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鍵失す者のナレッジ

 大学1年生の春から梅雨くらいの、ほんの少しだけの間だけど、たかさんとあごしゃきと、伊都から天神まで筑肥線〜空港線に乗って出掛ける時間が好きだった。2人ともすぐに原付に乗り始めたから、本当に夏になるかならないかくらいの間までだけど、この電車移動はわたしにとってとても楽しみな時間だった。

 さて、わたしはよく物が見当たらない子供だった。中学も高校もなんなら今も変わらない。見知らぬところに物を忘れたりする、というよりも、片付けができないため、家の中で紛失するのだ。決められた場所に置く、もとあったところに戻す、たったこれだけのことなのに、どうしてこんなに難しいのだろう。だから、「見つける」作業をいかにすばやく終えられるはかなり重要だ。特に迫りくる塾の時間に間に合うように失くした自転車の鍵を探す、焦る、見つかる、自転車を死ぬほどこぐ、遅刻ギリギリというのは今までの人生で何度繰り返したかわからない。
 そして、ひとつ、鍵の失くしものをしないよう便利なことを思い出したので、2人にも教えてあげようと思った。

「自転車の鍵にね、鈴をつけるといいよ!見当たらない時にジャンプしたら、今持ってる鞄に入ってるかわかるから!」

 正直人に教えるのは惜しいくらいに、これはすごい裏技、ナレッジ、ライフハックだ。けど、2人には特別に教えてあげよう。

 あごしゃきはその場で鈴付き鍵を持ってジャンプした。チリンと鈴の音がその場で鳴った。感心したように「天才か?すごいなあ」と言ってくれた。そうだろう、そうだろう。なんだかわたしの鼻は高いし、あごしゃきの輪郭もシャープだ。

 たかさんはというと、それを見てあまり相手にしていないように、「俺は自転車の鍵は財布に絶対入れるようにしてるからそもそもなくさへんねん。」と、クールに言い切った。わたしは、自転車の鍵を、たとえば急いでいる時でも毎回財布に入れるのは絶対に無理だから、たかさんのことを偉いなぁと思った。その反面、せっかくのとっておきをサラッと流されて、ほんのちょっぴり、残念だなあと思った。それでも、あごしゃきに褒められたわたしの鼻の高さはキープされてるし、たかさんの足は。ともあれ、人それぞれとはこういうことだ。
 しかし、その数日後。「自転車の鍵失くしたわ」と慌てるたかさんに出くわした。わたしは「鈴つけないからだよ!」と偉そうに言った。たかさんは「本当にそうやなあ」と頭をかきながら、鞄の中身をひっくり返した。ね、鈴をつければ、いいでしょう。

 そして、自転車の鍵を絶対になくさない方法がある。実は、鍵に鈴をつける、これよりもすごいことだ。いるかいないかは知らないが、このnoteの読者にだけ、教えてあげよう。










ダイヤル式の鍵をつけるのだ。

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