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師匠が残した道から繋がっていくもの

Cada um é cada um.「一人ひとり、それぞれ」

Vicente Ferreira Pastinha(メストレ・パスチーニャ)

(2022年12月27日)
今年は周りで「師匠」と呼ばれるひとたちの旅立ちが多い年だった。

メストレバーバブランカ、6年前のこの日もすでに体調は思わしくなかったにも関わらず、自分の住む団地の一角のキオスク的な場所で練習をしてくれ感激したのを思い出す。

外国人の我々みたいなのがわざわざ訪ねて来ることも稀なのだろう。嬉しそうな様子で、練習のあともみんなで飲みに行こうとなかなか帰りたがらない、人柄も穏やかな印象の師匠。

キロンボテノンデーサルヴァドールでたまたま滞在期間が数ヶ月重なったウルグアイのセバとチリのパオロと3人で、また訪ねますと師匠に言い残したまま結局一度も3人一緒に戻ることはなかった。

チリのパオロは長年特定の師匠無しでカポエイラアンゴーラを習い教えて来て、当時サルヴァドールには師事したい師匠を探しに来ていた。

パオロだけはその後もメストレの元へ通い最終的に彼を自分の師匠に選び、チリ帰国後はパオロのグループはGCAC (Grupo de Capoeira Angola Cabula)チリ支部になったらしい。

パオロは脱植民系の本をいろいろ貸してくれたインテリで、カポエイラも上手だが腰は低くて人柄も穏やかなお兄ちゃん的な人物。

長年独立して主に地域の子供たちを相手にカポエイラをやって来た彼が、最終的にバーバブランカを選んだのが分かる気がした。

Cada um é cada um.「一人ひとり、それぞれ」がパスチーニャも言うカポ道で、師匠の生き方を自分自身のものと重ね、そこから自分の道も伸びていく。

ジョアンペケーノのメストレとして名が知られる割に、サルヴァドール地元の団地の一角でほそぼそと教えている、素朴なカポエイラのやり方にパオロは自分のものとの共通点を見つけたのだろう。

2021年11月、メストレバーバブランカは奇しくもパスチーニャの命日13日に旅立った。

その一ヶ月ほど前にちょうど彼とメストレカボレーの昔のジョゴ動画を見つけ、その派手さの無い細かく柔らかい古典とも言える動きに目が覚める思いだった。

サルヴァドール若手実力派のCMタトゥーは練習中によく、今自分がしているカポエイラには何も新しいものは無い、毎日練習していく中で先人たちが残してくれたものを少しずつ発見して行っているだけと言う。

メストレバーバブランカの生き方から自分のカポエイラを探していくことしたパオロが、メストレ亡き今これからチリでどういうカポエイラを子どもたちに残していくのだろう。

サルヴァドールの小ぢんまりした団地の片隅で、突然現れた異国の我々に嬉しそうにカポエイラそしてそれ以上の多くのことを教えてくれたメストレの事を思うと、パオロが彼の生き方を引き継ぐきっかけとなった6年前のこの日を共存できたことを嬉しく思う。

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