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『有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし』壬生忠岑

《意味》
冷ややかな素振りの有明の月が空にかかっていたあの日の別れ。
それ以来、私にとって暁は、つらく悲しいものとなってしまいました。


つらくさみしい気持ちで見上げた空。そんな時は何気ない景色まで自分に冷たく見えてしまう。

この歌は『古今和歌集』で最も優れた歌だといわれています。
藤原定家・藤原家隆が秀歌として挙げており、小倉百人一首に選ばれたのも当然といえると思います。定家に至っては「これほどの名歌を一首でも詠んでみたい。この世の思い出のなるだろうに」と『顕註密勘』の中で語っています。


この時代といえば通い婚。恋人と過ごせるのは夜だけです。空が白み始めたら自分の家に帰らなくてはなりません。
後ろ髪引かれるような思いの中、ふと空を見上げるとそこに浮かぶのは白く無情に光る月。朝なんて来なければ良いのに、と恨めしく思いながら空を眺めたあの日以来、夜明けの月を見るたびにその気持ちを思い出してしまう、という一首です。

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