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「東大なんか入らなきゃよかった」と思ってる人たち

「東大生はみんな頭がいい」
「コンプレックスとは無縁の最強の学歴」
「一流企業に必ず就職できる」

東大と聞けば、そんなイメージを持っていませんか?

実は、そうではありません。

東大は決して人生の幸せを約束などしてくれないのです。

東大うつ、東大プア、東大いじめ。

東大を卒業しながら、いや、東大を卒業したばかりに「生きづらさ」を抱えた人たちを、東大卒ライターが徹底取材した本を出版しました。

橘玲さんも推薦する注目の本、『東大なんか入らなきゃよかった』のまえがきを全公開します!

***

東大なんか帯あり

はじめに


「東大なんかに入るもんじゃないよね」

 チャーハンを頰張りながら、僕と同じ東大卒の友人が言った。
僕はといえば、口に入れた餃子が思ったよりも熱かったため、慌ててビールで口のなかを冷やしているところだった。

 もとよりこちらの返事を期待していたわけではなかったのか、彼は独り言のように「こいつらバカだよね、東大なんかに入って」と続けた。
 
 東京大学の本郷キャンパスからほど近い場所にある中華居酒屋・福錦(ふくにしき)。
 その天井近くに備え付けられた大型テレビの画面には、東大生を主役にしたバラエティー番組が映し出されていた。

 どうやら友人はこれを眺めていたらしい。
 店から歩いて行ける距離にある「赤門」がVTRで流れ、スタジオのひな壇に並べられた若い東大生たちが明石家さんまにいじられて苦笑いをしている―。


 テレビでは、東大と東大生を面白おかしく演出した番組がいくつも放送されている。
 それはトーク番組だったりクイズ番組だったりしたが、テレビをほとんど見ない僕がその存在を知るほどに、どの番組も高い視聴率をたたき出し、世間では話題となっていた。
 出演している現役東大生が半ばタレント化し、本を書いたり講演をしたりして、それがまた人気を博しているという話も聞いた。
 
 僕は書籍ライターの仕事をしているが、あるとき編集者との雑談のなかで「昨日の『東大王』見ました?」なんて話題が出た。

 見ていないと答えると、「売れる本を書くためには、ああいう今ヒットしているテレビも見ておかないといけないんじゃないですか?」とチクリと刺され、とっさに十くらいの反論が頭に浮かんだけれど、いつものように「そうですね」と返すにとどめるということがあった。

 世間で語られる東大のイメージの多くはポジティブなものだ。

「東大は日本の『知』の最高峰」
「東大生は頭がいい」
「コンプレックスとは無縁の最強の学歴」
「みんな一流企業に就職する」etc.

 そして、それらのイメージによって、総じて一般家庭では「東大に入れば人生の幸福が約束される」と思われている。

 だから、東大は依然として日本中から志願者が集まる国内最難関大学という地位をキープしているし、書店の平台には「東大に合格する勉強法」とか「わが子を東大に入れる育て方」といった本が数多く並んでいる。

 進学校や予備校も東大を志望する学生を重宝し、さまざまな誘い文句で学生たちを東大受験へと駆り立てている。

 実際、かつて僕は母校の中高一貫校から、「最近、うちは医学部を志望する生徒が増えているのだが、学校経営の点ではあまり望ましいことではない。
 新入生の数を左右するのは東大合格者数だ。東大志望者が増えるよう、東大卒の君に講演をしてほしい」と頼まれたことがあった。

 しかし、実際に東大に通っていた人間として、これらいわゆる東大の「表」のイメージには常々、大きな違和感を覚えてきた。
 世間で共有されている東大や東大生、東大卒業生についてのイメージと、現実のそれらはあまりにも異なっているのだ。
 
 テレビのなかの明石家さんまは、ひな壇に並んで座っている東大生たちに向かって「自分らすごいなぁ~。ええなぁ~」とかなんとか言っていたが、とんでもない。

 東大は人生の幸福を決して約束などしてくれない。

 むしろ逆に、東大に入ったある種の人間は、東大に入ったがゆえにつらい人生を送るはめになる。個人的な感覚では、「人生がつらくなってしまった人の方が多いのではないか?」とさえ思う。

 極端な話、東大に入ってしまったがために若くして死ぬことすらある。
僕たち東大に通っていた人間は、そのことをよく知っている。

 東大に入っても夢がかなうとはかぎらない。
逆に、東大が独自に採用している「システム」によって、小さいころからずっと抱いていた夢が無残に絶たれてしまうこともある。

 東大生だからといって「頭がいい」わけではない。
講義に出席すらしない学生が大勢いて、日本の大学のなかでも際だった留年率をたたき出しているのが東大だ。

「東大卒」という学歴を持っていても社会生活で有利になることは少ない。
むしろ、さまざまなシーンで東大の看板は大きな負担となる。

 官公庁、東証一部上場企業、外資系コンサルタント会社に就職できたところで、幸せになれるかどうかは別の話だ。
東大を卒業して、その類いの職場で働く知人の多くが「仕事を辞めたい」と訴えている。

 自身が経験し、また、間近で見聞きをしてきたことだから、僕たちにとっては分かり切ったことだけれど、世間の認識はそうじゃないんだよな――改めてそこまで考えたとき、東大をやたらともてはやすテレビや本とは別の角度で東大について書いてみようという気になった。

 東大に対して漠然とした憧れを抱いている人たちに、「本当はそうじゃないんだよ」と伝えたい。
 居酒屋でたまたま目にしたテレビが図らずも本書の執筆の動機となったわけで、やはり編集者の言った「テレビを見ておかないといけないんじゃないですか?」という苦言は正しかったのだ。

「東大受験攻略本」「東大子育て本」「東大式勉強法」「東大ノート術」「東大読書術」「東大文章術」「東大式投資法」……東大をポジティブにテーマに組み込んだ本は数多くあるけれど、この本は、それらとは別の角度から東大について書いたものだ。
 東大と東大生、東大卒業生の表には決して出てこないネガティブなエピソード集――「裏の東大本」とでも言おうか。

 けれど、本に書くのは勘弁してほしい」と言われることもあったが、そのようなケースを除いてもエピソードには事欠かず、少々胸やけがするほどだった。

 やはり多くの東大卒の人間が、東大に入ったがゆえの「生きづらさ」を感じていた。

 じっと耐えている人もいたし、そこから逃れようとしている人もいれば、うまく逃れた人もいた。

 そして、逃げる前に「壊れた」人もいた。

 本書は僕自身の経験も含めて、東大の卒業生たちから聞いた話を、随時補足を入れながら淡々と綴ったものだ。

 実際、東大に通っていたことのある人なら、この類いの話はごく身近で起きていたこととして納得できるだろう。


 冒頭の友人との会話は、こんな言葉で締めくくられた。

「東大に入ってもキツいばっかりやで」
「まぁね。入る前に知っておきたかったよね」

 東大合格を目指して勉強に励はげんでいるあなた、自分の子どもはなんとしても東大に入れたいと思っているあなた、身のまわりにいる東大卒の人間のことをもっとよく知りたいと思っているあなた、東大を出たのに落ちぶれた連中を見てスカッとしたいあなた、そして、日々に生きづらさを感じている東大卒のあなた―この本が、そんなあなたの役に立ちますように。


東大なんか入らなきゃよかった 目次

はじめに 

第1部
あなたの知らない東大


第1章 東大生は本当にすごいの?

東大生はそこら中にいる 
東大入試の倍率はしょせん3倍 
東大生のピンとキリ 
3種類の東大生―第1のタイプ「天才型」 
3種類の東大生―第2のタイプ「秀才型」 
3種類の東大生―第3のタイプ「要領型」 

第2章 東大入ってもラクじゃない
入ってからの熾烈なつぶし合い 
黙々と運用される「秘密兵器」シケ対とシケプリ 
絶望的な能力差に心折られ 
ちがう世界に生きている人たち 
都会の高校生、田舎の高校生 
東大京大、当たり前 
「東大までの人」の就職活動 
「一応、東大です」という定型句に秘められた本音


第2部
東大に人生を狂わされた人たち



第3章 東大うつ
午前3時の「死にたい」LINE 
東大法学部からのメガバンク 
落ちこぼれる先として選んだ銀行 
「やりたいこと」が見つからなかった 
銀行で優遇される東大卒 
デスクワークだけをしていたい 
東大卒の貧弱な対人関係スキル 
慶應卒にいじめられる 
東大卒が病むのはどんな仕事か 


第4章 東大ハード
東大生の官僚ばなれ 
官僚の仕事は人につく 
月200時間超の残業で心も体もパンク寸前 
国会の議論は台本で進む 
朝まで働かされる奴隷 
野党議員の「官僚つぶし」 
官僚に人権はない 
官邸のパフォーマンスに振り回される 
時給1800円、プライドだけが心の支え 

第5章 東大いじめ
地方で受けた「壮絶ないじめ」 
テレビをネタにいじられる 
東大アスペ 
「東大卒なんだからできるでしょ?」 
すぐに転職する東大卒 
地方の医学部が「人生再生工場」 

第6章 東大オーバー
食い詰める大学院生と博士 
博士課程5年目の袋小路 
指導教官との関係悪化というよくある罠 
「学振」の狭き門 
ただ過ぎ去ってしまった時間 
自死した女性博士 
足の裏の米粒―取っても食えないが取らないと気持ちが悪い 

第7章 東大プア
東大卒の警備員 
東大卒の30歳時年収は平均810万円なのに 
駒場寮はスラム街 
新卒一括採用への反発 
東大卒の漫画家 
「売れ線狙い」ができなくて 
年収150万円で生きる 
国民健康保険料が払えない 
目立ちすぎても困るから︱逆学歴詐称 
年収230万円で大満足 
本とネコだけあればいい 
最期は川に流れたい 
おわりに 東大の卒業生はどう生きれば生きやすいか


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