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メモ読) 気候カジノ_第 II 部 気候変動による人間システムなどへの影響(後半)

第Ⅱ部 気候変動による人間システムなどへの影響

第10章 ハリケーンの強大化

ハリケーンは熱帯低気圧のうち、北大西洋で発生したものに与えられる名称
風速が毎秒33メートルに達すると、ハリケーンに分類される
ハリケーンが生まれるには、海面温度が最低でも26.5℃まで上昇する必要がある
ハリケーンによる被害額はGDP成長率を年2%ほど上回るペースで増加している
海面温度が4℃上昇するとハリケーンの平均強度が大体一段階上がる
地球温暖化が進むと一部の主要国ではハリケーン被害が低減するかもしれない。温暖化が地理的分布にも影響を与えることから生じる
ハリケーンによる被害規模と国の経済力との間に弱い相関関係しか存在しない

アメリカの資本をハリケーンから守るためには、今後50年間に渡って、GDPの0.01%程度を毎年捻出する計算になる
この費用は対応策(脆弱性の高い固定資産をより安全な場所に移した場合)を講じなかった場合の損失に比べてはるかに小さい
気候変動による影響に対し戦略的計画を実施することによって、コストを著しく軽減できることを示している
ただし、合理的な計画の策定が勝ち組と負け組の壁によって阻まれる

ハリケーンであれ、海面上昇であれ、沿岸域のコミュニティのことを考えて将来を見据えた戦略を立てることの必要性は、気候変動問題に対処する際の大きな課題の一つ

第11章 野生生物と種の喪失

最終的に、気候変動は世界中の野生生物、より広義には生物種や生態系に、危機的被害をもたらす
生物学者たちによると、地球では過去5億年の間に、生物種の大量絶滅が5回発生しているという
保全生物学者たちは、気候変動とその他の人為的絵響が組み合わさることで今後100年間に6度目の大量絶滅が起きる可能性があると警笛を鳴らす
過去の気候変動が、ときに大量絶滅を引き起こしてきたことは知られているが、再び起こり得るかの推定は難しい

通常、大切なものの多くは市場に流通していない
気候変動が生物種や生態系に与える影響は、市場から一番遠く離れたところにある
その結果、分析と経済価値評価に関する最も難しい問題が生じる

生態系と生物種の経済価値評価

自然・社会科学は、生態系や生物種の保存がもつ経済的活を正確に推定することに非常に苦労している
1つは、絶滅種数について精度の高い推定を行うこと
もう1つは、種の消失がもたらす損失を経済的に評価すること
生態学者のクリス・トーマスなどが行った、種の消失と地球温暖化に関する研究によると、最近の気候変動の傾向を考えると、18〜35%の生物種が「絶滅が避けられない」状態にあるという結果が得られている
CVM(仮想評価法)のような非市場的活動や資源の価値を推定する方法はあるが、野生動物や種、生態系にもたらされる損失の経済的インパクトに関する確かな推定を我々が手にし、地球温暖化による影響の推定に活用できるようになるまでの道のりは長い
たとえ骨の折れる作業であったとしても、生態学者と経済学者が手を携えて、失われた種や生態系の価値に関するより包括的な推定を提示するように働きかけなければならない

人間からすれば必ずしも破壊的な影響ではないかも知れないが、ほかの生物種や貴重な自然のシステムにとって、悲劇的な結果をもたらす恐れがある。人間はこうしたシステムで発生した影響をうまくコントロールできない

第12章 気候変動がもたらす損害の合計

  • 気候変動被害は、経済と密接につながっている。気候変動による影響は、急激な経済成長から生じる意図せぬ副産物、または外部性。ゼロ成長の社会では、温暖化による脅威は大幅に軽減される

  • 人為システム(例えば工業経済)と非人為システム(例えば海洋酸性化)には重大な違いがある。我々の関心は、主に人為的に管理されていない、あるいは人為的な管理が不可能な影響に向けられるべきである

  • 高所得国の市場経済は、気候の変化をはじめ、自然の異変による影響を受けることが少なくなってきている。これは、農業などの自然を基盤にした産業分野が、サービス業に対して縮小したり、自然の大きな力に依存しなくなっているためである

  • 社会が今後数十年間で、あらゆる経済モデルや気候モデルが予測している通りの急速な進化と成長を遂げたとして、100年以上先のまったく異なる社会が受ける影響を評価するのは難しい

  • 人類・自然遺産、生態系、海洋酸性化、生物種などの損失を経済的に評価しようとすると影響を推定することの難しさと、信頼に足る影響手法の欠如の壁に直面する

経済部門ごとの脆弱性

「重度の影響を受ける部門」 農業、林業、水産業など
「中程度の影響を受ける部門」 運輸業、不動産業(沿岸域)、建設業など
「軽度の影響あるいは影響ゼロの部門」 医療や金融、教育、芸術などのサービス業(市場経済全体の52%を占めている)
アメリカにおける「重度の影響を受ける部門」のGDPに占める割合は2021年時点で1.2%
世界銀行が公表している農業の対GDP比率に関するデータ166カ国のうち、40年間で農業が拡大傾向にあるのはコンゴ、シエラレオネ、中央アフリカ、サンビアの4カ国のみ

総損害額の推定

リチャード・トールによる研究結果をまとめると、0~5℃の気温上昇の範囲では、気候変動による推定被害額は1番大きなものでも世界総生産の5%程度である
一部の研究では1℃の気温上昇は損失ではなく利益をもたらす可能性があるという結果が出ている(主に農業分野の二酸化炭素施肥効果)。
これらの研究は潜在的な臨界点を信頼できる方法で組み込んでいない。組み込まれた場合、損害曲線はさらに急勾配になる可能性もある

推定に関する但し書き

推定には定量可能な影響しか含まれておらず、しかもそのほとんどを農業、不動産、土壌、森林、健康といった市場領域や周辺市場領域が占めている
研究では小さな負の要因と、正の要因がいくつか割愛されているが、小さな要因が積もり積もって大きな影響となる可能性はゼロではない
不確実性が高い
臨界点とそこから生じる結果による影響を評価することは難しい

まとめ

  • 影響を推定することの難しさ

  • 気候変動がもたらす経済的影響は、次の50年から100年の間に予想されている経済活動の全体的な変化に比べれば微々たるものだと考えられている

  • 人為的に管理されていない、あるいは人為的な管理が不可能な人間システムや自然システムで起きる、気候変動の最も破壊的な影響は、一般的な市場から遠く離れている

  • 気候変動を抑制するためのコスト、さまざまな目標達成のために必要なコストについて考える


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