人の命の終わり

父の元へ戻ったのは翌月だったように記憶しています。会いたいわけではなく、けじめをつけにいくようなそんな重たい思いを引きずっていたように感じます。

病室には介護をしてくれる年配の女性と父が話をしていました。
女性は私を軽蔑するような目で見つめます。
父が”俺はもう死ぬんだぞ、何しに来た?”と私を睨めつけていました。

”あなたが留学させて、連絡を切って、会いにくれば何しに来たってあまりにも自分勝手ではありませんか”と言い返すのがやっとでした。

それから病室で何の話をしたのか正直よく覚えていません。
夕方まで話をしたのに、何も覚えていません。

ただ、ただ、この人は死ぬ。という現実しか頭にになかったと思います。

父は坂城の出身です。中学2年で血液の病気で長期入院をし療養のために一年お寺の小坊主をしていたと話ていました。みんなより2年遅れて上田高校へ入学、体が弱くてもただ座って人に聴診器当ててればいい医者になれと祖父に言われ東北大の医学部に進学したと聞いています。

昔から体が弱く、でも日々過酷な医師の業務をこなし、人の死と向き合い、シングルファザーをして子育てをした父の人生を今は想像を絶する大変なものだったろうと思うのですが、当時の私にはそんなことを感じる余裕すらなかったと記憶しています。

医師は人の病を治す人間。その人間が病に侵され死ぬという事実が私には受け入れがたかったと思います。