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[不思議な話]おばあさんの写真

私が有料ホームで働いていた時のことである。
昼休みに4〜5人休憩室でお昼を食べていると、先輩のMさんが皆に向かって手招きした。
「ねぇねぇちょっとこれ見て。
 この前おばあちゃんのお見舞いに行ったんだけど、その時の写真」
と言ってスマホで撮った画像をこちらに向ける。
そこにはM先輩の親戚らしい人たちが、おばあさんを囲んで写っていた。
大勢の子や孫たちに囲まれ、おばあさんは穏やかな表情でいる。先輩は言った。

「でね。おばーちゃんが写ってる写真だけ、何故か上が黒くなるんだ」

えっ?、、、
言われて見ると、たしかに写真のてっぺんから下1〜2センチくらいが、まるで墨を落としたように闇くなっている。
試しにスマホを横にしても同じ。
くっきり黒く写っているというより、黒ずみが漂っているようだ。
いや、真っ黒い煙が天井一杯ににへばりついてるような感じか。
黒ずみとクリアな空間の境界がはっきりしていない。
写真なのに、画面を傾けたりスクロールするたび慌てて飛び移るみたいに、生きてそこに存在するように見えた。

「ばあちゃんの写ったやつだけこうなるの。
 他の従兄弟や叔父さんたちだけのは普通なんだよ」
・・・ほんとうだ。
以前のおばあさんは、それはそれは元気だったそうだ。こうして親戚がみんな集まったのは、おばあさんがもう長くはないと知らせを受けたからだという。
「おばあちゃん苦しそうだった?」
「ううん。何か食べる?って聞いても首振って静かだった。もう何も望むものはないって感じ」
先輩のおばあさんは、既に生を全うした気持ちだったのかもしれない。

それから一週間経たないうちに、勤務中電話が入りM先輩は慌ただしく帰宅した。おばあさんが亡くなったのだ。
きっとあれは。
死期が近いことの表れだったのだろう。
先輩も、あの写真を見た誰もがそう思ったに違いない。
「若い頃はね、すっっごく元気だったの、すっごく。 あたしのおばーちゃんだから!」
先輩に似た面立ちのばばさまだった。
人が亡くなる前はこんなこともあるのだな。
ふと思う。
あの写真。今も黒墨がかかっているのだろうかと。

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