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【魅惑のタマゴボーロ】


入院中、流動食ばかりのワタシはなにか甘いものが食べたくなった。
ケーキ・プリン・ゼリーいろんなものを考えたけど先生からの許可は下りなかった。
固形物だからだ。流動食コースにいるワタシはランクアップしないと固形物は食べてはいけなかった。100回以上噛んでしまえば流動食みたいになるのに!と心の中で思ったが仕方がなかった。
そんな娘を見かねた母が売店にあった「タマゴボーロ」を差し入れに持ってきてくれた。
赤ちゃんじゃあるまいし、この小さい粒で満足するもんか!とへそを曲げながらも一粒を口に運んだ。
口の中でシュワっと溶けたタマゴボーロは数秒で喉を通っていった。
一瞬の出来事とじんわりと残る甘さ。この不思議な感触が面白くなり、ワタシは無心に食べ続けた。そして、一瞬にして「タマゴボーロ」の虜になった。
連日、ワタシは売店に立ち寄り「タマゴボーロ」だけを大量に購入した。ワタシは飽きるまでとことんはまってしまう性格なのだ。
「笑点」を見ながらポリポリ。食後のデザートにポリポリ。寝る前の小腹にポリポリ。
一瞬でなくなる感触は、食べたことすら忘れてしまうほどだった。袋の中のラスト一粒にいつも驚いてしまうほどだった。
そんなワタシのお口を楽しませてくれた「タマゴボーロ」ともお別れの時はやってきた。
理由は簡単だった。ワタシはめでたく流動食コースから固形物コースへランクアップすることができ、大好きなゼリーを食べることが出来たからだ。
ランクアップ以降、ワタシは「タマゴボーロ」を食べることがなくなった。
退院後、大量に購入したなかで残っていた1袋の「タマゴボーロ」を食べた。不思議なことに、はじめて食べたあのひと口の感動はなんにもなかった。後にも先にもあの感動はあの瞬間だけだった。

2015年秋の入院生活より。

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