スマート農業戦記

爽やかな朝、ある地域の農家の一人が目を覚ました。時刻はおよそ8時。本来農家として働いているなら、とっくに起きて農作業なりなんなりをしていなければならないはずだった。

「うーん…よく寝たなぁ…」

農家は歯を磨き、朝食の準備をし、新聞を読み、朝のニュースをBGMにしながら、朝食を平らげた。その後、食器を洗い、着替えてから家の外に出た。

外は雲一つない、綺麗な青空だった。

そして彼は自分の畑へと歩いてゆく。初夏の一日、これから暑くなるだろうという空気が漂っていた。

「よし!今日も元気に育っているな!」

彼の畑では、何種類ものフルーツが、大きく育ち、出荷される時を今か今かと待っていた。

彼の頭上を一台のドローンが飛んで行く。

そう、彼は今の時代の主流の農家、スマート農業をしている農家だ。

近年、農家の後継ぎがいないことを嘆いていた農家たちは、ありとあらゆる手で後継者を生み出そうとした。そしてスマート農業が誕生し、それが世界の主流となった。今や機械に頼らず作物を育てるのは、ごく一部の趣味人か、料亭などの高級店に直接品を卸す農家くらいだった。

「明日には出荷できるだろうな…」

そう考え、農家が今日の作業に移ろうとしたその時、農家の視界の端に何かがよぎった。

「うん?」

農家はそれを視界の中心に捉え、正体を探ろうとした。

青空の一点、黒い点が少しずつこちらに近づいてくる。

「あれはっ!まさか!」

そう!それはドローン!しかも5機編成の編隊だ!

邪悪な漆黒の色のドローンが!真っすぐに畑へと飛んでくる!

「や、やめろー!やめてくれー!」

ドローン隊は、液体の散布を始めた。

「う、うおぉぉぉぉーっ!」

農家は家から傘を受け取り、畑に傘を差す。

しかし、ドローン編隊の一機が傘に体当たりし、傘を吹き飛ばした。

フルーツが!作物が!枯れてゆく!ドローンが撒いているのは強力な除草剤だ!

「うわぁぁぁぁ!」

近年、このような事件が後を絶たなかった。

スマート農業が、世に広まる前にも似たような事件が起きていた。

夜間、畑の主が寝静まった間に、作物を駄目にするという犯罪方法。

優れた作物を作る農家が、周りに恨みを買ってしまった農家が、被害を受けていた。

そしてスマート農業が世に広まった現在、多くの農家が、高品質の作物を大量に、生産できるようになった。それこそ需要を大幅に超えて。

大量の作物が世に溢れた現在、農家同士の暗闘が始まっていた。

作物を育てるはずのドローンを、スマート農業の機械たちを同業者へ攻撃するための兵器に転用したのだ。

「うわぁぁぁぁ!」

悲鳴が響き渡る。

それを、どこかの農家が笑いながら聞いていた。


それから時は流れて…


「敵の攻撃だ!撃てぇ!撃ちまくれぇ!」

農家の指示と共に、対空砲が空へと放たれる。

狙われるは超大型ドローンHa-Ge1型、人呼んで「ハゲタカ」と呼ばれるドローンだ!

ハゲタカが搭載しているのは、大地を腐らせる薬!ダークウェブで出鱈目な価格で取引される代物だ!

「撃ち落せ!だが畑の中で撃ち落すなよ!」

農家が駆るは民間用に販売される高射砲、農家の暗闘は表層化し、遂に世界中で日夜戦いが繰り広げられるようになった!

スマート農業高射砲がハゲタカのプロペラを撃ち落とす!ハゲタカは撃墜!落ちた林の大地が腐り、林が急激に枯れてゆく!

ここで別の農家に目を向けてみよう。

「ヒィィィーッ助けてくれぇぇぇっ!」

農家が獣に追い掛け回されていた。

それは猪のように見えるが、ただの猪ではない。

バイオモンスターだ!背中に小さな機関銃を背負っている!カワイイ!

農家間の闘争はついに生命すら歪めるに至った!

農家間の戦いで台地は荒れ果て、野生動物たちは餌を取れず絶滅の一途を辿ろうとしていた。

しかし、その野生動物に農家達が目を付けた。

己らが使っていたが壊れた兵器と、野生動物を融合させるという邪法!エコだ!

世間からは絶滅危惧種となろうとしていた野生動物の保護を謳い、実際にはこの所業!邪悪だ!

「ブモォォォォー!」

機関銃が火を噴く!農家の頭が吹き飛んだ!

そのような光景は日常茶飯事だった。



更に更に時は流れて…




砂嵐が吹き荒れる、人々は、安住の地を求めて砂漠を彷徨う。

農家の戦いは遂に第一次農家大戦へと勃発した!

核の炎が世界を焼き尽くし、農家達が世界に覇を唱え、日夜戦争を繰り広げていた。

ブゥゥゥゥ……ン

「!」

人々は一斉に身を隠す。

野良ドローンだ。

積まれたAIが損傷し、見かけた生物全てを襲うように成り果てた。

「あぁ…神よ」

一人の少女が顔を上げた。

そこには巨大な像があり、それはかつてどこかの農協のマスコットだった。

「美味しい野菜を皆で仲良く食べよう!」

そのマスコットの横の吹き出しが、虚しく人々にそう呼び掛けていた。

【終わり】