メモ読) 気候カジノ_第Ⅲ部 気候変動の抑制 ー アプローチとコスト
第Ⅲ部 気候変動の抑制 ー アプローチとコスト
第13章 気候変動への対応 ー 適応策と気候工学
気候変動の脅威に立ち向かうための3つのアプローチ
・適応策(温暖化の阻止ではなく共存を目指す)
・気候工学で冷却効果のある物質を利用し、二酸化炭素による気温上昇を相殺する
・緩和策(温室効果ガスの排出量や、大気中濃度を低下させるための対策)
適応策 ー 気候変動との共存を模索する
「適応」とは、人間システムやほかの生物システムにもたらされる気候変動の負の影響を、回避または緩和するために行う調整のこと
適応の2つの基本て特徴
・防止策がグローバルなものであるのに対し、適応策はローカル。コストを負うのも恩恵を被るのも、策を講じた本人
・気候変動と共存することに重きを置いている
適応さくは地球温暖化リスク低減を目的とした対策の必要かつ有益な要素
ただし、あくまで補完的なものであり緩和策に取って変われるものではない
気候工学 ー 人工的な火山噴火を通じた地球温暖化の抑制
気候工学(ジオエンジニアリング)
・待機中から二酸化炭素を除去する技術
・太陽の光や熱を反射させて宇宙に送り返す、太陽放射管理技術
太陽放射管理技術とは、地球のエネルギーバランスを変えることによって温暖化を抑制、阻止しようという策
地球に届く太陽光を減らすために、地球を「より白く」して反射率を上げるプロセス
約2%の太陽光を反射できれば、二酸化炭素濃度の倍増によって引き起こされる気温上昇を相殺できる
最大の懸念はその副作用
気候工学が温室効果への根本的な解決策にはなり得ない
地球のエネルギーバランスの変化は大気中の二酸化炭素濃度にはほとんど影響を及ぼさないため、海洋酸性化の問題を解決には繋がらない
反射性粒子の大気中への投入は、適正な量で行われた場合、地球の気温を今日の水準まで下げることはできるが、重大な副作用も明らかになっている。例えば、降水量の全体的な減少など
政治問題を生む可能性もある。特定の国々が積極的な気候管理に関わるようになると、望ましくない気象パターンが現れた時に影響を受けた側はその国々を名指して非難することになる
気候変動はサルベージ療法(すべての治療が失敗した際に用いられる、危険度の高い対処法)
気候工学に目を向けることが「モラルハザード(倫理の欠如)」に繋がると懸念されているが地球物理学的末期状態への対処法のポートフォリオを持つことは賢明なことだ
国際社会は、気候工学を国際的な規制や管理のもとにおくための条件について検討し、特定の政府が国益のために戦略的な使い方をしないように取り決めなければならない
第14章 排出削減による気候変動の抑制 ー 緩和策
緩和策=防止策
温室効果ガスの濃度を低下させる方策のこと
二酸化炭素の発生源
二酸化炭素の排出量を抑制するには世界の国々が「化石年用の利用を減らす」か、化石燃料を使い続けるのであれば「排出された二酸化炭素を取り除く方法を見つける」か
二酸化炭素の主な発生源は石炭と石油であり、世界のエネルギー起源による二酸化炭素排出量の35%〜40%を占めている
1,000ドルあたりの燃料から排出される二酸化炭素の量の推定は
・石油は、燃料1,000ドルあたり0.9トン
・天然ガスは、燃料1,000ドルあたり2トン
・石炭は、燃料1,000ドルあたり11トン
エネルギー起源による二酸化炭素削減のための最も経済的アプローチは、石炭使用量を減らすこと
家庭から見た二酸化炭素の排出
アメリカの家庭における最大の排出源は車の運転で1世帯あたり年間およそ8トンであり、1世帯あたりの年間排出量は20トンになる
排出削減のための技術
全体的な経済成長を抑制する
エネルギー消費量を減らす
財やサービスの生産における炭素集約度を低下させる
大気中から二酸化炭素を取り除く
緩和策の具体例
■ エネルギー転換
天然ガスの使用:二酸化炭素排出量は石炭の1/2程度
■ 燃焼後回収
豊富な化石燃料をこれまで通り利用して経済を動かしつつも、気候への影響を軽減できる
二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)。燃焼の際に二酸化炭素を回収して別の場所に送り、何百年もの間貯留して、大気中に出さないようにする。コストが高い。毎年何百億トンもの二酸化炭素を処理するための施設が必要。地中貯留の機能性については不十分なデータしかない。
■ 未来の技術
未来の技術
莫大なコストと除去されるスケールが非常に大きいが壁となっている
しかし、急激な技術革新の可能性を排除すべきではない
緩和策が効率的に管理されれば、次の半世紀で生活水準が被る影響は極めて限定的なものになる
第15章 気候変動抑制のコスト
費用を表す尺度
「二酸化炭素1トンあたりの削減にかかる費用」
ケースその1 ー 新しい冷蔵庫
新型の冷蔵庫 1,000ドル
耐用年数 10年
消費電力 年間50ドルの節約(10年間で500ドル)
正味費用 500ドル
二酸化炭素排出量 年間0.3トン減(10年間で3トン)
二酸化炭素1トンあたりの排出削減費用 167ドル
ケースその2 ー 天然ガス発電
新設ガス火力発電所
1kWhあたりの変動費 1セント安い
二酸化炭素排出量の差 1,000kWhあたり0.5トン
二酸化炭素1トンあたり排出削減費用 20ドル
二酸化炭素排出削減費用の算出
経済には低コストの機会が数多く存在している。中には、エネルギーコストの削減額が初期投資を上回るという意味で、「負の費用」が発生するケースもある
排出制限を厳しくすると、排出費用は急激に増加し始める。研究によれば、10〜20%の排出削減であれば、世界の国々は比較的安価に、場合によってはコストをかけることなく、目標を達成できる。しかし、数年間で排出量の80〜90%を削減しようとすると、おそらく莫大なコストが発生する
今日、気候問題を一発で解決できる特効薬的な技術はない。その代わり、世界中の、ほぼすべての国のすべての産業分野には、限りない数の機会が存在する
政策のポートフォリオでは、化石燃料の燃料以外の排出源を軽視すべきでない。温室効果ガスの中には、低コストで削減できるものがたくさんある。(例えば、オゾン層破壊の原因となっていたフロンの使用禁止は、大規模な温暖化を引き起こしていたかもしれない温室効果ガスの削減につながった
経済学者は、二酸化炭素の排出削減や先進的低炭素技術の開発に対する強力なインセンティブを付与する政策を立案すべきだと主張している
総排出削減費用曲線
技術アプローチ(ボトムアップ方式)
車、溶鉱炉、発電所などで利用されているさまざまな技術に目を向けて費用を推定する。各部門の二酸化炭素排出量をどうやって、どのくらいの費用で削減できるのかを調べる。2025年までに二酸化炭素排出量を15%までであれば、負の費用、つまりコストを節約する手段が多く存在している。さらに15%削減するとアメリカにとっての費用は1000億ドルとなる
通常限られた数の技術しか分析していない(単にすべてを分析に含めるのは不可能であるという理由)
しばしば非現実的な前提を含んでいる。
経済モデルアプローチ(トップダウン方式)
経済モデルによるコストの推定。負の費用という選択肢がない
原則として考え得るすべてのアプローチが考慮される(例)消費パターンを変える など)
政策を反映している
有効な削減費用の基本的な特徴はすべてのモデルで共通している
少量のコスト削減であれば、コストはそれほど大きく変わらないが、削減率を上げ、時間軸を短縮した途端、一気に増加する
国際的な温度目標を達成するための費用
理想的なシナリオ(世界の国々の参加率100%、政策の効率性100%)の場合、コペンハーゲン合意(世界平均気温の上昇幅を2℃以内に抑える)を達成するために必要となる費用は世界総所得の1.5%、平均所得の年間増加分程度
2012年時点で、京都議定書がカバーしたのは、世界の総排出量のわずか5分の1だった。それを考慮し、世界の総排出量の50%を占める国々の参加にとどまると仮定すると、4℃以下にするための費用が一気に膨張する
ほぼすべての国が速やかに、効率的に取り組みに参加しない限り、今ある技術や直ちに利用可能な技術を使って、コペンハーゲン合意の2℃目標を達成することは不可能である
第16章 割引と時間の価値
我々が二酸化炭素の削減に向けて投資する場合、その費用のほとんどは今後短期間に支払われることになる。しかし、温暖化損失の軽減という便益がもたらされるのは、はるか先のことだ
我々は市場の現実を無視した公平性という抽象的な定義ではなく、社会が向き合う実際の市場機会を反映した割引率を用いるべきである。市場割引率の論理は、将来のことは将来の世代でなんとかすれば良いという単なる自己中心的な発想ではない。割引は、世の中には将来世代の生活水準を向上させる、高収益投資が数多く存在することを反映している。
地球温暖化政策への投資は他の投資と競合するべきであり、割引率はそうした投資を比較する際の物差しとなる
まとめ
経済分析や技術的分析によれば、気候変動のレベルを安全域内にとどめることは可能だが、世界が全員参加のもとで、精力的かつ効率的に取り組めば、気温上昇幅を2℃以内に抑えることができる。たとえ取り組みが遅れ、いくつかの国が参加を拒んだとしても、3℃にとどめることができる。経済研究によれば、政策がある程度効率的に実施された場合、気温上昇を2.5℃〜3℃に抑えるための費用は割引後の世界総所得の1%程度
この楽観的な見通しには、協調的で効率的な対策が不可欠である
対策が効率的であるためには、ほぼすべての国の参加だけでなく、効率も求められる。