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悩み、五月雨 叶
「雨はわたしの大切なものを奪っていくから嫌い」
これがかつてのわたしの口癖だった。
親友だと思っていたクラスメイトが他の子と仲良くし始めたり、
勇気を出して告白したのにあっさりフラれたり。
思い出せばキリがない…
と言いたいところだが、
他に思い出せる哀しいエピソードはない。
要するに、雨が大切なものを奪っていくというのはわたしの気のせいだったのである。
「雨はわたしの大切なものを奪っていくから嫌い」
これもおそらくどこかで見て、
当時のわたしが言ってみたくなっただけな気がする。
若かったわたしはどこかで見た何かいい感じのフレーズを言ってみたくなる年頃で、
俗に言う『厨二病』というものに等しかったのではないのかしら。
どう考えても当時中学生のわたしがたくさんの大切なものを抱え、しかも奪われるとは思えない。
事実として中学生を最後に、
この口癖が出ることはなかった。
でもあの頃、中学生だったわたしはたしかに雨が嫌いだった。
靴下までぐっしょりと濡れたスニーカーを履いたあの感覚も、
スクールバッグの中でしわしわになった教科書も、
雨の日のために用意された部活の室内筋トレメニューも。
雨の日に起こる全てのことに腹を立てぶつくさ文句を言いながら過ごし、
梅雨が過ぎるのを心待ちにしていた。
同時に大人になれば少なくとも雨のせいでこの種の嫌な思いをすることはないと希望を持ってもいた。
スニーカーだけはなんともいえないけれど、
雨の中で教科書を持ち歩くことも部活の筋トレも
きっとないから。
ところでわたしは20代後半から酷い偏頭痛に悩まされ、たまに嘔吐するようになった。
大人になったわたしにとって雨は好き嫌いの範疇を超えて辛いの部類になってしまった。
中学生だったわたしが大切と表現したものが胃の内容物でないことを祈る。
それではまた。
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