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長女星★プロジェクト その④

プロジェクトって何? と思われた方は①~③を読んでからどうぞ。

シンガポールに行った長女は、始めはしんどそうだった。
もちろん半引きこもり不登校からの海外だから、
当然ホームシックにもなるし、気温差も20度以上。
おまけにひどい生理痛で、踏んだり蹴ったりだったらしい。
泣きながら辛いと電話してきたが、私も
「15歳一人で海外に行ってるんだから、それで普通よ」
と言ってあんまり相手しなかった。
私も長女の相手から解放され、
次女とつかの間のランデブーを楽しんでいた。

真面目な長女は、活動的になれない自分を嘆き、
「シンガポールまで来ても私は変われない。」といって泣いたそうだ。
妹の夫にポカンとされ、
「楽しいことでもして帰ったらいいんじゃない?」と言われたらしい。

少し慣れてきてからは、
妹と一緒にジムに行って体を動かしたり、
観光に行ったりして楽しく過ごした様子。
放っておくとスマホとにらめっこは変わらないし、
妹にそれなりに我が儘を言いながら過ごした一ヶ月だった。

帰国三日前。珍しくLINE。
「まだシンガポールにいたい?」
「さすがに疲れたから帰りたい。」
「行って良かった?」
「良かった。家を出る日がどんな感じか分かったから。」
「親離れの練習か?」
「そうかな。」
「高校卒業したら家、出たい?」
「出たい。」
「なら、あと3年仲良く過ごそうな。」
「うん。」
離れてなければ、なかった会話だ。
お互いの親離れ子離れの練習になった。

そして帰国の日。
たくさんのお土産に笑顔の帰国。
お互い涙が出るかな?と思ったが、
腹痛に襲われた長女は薬と水を求めたり、
トイレに行ったりとバタバタして、
それどころではなかった。
妹と和やかに話しているのを見ていると、
ほっとした。

車移動、大渋滞の中、
なんとか自宅にたどり着いた。
荷ほどきをしながら、お土産を見せてくれる。

饒舌に話す長女を見るのは何年ぶりだろう?
嬉しかった。
報告することがある。それを聞くことができる。
こんな当たり前のことが嬉しいことだとは、知らなかったなあ。

家で普通のご飯を食べて、疲れた次女はさっさと風呂へ。

二人になった長女とあれこれ話していると、
表情が急にゆがんだ。
突然泣き出して「ぎゅーっとしてー」と抱きついてきた。
あー。かわいい。
張り詰めていたものがほどけた瞬間だった。

「がんばったなあ。よく帰ってきたなあ。大冒険だったなあ。」
こくんこくん、うなずく。
「なんか急に安心して、我慢できんかった。」
と言う長女をもう一度抱きしめた。


私の好きな映画にスタジオジブリの「千と千尋の神隠し」がある。
(関係ないけど、私ジブリオタクです)
頼りない甘えた少女千尋が、トンネルを通って湯屋の世界へいき、
自分の力で働くことを覚え、大事な人のために頑張る物語だ。

千尋は色々経験して、
最後ものすごくたくましくなるのだが、
トンネルを戻るときには、行きと同じように母親にしがみつく。
湯屋にいたことは夢だったのか?
でも銭婆からもらった髪留めがキラッと光ることで、
夢でなかったことが証明される。

長女は千尋みたいだ。
あれだけのことをしたのだから、変わって当然でしょ。
と思われている。
一皮も二皮もむけて、成長して帰ってくるに違いないと。

もちろん本人はこのままでいいとは思っていない。
でも変わることを強いられたり、過度に期待されたら、
たまったものではないだろう。
強くなるために意図的に旅に出たのではなく、
私の一存で行かせたのだ。
リフレッシュして笑顔が一つでもあれば、
私が嬉しいから行かせたのだ。

大人は「お金を掛けてやったんだから。」
「ここまでしてやったんだから。」

「変われよ。」と願う。

でもそれは傲慢だ。
何に感動するか、何に心を動かされるか、
それはその人の自由だ。

変わるのも、変わらないものも、自由だ。
失敗するのも躊躇するのも、自由だ。

這えば立て、立てば歩めの親心。
でも蒔いた種が、花を咲かせるのを待つように、
待つしかないのだ。
親ができるのは待つことくらいだ。

長女よ、好きに生きろ。
母さんはあなたを全力で応援するのみ。

それが分かった長女星★プロジェクトだった。 

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