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可不可/1→0

 安楽椅子に座る私の前で、暖炉の薪が音を立てている。パチパチと音を立てながら火の粉が爆ぜ、人はこれを見て郷愁に駆られるのだろうかと益体もないことを考える。

「本日の報告:本日の素材の入荷も滞りなく終わり、他に特筆すべき事柄はなく、いたって平穏でありました。報告終わり」

 手に持っていたボイスレコーダーに日記を吹き込む。職業病ではないが、これをせねばいけない身だ。例え、聞かせる相手がいないのだとしても。
 ボイスレコーダーの録音停止ボタンを押し、眼を閉じる。スリープモードへ移行しかけた瞬間、私の聴覚機構が異音を捉えた。這い進む音。舌打ちしかけ、堪える。

『これを仕入れるのにアフリカの奥地まで行ったんだぜ!異魔曝露数値は通常の半分以下!サイボーグ化もしてない生!これはもう人だ!お買い得だぞ!』

 軽薄そうに笑う男の宣伝が頭脳を過る。猪、猿に続いて恐らくは蛇か。詐欺師め。

「シィィィ!!」

 破砕音。それと同時に右手首を破棄し武装を稼働。過剰なまでの殺傷力を秘めた炎の刃を振り上げる。

「シャア!」

 刃が揺らめき、頭上から舞い降りる影を切り捨てERROR!首部人工筋肉に多数の断裂!骨格部にヒビ発生!油圧低下多数視界に発生するエラーのポップアップを処理し、首に突き刺さる巨大な牙と肉を掴み投げ捨てる。衝撃によりコンマ数秒のラグが起きたか。

『このポンコツが!三原則はどうした!?』

 蛇と人間が混ざったような奇怪なる存在が、私を睨め付ける。切り捨てられた牙と頭部が、泡を立てながら逆再生のように癒着し、生えてゆく。

「三原則?君は、自分がまだ人間だと思っているのかね?」

 酷く、落胆した気持ちが私の胸の内に宿る。

「私の古びたセンサーには、とてもじゃないが君は人には見えないよ」

 素材には、人間の骨を使った咒式印章には使えない。人がもういない。人じゃないなら殺すしかない。職務規定違反だ。処分を求む。

【続く】