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東のボルゾイ『ガタピシ』楽曲紹介

4月に作曲・上演した、東のボルゾイ新作ミュージカル『ガタピシ』の映像配信が始まりました!
映像の編集は、演出の大舘が担当しており、作品の見どころポイントを余すことなく収めています。この機会に是非ご覧ください。

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作品の公式ホームページはこちら↓


一度ご購入いただけますと、6/21まで何度もご覧いただけます。そこで、より『ガタピシ』を楽しんでいただくコンテンツとして、劇中曲について、私の解釈や注目ポイントなどをまとめてみました。

需要があるかはわかりませんが😅音楽で気になった箇所がある方や、まだご覧になっていない方で、ボルゾイにご興味がある方など、読んでいただけたらと思います。(ネタバレを含みます。また、作品全体の作曲コンセプトについてはパンフレットに記載しているため、ここでは各曲について記載します。)

♪M1 Be 我他彼此

インスト(楽器演奏のみの曲)が全部で3曲ある作品です。炎の燃える音がする中、アンサンブルが、演奏に合わせて体の部位を巧みに動かして「我他彼此」を表現します。

ガタピシは、建物などが軋む音を表す言葉ですが、作品内ではチェロの音色がその様子を表しています。冒頭はチェロのソロで、col legnoという、弦を弓の裏側を使って鳴らす奏法を使っています。その後の少し軋んだ音は、sul ponticelloという、通常鳴らすポジションとは少し違う箇所を鳴らす奏法を。現代音楽では時折使いますが、ミュージカルで使用することは珍しいかもしれません。

舞台は暗く演奏の様子はよく見えなかったかと思いますので、参考程度に動画を。こんなことをしています。
・col legno

・sul ponticello

♪M2 糸をかし

作品のテーマソング。
主人公のイト(ユーリック永扇/白鳥光夏)が、我々人間は、どんなに愚かなことでもやりたいことをやってよいという「愚行権」を所持している、と言って始まるオープニングナンバー。だから好きに生きれば良いのに、他人の顔色が気になり、何をするにもつい許可を求めてしまう世の中を描いていきます。

曲中は童心に返って楽しく遊ぶ様を表しました。一般的なミュージカルの賑やかなナンバーは、タップがあったり足を上げて踊ったりなど、アップテンポで軽快な曲が多いですが、この曲ではけんけんぱ、アルプス一万尺などの日本の遊びの動きをするため、オープニングは日本人がわくわくするようなサウンドに仕上げたいと思いました。

日本人は農耕民族で、お祭りや踊りなど、テンションを上げて何かを表現する時、100%陽の音楽、というよりは、力強さがあり、大地を踏み締めるような音楽で表現しますよね。例えばソーラン節(ロックソーランではなく、テンポが遅いものの方)など。

そのため、速さもミドルテンポで、少し重た目にリズムを刻むように、曲調も、からっとした明るさではなく、少し不気味さもあるようなサウンドにしています。良い意味なのか悪い意味なのかわからないけれどとにかく胸騒ぎがする、ような感覚になっていただけたら嬉しいです。

稽古動画はこちら↓

♪M3 針の目

ハリ(大根田岳/寺岡拓海)を中心に、忙しさに忙殺されていき、幼い頃の夢も忘れていく現代人を表しています。
セクションによる拍子・曲調のスイッチングが激しく、まさにリアルな現代社会。
一方、ピアノとチェロは少し間が抜けているような愉快な音を出して高みの見物をしており、そのギャップにも注目していただけたら面白いかもしれません。

M3 「針の目」の様子

♪M4 うわごと

死んだ先生(森加織)がイトに、君は夢を忘れてつまらない大人になってしまったのか?と問いかけるシンプルな歌ですが、この曲を通して観客に伝えたいことはそれだけではない、もっとこの作品を通して私が考えた哲学を語りたい、と思い作曲しました。

先生という人物は生前何らかの生きづらさや葛藤を感じていたと思いますが、(詳しくは劇中で語られていないので、皆様の解釈に委ねられる部分ですが)それでも夢が大切だと言っているのは建前なのか本音なのか?
また、人は人生を終える時、(あるいは終えた後?)苦しかった過去や生前の葛藤をどのように振り返るだろうか?
自分が人生の終着点に立ったと想像して、劇中の世界観であったかもしれない事象を自分の過去に置き換えたりしながら、書いていきました。本作品の中で最初に感覚を掴み仕上げた曲です。

♪M5 我他彼此ing

M1のリプライズ(インスト)。喧嘩していたはずがいつの間にかダンスになっていて、何だか楽しくなってしまうナンバー。あまり音楽を楽しんでいただくシーンではないので、身体表現を楽しんでいただけたらと思います。

♪M6わた毛

人に認められたくて、人の目に映りたくて頑張っているけれど、それが叶わないワタ(細谷美貴/阿部美月)の曲。
イントロから続くキーフレーズ。もし他の楽器でやるなら、笛がピーヒャラピーヒャラ、世の中の人たちの頑張りを天上の天使やら悪魔やらが馬鹿にしているような、俯瞰したイメージ。チェロは普段は出さないような軋んだ高音をずっと鳴らしていて、地に足がつかないようなセクションになっています。

中盤、キャストも楽器を鳴らすシーンは、音だけではなく、それぞれの表情や鳴らし方などのビジュアル面も相まって、面白い場面に仕上がっていると思います。

稽古動画はこちら↓

♪M7絹擦れ

キヌ(桂芽来/高羽里奈)の楽園を歌う曲。
メインの伴奏はチェロのピチカート(弦を弾く)とピアノのわずかな音のみ。演奏スタイル自体もとても不安定ですが、努力をせず手の届く欲望の楽園は、いずれ滅びていくだろう、という視点だと思っていただけたら良いかなと思います。(?)現代社会の縮図が一番濃く表されているシーンです。

♪M8 麻酔

アサ(藍実成/丸山真矢)のナンバー。ほのぼのした曲調の中、符点(たったったたったたった、のリズム)のついた、地に足のついていないメロディーが、明らかに足を踏み外しそう。アサは馬鹿だなぁと思うかもしれませんが、現代人のほとんどが、自分に麻酔をかけて(かけられて?)生活しているのではないでしょうか。

後半、M2の「迷惑をかけないで」というフレーズが、半音高くなって再登場。もとの調より暖かみのある♭系の調なのに、何故かより怖く聴こえるように作っています。

♪M9うらみごと

M4うわごとやM7絹擦れ、M6わた毛などがドッキングされています。これまで築き上げてきた曲たちが一気にノッキングを起こし崩れていくことで、この先の結論に向かって急旋回していきます。様々な歌詞が重なっていくところは、どれも重要な言葉ばかり。
一応どの歌詞も聴こえるように作ってはいますが、少しだけ耳を開いて聴いていただけると、新たな発見があるかもしれません。

M9「うらみごと」の様子

♪M10我他彼此ed

我他彼此シリーズの最終形態。軋んでいた家がいよいよ崩れ落ちていきますが、それと同時に一気に自分の中の化け物、希望も欲望も全て併せ持った本来の姿が現れ、これまでの自分を食い尽くすようなイメージ。
音楽においての解放された化け物担当は、トレモロを用いたチェロの技巧的なフレーズ。不気味で、かつとてもかっこよく演奏していただいているので注目してみてください。

♪M11糸わろし

M2 糸をかしとM4 うわごとがメインでドッキングされています。これも特に音楽を気にしていただく場面ではないとは思いますが、影の努力家に注目していただく場合…
中盤、アンサンブルの「はぁラララン」のフレーズがとても難しいのですが、完璧に素敵なハーモニーを奏でてくださっています。
あと、少し聴きづらいのですが、終盤の重唱部分でプリンシパルが「忙しい君の代わりに笑ってあげる馬鹿な君を」と歌うフレーズは、先生がM4で歌う意味と全く違う意味に聴こえるはず。注目していただけたらと思います。



以上です!このように解釈してほしい、というわけでは全くありません。見たまま聴いたままに感じていただけたらと思うのですが、私のように、一度冷静に作品を俯瞰して味わいたい方もいらっしゃるかな?若しくはなんとなくボルゾイが何をやっているか、ざっと読んでみたい方もいらっしゃるかも?と思い書きました。

最後に、キャストスタッフの皆様、そしてチェロ演奏の下島万乃さんと、リハーサルで演奏してくださった小林世佳さんに感謝を込めて。

下島万乃ちゃんとご一緒するのは実に7年ぶりでした!


最後まで読んでいただきありがとうございました!

久野飛鳥

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