステリーは最終的に謎が必ず解かれるという点で後味がいいのは当たり前だが、米澤穂信さんはそこにちょっとした苦さを添えてくる。それが米澤穂信さんの作品がただの推理ゲームにはなりえない理由だと思う。直木賞作家でもあるので、心理的な描写に関してはやっぱり深みがある。さっきは純粋な推理ゲームに持ち込んでいるとか言ってたんですけど。まあ、いろんな作品があるということです。この作品はその点では少しミステリ要素というかゲーム要素が多いような感じがあるが、それでも人間の描写は繊細で、事件の関係者だけでなく、警察側の人間関係も少ない文字数でもちゃんと伝わるようにしっかりと描いていた。

この小説「可燃物」は、ミステリとしてだけでなく、文学としての面白さも持っていた。1870円の価値はあった、と思う。特に「崖の下」は、「神様の罠」という違う短編集で読んだことがあるのに、内容を忘れ、見事にまた驚かされてしまった。本当に米澤穂信さんの作る謎は上質だと思う。ただ、小説を書かない人間がこういうことを言うのはおこがましいと思うのですが、あの、もう少し、多く新刊を出していたただければ嬉しいです。(古典部シリーズとか)

絶対買うので。


結構書いたので終わろうと思う。もう2000文字近く書いている。原稿用紙にすると5枚分。学校の宿題でこんな量を書いたことはないので、やっぱり書きたいことを何も気にせずに書くというのは書きやすいのだろう。本の内容に関係ないことをたくさん書いたことも関係しているとは思うが。しかし、あと数分で八月も終わろうとしているのに初めて宿題に手を付けるというのは高校時代と変わっていなくて安心する。違うのは、大学では9月も夏休みということである。「夏休みの宿題は9月入ってからが勝負」とずっと言ってきたのだが、今ばかりは意味が違う。夏は終わるかもしれないが、まだ夏休みは終わってない!ということで頑張ります。

最近のおすすめはsupercell「君の知らない物語」です。やっぱり夏に合いますね。正直、曲しか知らなかったので、今さら「化物語」を見ることにしました。


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