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和音が好き

私が作曲を好きになった大きなきっかけの一つが、「和音を好きになった」ことです。
今日は、音楽の中でも私が特に魅力を感じている「和音」について少しつらつらと書きます。

今回は凄く専門的なことを書くわけでもないので、音楽に詳しい方にとっては簡単な内容になっているかもしれませんが…
単純に私が音楽において大切だと思っていることを、私に興味を持ってくださっている方や、演劇畑で私のことを知ってくださっている方などに共有してみようかなと思います。

音楽の3大要素

まず、和音(=ハーモニー)は、普段みなさんがよく聴く音楽(調性音楽)における、音楽の3大要素の一つです。

ちなみに3大要素のあと二つは、メロディー(=旋律)とリズム(=拍子)です。

曲を聴いていると、一番最初にメロディーが耳に入ってくるかと思います。ミュージカルなどの歌であれば、歌詞の効果も相まって、メロディーは尚更耳に入ってきやすいですよね。

リズムも、曲調を表す大事な要素です。
サンバ、ジャズ、ブルース、といった音楽のジャンルに大きく関わってくるのがリズムで、これも聴くとどのようなリズムが使われているか、すぐ分かります。

一方、ハーモニーというのは、ざっくり言うと、
①同時にどの音を一緒に鳴らすかという段階と、(ドとミとソを同時に鳴らすとCメジャーという和音になる。)
②その和音を時間の経過とともにどのように変化させていくか
この2段階で音楽を作っていきます。

音楽は時間芸術。目に見えない、時間の経過を音とともに楽しむ芸術なわけですが、これらの3要素をどのように変化させていくか、でドラマが作られていきます。

音楽を聴いていて、「なんかエモい」「じわじわ感動する」展開だと感じるのは、メロディーの変化か、リズムの変化か、もしかすると和音の進行が要因かもしれません。

しかし、和音というのは音楽の骨格でありながら、音楽を聴く時にメロディーやリズムをそっちのけでハーモニーをメインで聴く、というマニアはなかなか少数派なのではないでしょうか。

和音が好きになって20年近く経ちます…(笑)

私はまさにその少数派で、昔はミュージカルの音楽のような歌詞のある音楽を聴く時ですら、和音を常に分析していて、メロディーや歌詞の内容をあまり覚えていない、ということも多かったくらいです(笑)

はじめはベートーヴェンのような古典派と呼ばれる作曲家の和音進行を好きになり、
中学生の時はラフマニノフ(ロシアの近現代の作曲家)の和音の進行にはまりました。

○ラフマニノフ作曲 ピアノ協奏曲第二番 第一楽章

特に好きなのが1:05〜2:01の和音進行。
約1分の非常に大きなひとフレーズの中で、和音進行と、うねるような旋律がドラマチック。


その後、ミュージカルにはまったきっかけが、「Wicked」という作品の劇中歌「No Good Dead」の和音進行です。
クラシックの音楽では使用しない和音の進行を初めて知り衝撃を受け、同時に音楽の可能性を感じた体験でした。

○ミュージカル『Wicked』より『No Good Dead』

例えば、1:06〜1:15のテーマの和音進行。
Bm7(add4)→A/D→Esus/G#→Amaj7/C#
という和音の進行です。
テーマのフレーズでここまで複雑な和音進行にすることはあまりなく、挑戦的な楽曲と言えると思います。
(エルファバが世の中の自分の立ち位置などについて苦悩する場面なので、そのシチュエーションとも合っていますよね。)


一方、自分で曲を書くときも、どのように和音を進行させるか、ということを子供の頃から沢山考えてきました。和音の進行を思いつくととても嬉しいし、深夜に何度も繰り返して弾いていました。(ナルシストですね…)

中学生の終わりからは、「和声」という、和音に特化した学問を学び始めました。(大学受験の科目で必須でした。)
こちらは学問のため、色々と規則があり大変ではあるのですが、もともと和音が好きだったことから、あまり抵抗なく学んでいました。今はその学問を若者に少し教えたりもしています。

小学生の頃の学習ノートを見つけたのですが、まあ音符が汚い(笑)上に書いてある和音記号もなんだか潰れています。しかもイ長調の調号間違えてる…

和音は多様性

作曲において、どのように和音を進行させるか考えるのは、とても楽しい過程です。

私は、子供の頃に書いていたクラシックの曲と、今書いているミュージカルの曲では、使う和音や和音の進行のさせ方を意識的に変えています。
特にミュージカルに関しては、私は誰もミュージカルで書いたことのないような曲を書きたいと思っているので、どのような和音を使用するか、作品ごとに吟味して、開発していくような気持ちで曲を書いています。

勿論クラシック音楽においても、作曲家ごとに使う和音のタイプに特徴がありますし、
ミュージカルでは、どのような音楽のジャンルをメインで扱うかによって、使う和音がだいぶ変わってきます。

このように、和音というのは、音楽の要素の中でも特段、お国柄や音楽のジャンル、さらには個々人のアイデンティティが反映されやすい要素なのではないかと思っています。

最近の音楽は和音<メロディー、リズム

一方、JPOP、KPOPなど、今人気のある音楽ジャンルであるポップス、あるいは型に則って作られたミュージカルの音楽などでは、和音に個性を出す、という動きは少ないように思います。

私はポップスの専門家なわけではないので、あくまで主観に基づく見解なのですが…

ポップスでは、何か革新的な和音進行を開発する、というよりは、耳馴染みの良いコード進行のモデルがいくつかあって、それを土台に曲に反映させる、というものが多い気がしています。

もちろん例外はあり、最近だと米津玄師さんやKing Gnuさんなど、JPOPの中では独自な和音進行の手法を取り入れている方々もいます。

○King Gnu 三文小説
例えばこちらの曲は、冒頭からAメロまではわりとポップスでよく聴く和音進行です。
しかしBメロ(1:10〜1:32)、そしてその後のサビで一気に元の調へ転調する手法などは、ザ、型ではない、King Gnuさんのオリジナリティ溢れる和音進行になっています。

話を戻します。
さらに、近年のポップスでは、EDMという、その場にいる人を踊らせるような電子的なサウンドを使用する音楽が増えました。
EDMがベースの音楽は、敢えてハーモニーの要素を極限まで削り、リズムやメロディーを前面に出している曲も多いです。

私自身、現代の社会や人間の心理などを音楽で表現するためには現代の音楽市場は大きなヒントになると思っています。そのため、自分の持っている手法とこれらを組み合わせて、和音をポップスのようにパッケージング化したり、和音だけに縛られないような作曲法も取り入れています。

近年の作品だと、ミュージカル『バウワウ』(2022)『IBUKI』(2023)あたりです。

○ミュージカル『IBUKI』より『祝!天邪鬼』
の稽古動画

例えば私の書いたこの曲は、最初は伴奏の音もかなり薄く、全体的に使用している和音の数も少なめです。
意図的に和音を減らすことで、音楽の持っている安定感を減らす効果があります。(演劇的な効果などを全部話すと『IBUKI』音楽講座になってしまうので、ここでは割愛します。)

和音の力

音楽において、メロディーとリズムと和音のバランスは、必ずしも1:1:1である必要はないと考えています。
でも、私個人としては、ハーモニーの移り変わりでドラマを見せる、という方法の素晴らしさ、表現できるものの深さ、は大切にしていきたいと思っています。

同時に、舞台音楽などを聴いていただく方にも、ただ歌詞やメロディーを聴くだけではなく、音楽をもっとさまざまな視点から聴いていただき、作品を深める手助けにしていただけたらと思います。

勿論それを何も考えずとも感じてもらえるよう、音楽的に最大限工夫はするのですが!
でも、音楽は歌詞やメロディーが理解するための道具の全てではないと知っていただくだけで、大分知覚できる世界が広がるのではないかな…?と考えています。

では具体的にどのような点が面白いのか。
理論的に掘っていくとこれはまた際限なく面白い世界なのですが、難しいことはさておき…
ひとまず聴こえるハーモニーに対して何を感じるか、何か場面ごとに、もしくは登場人物ごとに音の響きに関連性があるか探してみる、など、感覚的なところだけでも十分楽しんでいただけるかなと思います。

(勿論、表現者にとって、楽曲の和音を把握し解釈することは必要不可欠です。)

曲を聴く時、観劇する時など、是非お気に入りの和音進行を探してみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

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