見出し画像

KAMに直結した業務改善の考え方

【KAMの理解】

2021年5月14日付の日本経済新聞「リスク直視した企業監査を」記事が掲載され、20年3月期には50社弱が「監査上の主要な検討事項」(Key Audit Matters : KAM)を自主的に先行開示されたとの記事がありました。KAMは、金融庁企業会計審議会監査部会により、財務諸表利用者に対する会計監査に関する情報提供を充実させる「監査報告書の透明化」に向けて、監査報告書におけるKAMの記載を求める「監査基準の改訂について(公開草案)」を公表したものです。

【KAMの目的】

監査報告書におけるKAMの記載は、①会計監査人が実施した監査の透明性を向上させること、②財務諸表利用者の監査や財務諸表に対する理解が深めること、③会計監査人と監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会の間のコミュニケーションを充実させることです。

【KAMの具体例】

KAMの具体例として、固定資産の評価、のれんの評価、引当金、繰延税金資産の評価、関係会社株式の評価等、見積項目が多くを占めます。また、収益認識やITシステムの評価についても、事業の特徴や会社の置かれた状況と関連付けてKAMとして選定される事例が多くみられます。

今回は、KAMに関連した会計項目について、次の項目を解説します。

1. 損益の適切な期間帰属
2. 新収益認識への対応
3. コロナ禍の監査対応:棚卸管理
4. ITシステムの評価

1【損益の適切な期間帰属】

某食品会社では、売上原価や販売促進費などにかかる期間帰属の誤りの可能性が社外からの通報により発覚しました。

①仕入取引の一部について、納品分が適切な期間に費用計上されていない。
ⅰ実際の納品日と仕入れ計上日にずれがある。

2018 年 3 月納品分が同年 5 月に仕入計上されている。また、2017 年 11 月納品分が同年 10 月に仕入計上されている。

ⅱ監査調査:会計元帳と仕入日(納品日)を照合する。

売上原価(仕入)の適切な会計処理を証明するため、2017 年 10 月~2019 年 12 月に絞り、会計元帳における記帳日と、実際の仕入日(納品日)とを照合する。

②販売促進費の一部について、適切な期間に費用計上されていない。
ⅰ実際の費用発生日と費用計上日にずれがある。

販売促進費の一部について、2018 年 3 月分が同年 4 月に費用計上されている。

ⅱ監査調査:会計元帳における記帳日と実際の締め日(入金日及び発生日)を照合する。

販売促進費の適切な会計処理を証明するため、2017 年 10 月~2019 年 12 月に絞り、会計元帳における記帳日と、実際の締め日(入金日及び発生日)とを照合する。

③荷造運賃の一部について、適切な期間に費用計上されていない。
ⅰ実際の費用発生日と費用計上日にずれがある。

荷造運賃の一部について、2017 年 11 月及び 12 月分が同年 10 月に計上されている

ⅱ監査調査:会計元帳における記帳日と実際の締め日(発生日)を照合する。

荷造運賃:会計元帳における記帳日と実際の締め日(発生日)との照合する

2【新収益認識への対応】
企業会計基準委員会(ASBJ)が2018年3月に公開した「収益認識に関する会計基準」に基づき、2020年度から早期適用することが可能です。収益認識に関する会計基準に関するKAMの記載も多くみられます。2020年度期末決算の引当計上について、特に注意が必要でした。今回は、変動対価として取り扱われる引当金の納期遅延損害請求に伴う引当金について、会社が苦慮した事例を紹介します。引当金は見積り項目であるため、決算日(2020年12月31日)から翌期の監査報告書作成日(2021年2月中旬)までに発生した事象であり、原因となる事実が決算日前に存在する場合は、遡って期末財務諸表を修正する場合があります(修正後発事象)。会社から顧客への納品が期末までに完了(取引完了)しており、仮に、顧客から2021年1月に遅延損害金の解消が申し入れられた場合、会社は、修正後発事象として、納期遅延損害引当金の取崩しによる戻入益を2020年度決算に反映させる必要があります。会社として後発事象の取り扱い件数は、投資家の財務諸表理解のため、多く発生しないことが望ましいです。そのため、、未然防止の策定と実行は不可欠です。具体的には、納期遅延損害引当金にかかる修正後発事象の未然防止策として、四半期ごとに、顧客との納期遅延にかかるリスク度合いを精緻なものにするように努めることがあげられます。つまり、会社営業担当は、顧客と密に連携をとることで、納期遅延にかかる交渉進展を予想し、各契約の納期遅延が顧客といくらで合意されるのかを見積ることができるようになります。

3【コロナ禍の監査対応:棚卸管理】

①在庫管理に関するKAMの記載
KAMには、新型コロナウイルス感染症の影響を独立したKAMとして記載している事例もあります。2020年度は世界中でコロナの影響がありました。コロナ禍による間接的な影響として、生産工場を有する会社では、期末決算に向けた実地棚卸のカウント担当者の配置が十分に手当てできなかった会社がありました。在庫管理について解説します。

②在庫のタイプ分類
在庫には、原材料/供給品・半製品・製品があります。このなかには、規格外・滞留化した在庫が含まれています。在庫品は年代や用途に基づいて適切に分類されて管理されなければなりません。

③期末時の在庫評価
棚卸資産の原価は、直接材料、直接労務、直接間接費および固定費から構成されます。棚卸資産の原材料費は、直近の購入価格を報告日現在の原材料の数量に適用して決定されます。外国為替予約により購入した原材料の購入価格は、適切な平均為替レートを適用します。

④在庫管理の問題点と改善策
ⅰ在庫の分類:在庫が年代や用途に基づいて分類されていない場合、販売するための商品や財貨、企業が製造した製品とその仕掛品、生産過程で使用される予定の原材料や貯蔵品に区分します。
ⅱ棚卸資産の原価の計算方法:例えば、国際財務報告基準(IFRS)に基づく棚卸資産の原価の計算方法は、個別法、先入先出法、加重平均法のいずれかを選択しなくてはなりません。日本基準で最終仕入原価法を使用している場合は、変更が必要です。各基準に基づく、計算方法が適用されているかどうか、確認が必要です。
ⅲ滞留在庫:長期滞留(Slow Moving)、陳腐化(Obsolete)、標準規格外(Out of Standard)のいずれかに当てはまる在庫に留意します。評価減を実施する例としては、棚卸資産の損傷、陳腐化、販売価格の下落などが発生した場合です。日本の会計基準では、長期滞留在庫の規定があり、正味売却価額を合理的に算定することが困難な場合は、処分見込額まで切り下げる、又は一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げることになります。一方で、IFRSでは、原価と正味実現可能価額とのいずれか低い額で評価するように求めており、長期滞留在庫の明確な規定はありません。長期滞留在庫は、購入価格で評価せずに、売却予定価格で評価します。仮に、売却予定価格で算定が難しい場合、滞留在庫の販売又は利用によって実現すると見込まれる額が低下していることの兆候であるならば、適切な評価減を行う必要があると思われます。よって、滞留している場合に正味実現可能価額を見積もることが困難な場合には、過去の実績などを根拠として、規則的な評価減を行うことも考えられます。つまり、日本の会計基準のように、滞留月数が、3か月を超えると50%評価減、6か月を超えると90%評価減、12か月を超えると100%評価減として、滞留期間で区分することは可能です。なお、陳腐化した在庫は仕入価格で評価せずに、スクラップ価格または正味実現可能価額のいずれかで評価されます。
ⅳ棚卸管理の改善
・適切なデータ収集の徹底
  →滞留在庫や陳腐化資産を洗い出しリスト化する。
  →稼働率の低い在庫については、滞留期間の応じてリスト化する。
  →滞留在庫や陳腐化資産は、販売可能かの判断プロセス、部品の解体化などの作業プロセスを確立する。
  →具体的な再販売可能価格を代理店から見積もりを得る。
  →滞留化した製品を、使用可能な部品に解体し、これらの部品をスクラップ価格で再設定する。新規プロジェクトなどで再利用することが見込まれる場合、関連部門に周知徹底する。
最後に、マネジメントは、このような滞留在庫の総量を重要業績評価指標として、滞留在庫の改善状況を継続的に確認します。
・滞留在庫の評価方法の改善
  →棚卸資産の評価の際は、購入日の換算レートを統一します。
  →生産管理者、計画管理者、システム管理者と連携して実施します。

ここから先は

289字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?