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レスト・イン・ピース・トゥ・ザ・ガーディアン・フロム・シヴィライゼーション#6

膝から崩れ落ちながら、マウイは考える。デンタータ?ソフィア・デイビスは存在していない?自らの背後に立つ、ソフィアと同じ顔をした、全く別人のニンジャは楽し気にマウイの前へと回り込む。「ああ。ここまで来るのは長かったわ」両手を広げ、クルクルとその場で周り、笑顔を浮かべる。

「ネヴァ。彼、どういうことかまるでわかってないって顔してるよ」「家の外ではデンタータって呼んでよ。ヒプノシス」ヒプノシスとデンタータは楽しげに語りあう。それは仲間というより、更に深い仲であると明言するようで。『…チッ!』ファウンドはあからさまに舌打ちをした。

「それじゃあ、種明かしをしてあげるわ。マウイ=サン」デンタータはしゃがみ込み、這いつくばるマウイを見下ろす。「何から聞きたいかしら。私たちの目的?どこからどこまで私たちが関わっていたか?貴方の残り時間も少なさそうね」未だにマウイの脇腹からは血が零れ落ちてゆく。

「じゃあまず、私たちの目的ね。貴方たちシルバの一族が、この島のかつての支配者から守るように言いつけられたものをいただくことなの」マウイは眼を見開いた。そこまで、知られていたのかと。「アダナスはメガコーポよ?古い文献を探す力はあるし、そこに私の知識があれば、簡単よ」

「と言っても、上は他社との合同プロジェクトにかかりきりだから、使える予算と人材に限りはあったけどね」ヒプノシスが苦笑いと共に言葉を継ぐ。「次に知りたいのは、私たちがどこまで関わっているか、でしょ?ああまだ起きてて。死ぬ前に知りたいでしょ?」デンタータはマウイの頬をはたく。

「貴方も予想していただろうけど、全部よ。貴方の家族が死んだ日からの全て。私が計画したプロジェクトの一環」デンタータは誇らしげに胸元に手を当てる。その胸は豊満だった。「ご、ゴボッ!」マウイは血の塊を吐き出し、睨む。ソフィアの顔で、これ以上喋るなと。

「夢見がちなバカどもに耳元で儲け話を囁いたのも、クローンヤクザを暗殺者として送り込んだのも、ぜーんぶ私。ああ費用を建て替えるのも面倒だったわ」仕事がうまくいった時、人は誰かに語りたがるものだ。例えそれが、その仕事で被害を被った相手だろうと。

「ツァア!」マウイは握ったままの槍を放つ。だが。「フッ!」デンタータは槍の側面に手を添えると、一撃で圧し折った。『ゴミカスがぁ!』「アバーッ!」ファウンドは跳躍すると、マウイの上に着地!数百キロもの重量がマウイに圧し掛かる!

『この!シュー!ゴミカスが!よくも彼女を!コー!傷つけようとしたな!手間をかけさせたな!』怒りと殺意を滲ませながらストンプを繰り返す!「アバーッ!アバーッ!アバーッ!アバーッ!」マウイの出血が増し、更に臓物が溢れる!

「フフ、大丈夫よ。ファウンド=サン。心配してくれてありがとうね」デンタータが、ファウンドの体に手を這わせる。『シュー…貴方が無事なら、それでいいんだ』ファウンドはマウイの上からどいた。車道は砕け、マウイは地面にめり込んでいる。「ゴフッ…」

「もうそろそろ限界そうだから、最後に知りたいことを教えてあげるわ」マウイは、限界に近い体を強いて、顔を持ち上げる。「ソフィア・デイビスとは結局何だったのか。なんで私がこの島にソフィアとしてやって来たのかを」

「ヒプノシス=サンのジツはね、相手を意のままに操ることが出来るの」ヒプノシスはヒラヒラと手を振るう。「道端を歩いていただけの人を暗殺者に仕立て上げたり、コーポの社員に社内情報を漏洩させたり」デンタータは口の端を持ち上げる。「まったく別の人格を築き上げさせたり」

「彼のジツを使って私の中に作り上げた第二の人格。それが、ソフィア・デイビスよ」「設定を練るのに数日間は会議室に籠りっぱなしだったよ」「ヒュー…ヒュー」なら、デンタータの、ソフィアの口から語られた内容は全くの嘘?大学の話も、かつて起きたことも、何もかも?

「ソフィアは、この島で二つの目的を果たすために動いたわ」「一つは、隠された入り口を探すこと」『シュー…もう一つはゴミカス。お前に取り入って隙を疑うことだ』「本人は考古学調査のつもりだったのだけれどもね」

「島に隠されているものは知っているけど、そこに至るための入り口がどこにあるかわからなかったの」イースター島は限りなく平面に近い島だ。洞窟も無ければ、かつての火山のクレーターの湖から続く地下水脈もない。秘された入り口を探すには容易くはない。

「だからソフィアとなっていた私は、この島の至る所に出向き、調査を行ったの」デンタータは、義肢の左腕のオモチシリコンを剥ぎ取った!そこには大量の計器が隠されていた!「これでオヒガン的なデータを取って、一番値が大きな場所を探し当てたの」

「物理的にも場所の確認は出来ているよ」ヒプノシスが掴むのは、ソフィアが使っていたはずのカメラ。「君、記憶素子を抜けばいいと思ってたんだろうけど、これは特注で作ったデータをすぐに転送できるカメラ。高かったんだよ」ヒプノシスは車列に進むように指示を出す。

デンタータらを避けながら、車が走り去ってゆく。「ねえ、マウイ。初めてあの海岸で私を、ソフィアを見つけた時、心が躍ったでしょう?何かが始まったんだって」デンタータは、マウイを掴むと血が飛び散るのも構わずに立たせ、ステップを踏む。ワルツのステップを。

「貴方、面倒なくらいに強かったんだもの。貴方の家族全員、よくある毒を盛っても耐性があるのか効かないし、ニンジャソウルが強いのかグレイヴロベリィ=サン達も貴方を殺さずに逃げ出すし」家族が殺された日、あの日からマウイが誰かに心を許すことはなかった。

「だから、絡め手として貴方を孤立させて、貴方専用のヒロインの『ソフィア・デイビス』を作ったの。貴方を殺せる、ほんの一瞬を生みだすために」島民の中に手引きした者がいるんじゃないか。いや島民の全てが、国が、自分たち家族を排除しようとしたのでは?

「暗殺者を送り込まれて、誰が敵で誰が味方かわからない日々の中で、誰かの温もりに飢えていたんでしょう?心が擦り切れてゆく日々は辛かったでしょう?」そうやって疑心暗鬼になっていた日々に現れたソフィアは、余りに眩しすぎた。

「ソフィアを守るために戦って、ソフィアと語って、ソフィアと触れ合って、孤独に打ちのめされていた心が癒されたでしょう?気を許していたでしょう?」姉に似ているのもあったのだろうが、どこか惹かれていたんだろう。それも、デンタータは織り込み済みだったのかもしれない。

「だから貴方はこうして」デンタータの手が離れ、マウイの体は再び崩れ落ちた。「私に殺されたの」そして、一礼。ファウンドは拍手を送り、そしてマウイの頭に足を乗せる。「放っておきなさい。どうせ数分の命よ」デンタータはマウイへの興味を無くしたのか、車列が走り去った方向へ歩き出す。

アダナスのニンジャたちは、少しずつ速度を上げ、走り去った。「……」崩れ落ちたマウイは手を伸ばし、車道に爪を立てる。そして、少しずつ這い進む。かつてゴンザレス・シルバがそうしたように。逃れることなど出来ない死を前にして、最後に行うべきことをしようとするために。「みんな…」

「島から…逃げ…」だが、ニンジャとはいえ棺桶に片足どころかほぼ全身が入っているようなマウイでは、数メートル這い進むのが限界だった。力尽き、視界が少しずつ狭くなる中、マウイが見たのは己に向かって走る車だった。

◆◆◆

「換装行います」「了解。神経接続まで3,2,1」ハンガーに吊られたデンタータ。力なく垂れ下がっていた四肢、両の手が握り拳を作り、足の指はピアノでも弾くかの如き動きを成す。「ラグは発生していますか?」「いいえ、コンマゼロ秒もないわ」デンタータは自力でハンガーを降りる。

デンタータの義肢は、ソフィアだった頃から付けていた調査用の四肢から、義肢であることを一切隠そうともしない戦闘用の四肢へ、本来のものへと換装されていた。「お疲れ」ヒプノシスは入れていたコーヒーをデンタータへ差し出す。彼女は受け取ると、香りを楽しみ口を着けた。

「野蛮人に付き合っていたせいで、こんな素晴らしい飲み物から一週間も離れることになるなんて」デンタータは満足そうに微笑み、椅子に座る。簡易テントでくつろぐ二人の目の前では、急ピッチで壁が作られ、研究のための施設の建設が始まっていた。

『シュー…デンタータ=サン。準備が出来た』そこへ、ファウンドが近づく。手には血液パックを掴んでいた。「わかったわ」デンタータはコーヒーを一気に飲み干すと、血液パックを受け取り研究施設を建設予定地中央へと歩き出す。

そこに存在していたのは、モアイ像だった。島の至る所にあるモアイ像と何ら変わりはない。「データ及び画像からして、ここだろうね」ヒプノシスは、踵でモアイ像の目の前の地面を何度か叩く。「ええ、始めるわ」デンタータは首の異形の生体LAN端子2本を伸ばす。

『シューッ了解』ファウンドは、自身の体から伸ばしたLAN端子をデンタータと直結した。「イヤーッ!」デンタータの2本の生体LAN端子はドリルめいて高速回転!血液パックを破り血に塗れる!そして、モアイ像の鼻へと突き立てられた!0101010101111…

…0101010110001「ふう」コトダマ空間で、デンタータは一つ息を吐いた。やはり己の仮説は正しかったのだと。モアイ像は、かつてこの島の支配者が残した記録媒体。古代のUNIXに近しい存在だということが証明されたのだ。

「デンタータ=サン」デンタータの手を握る少年がいた。ファウンド。「ええ、感慨深さに浸るのは終わってからね」そして、二人は浮き上がると地の底へと飛翔した。途中、警戒のための古代のデーモンが存在したが、偽装や回避をすることで難なく突破した。

そして、遠方に黒い存在を認めた二人は速度を上げ、それの前で停止した。漆黒のモアイ像。「これが、メインシステムね」モアイ像の目が光る!像から大量の蔦が伸び、鞭の如く振るわれる!「イヤーッ!」ファウンドの指先から光線が舞い、蔦を焼き払う!神秘のKickコマンドだ!

「イヤーッ!」デンタータは蔦と光線が飛び交う中を、イナズマめいた軌跡を描きながら飛ぶ!そして、モアイ像の顔に触れる!「管理者権限の確認を要求…!」デンタータの体から血液が溢れ、それが纏まり始める!『王に認められぬ存在…王に認められぬ存在…』モアイ像が呟く。

蔦がデンタータへと殺到する!「イヤーッ!」ファウンドが即座にデンタータの背を守る!論理防壁を展開!蔦は防壁を破壊せんと、浸食を開始する!「デンタータ=サン!急いで!」ファウンドは叫ぶ!

「…!」デンタータの傍に纏まった血液は形を成し、そしてモアイ像に触れる!『…王に認められし、モータルの一族よ。王の都へと至るがよい』モアイ像が呟くと、蔦は一瞬にして掻き消えた。

モアイ像に触れたのは、血液で作られたガブリエル・シルバの偽造IPだった。デンタータが貫いて手に入れたマウイの血液。それを用いて不正に操作を行ったのだ!「…ふう」デンタータの鼻から一筋の血が流れ、01となる。「無事ですか?」ファウンドはいたわしげにデンタータに問いかける。

「無事よ…現実に戻りましょう」デンタータは上へ浮上し、ファウンドもそれを追う0101010111…「大丈夫か、デンタータ=サン」ヒプノシスは、デンタータが垂らした鼻血をハンカチで拭いていた。「ええ…」デンタータは異形の生体LAN端子をモアイ像の鼻から引き抜いた。

「ウオオオオーン…」モアイ像が鳴いた。すると、モアイ像の前の地面が割れ、地下へと続く階段が現れた。ファウンドもコトダマ空間から戻り、デンタータとの生体LAN直結を解く。「それじゃあ、深淵へと足を進めましょう?」デンタータは階段へと足をかけた。

◆◆◆

ハンガロアの街の中心部、島の病院前では警官隊と、一台の中古トラックに乗った警察官らが言い争いをしていた。「今すぐこいつを病院に担ぎ込まなきゃやばいんだよ!」中年の警察官は警官隊の隊長に詰め寄る!「上からの命令で、その男を病院に入れるわけにはいかない!」隊長も睨みつける!

「なんだなんだ?」「何かトラブルか?」住民らも何が起きているかわからず、遠巻きに騒動を見守っていた。「先輩!マズいです!脈がドンドン無くなって!」中古トラックの荷台の若い警察官が叫ぶ。その制服には血がベッタリと付いていた。「ワオ!?」「ゴア!?」住民らがどよめく!

「逃げ…ろ…島が…」荷台には、マウイが載せられていた。意識を失ったまま、寝言のように何事かを呟き続けている。無理やりタオルなどで失血を抑えようとしている形跡はあるが、そのタオル自体も血を吸いすぎてもはや使い物にはならなくなっている。

そこへ、緑色のパトカーと黒塗りの高級車が迫る!「逃げろ!」「轢かれる!」野次馬住民らは別れ、車を回避!「これは何の騒ぎだ!」パトカーから降り立ったのは警察署長。高級車からは県知事に市長が降り立つ。

「貴様ら!今日は署で待機しろと命じられていたはずだろうが!」署長は中年警察官に怒鳴りつける。「あれほどの大量の企業の人員がマウイの縄張りに踏み込めば、必ずトラブルが発生すると考え現場に駆け付けた次第であります!」中年警察官は敬礼をしながら答える。だが、事実は違う。

先日、マウイに軽トラックをパンクさせられた警察官らは、島に上陸したアダナス社員の中にいたファウンドを見て「奴ならマウイを叩きのめせるのでは?」と思い、気絶しているマウイを逮捕しようと考えていたのだ。だが、現場に到着したらそこには死にかけのマウイが転がされていた。

このままでは、マウイが死ぬ。そう考えた二人は急いでマウイを病院へと連れ込むために、代車の中古トラックに載せここまで来たのだ。「そいつに治療する必要などない!野垂れ死ねばいいんだ!」中年警察官と警察署長の間に市長が割り込む!

「奴は犯罪者だ!不法占拠に窃盗に脅迫に暴行に、果ては殺人までしている!助ける必要などない!悪だ!島の発展を妨げる悪だ!悪は滅ばなければならない!見ろ!街を!」市長は街を見る。寂れた街。死に始めている故郷。「マウイがいたせいで!シルバの一族のせいで町が衰退している!」

「ようやく、アダナス・コーポレーションが来て、島の経済がV字回復を始めようとしているんだ…!」県知事の声が震えた。「その男はきっと、アダナスに盾突いて排除されたのだろう。変に助けてアダナスの機嫌を損ねたら、今度こそ島が終わる…!」

「言いたいことはそれだけですか。おい!」中年警察官は荷台の警察官に声をかけ、マウイを担がせる。「今の話を聞いていたのか!そいつを助けるのは」「確かにマウイは、ガブリエル・シルバは犯罪者です。ですが、犯罪者だから死ねばいいとはとても、政治家の言う言葉とは思えません」

「クゥッ!おい!そこのお前!」市長がマウイを担ぐ警察官を指差す。「お前はどう思っているんだ!」「その男に命じられているだけならば、許そう。だが自分の意志で助けようというならば、ただでは済まんぞ」県知事の言葉を聞いて、若い警察官は鼻で笑う。

「どんな犯罪者も、病院で治療を受ける権利も、法廷で裁かれる権利もあるんスよ。アンタらにそれを決める権利がお有りで?」「署長!貴方のとこの署員の教育はどうなっているんだ!」県知事は警察署長へと詰め寄る。「急いで!」「ハイ!」「ン?」

そこへ、病院の正面玄関からストレッチャーを押す看護師と医師が駆けてくる。「彼をここへ載せてください!」「ええ!」医師の指示を受け、若い警察官はマウイをストレッチャーに載せた。「待てお前ら!そいつを病院に連れて行くのは許さん!仮に治療しようにもそこの設備じゃ」「できますよ」

「当院には可能な限りの最新の医療機器があります。半年前の事件の後に私の独断で設置しましたので」正面玄関から、杖を突いた初老の男性が姿を現す。「病院長!一体何のマネだ!その犯罪者を、ガブリエル・シルバを治療するのは島への、国への、アダナスへの敵対行為だぞ!」

「市長、この病院の名前はご存知でしょう」「…シルバ記念病院」市長は苦々しく言う。病院には、シルバ記念病院と書かれていた。ゴンザレス・シルバが島の発展のために私財を投げうち建てた病院。「ゴンザレス氏の忘れ形見を治療せずに死なせたら、私たちは彼に顔向けができない…!」

病院長の脳裏に、半年前の事件がリフレインする。病院に担ぎ込まれたゴンザレス一家。手の施しようがなく死んでいき、それを告げられたガブリエルの泣き叫ぶ姿を。「もう、ゴンザレスの家族を看取るのも、彼の子供が苦しむのを助けられないのも御免だ!」

「署長!今すぐこの病院のスタッフとそこの男を拘束しろ!」県知事が警察署長に命じる。「ですがマウイだけならまだしも他の罪状が…」「公務執行妨害でもなんでもいい!県知事殿に取り立ててもらえなければ、お前は今も燻ったままだったのだぞ!」市長のサポート物言い!

「…病院スタッフの拘束を命じる!かかれ!」警官隊は得心が行かないままに、マウイを運ぼうとする看護師を囲み、病院内に踏み入れようとする。しかし。「おい」警官隊の肩を掴む手があった。「止まって!」警官隊に立ちはだかる人がいた。「止めろ!」看護師を守る人々がいた。

「貴様ら何のつもりだ!」先ほどまで野次馬をしていた人々が、警官隊の妨害をしていた。「お前たち何をしているのかわかっているのか!?そいつは島の敵だぞ!お前たちも盗みを働かれたり迷惑をしていただろう!?そいつがいなくなれば、島が豊かになるんだぞ!?」

「市長さんよ」一人の肌が焼けている男が前に出た。漁師の組合のトップだ。「前にウチのせがれがよ、仲間を連れて肝試しでマウイの寝床に行ったことがあんだよ」「…何の話だ」「そしたら、寝床の近くに大量の墓があって、掘り起こしたら死体が埋まってたんだとよ。しかも、全部同じ顔の」

市長と県知事はギョッとする。ヒプノシスの送り込んだ人員、クローンヤクザ。マウイを追い詰めるのに必要だと言われ、密航上陸するのを黙認していた暗殺者たち。「ヘッ。知ってやがったってツラだな」トップは二人の顔を見て答えを知る。「で、この島は小せぇからよ。話はすぐに広まるわな」

「あいつが、ガブリエルが得体の知れない何かと一人で戦ってるのをみんな知ってるんだよ。巻き込まないつもりか信頼がないのかわからんがよ」「あいつがウチから盗みを働いた日の夜に、アイツが魚の干物を置いてってるんだ。監視カメラに写ってたから知ってるよ!」

「海岸に漂着したゴミを纏めて綺麗にしてくれたりもしてたしよ」「ウチの子供が溺れかけた時に助けてくれたわ!」「漁の道具を盗むバイオスズメを狩ってくれたぜ」「帰ってこない馬を連れ帰ってくれた!」それが、島民の総意だった。ガブリエル・シルバは死なせないと。

「なんなのだ貴様らは!どいつもこいつも少し助けられただけで絆されやがって!」「なあ政治家さんよ」中年の警察官が、県知事と市長の肩を掴む。「ここまで民意を無視して、アンタらがやっていることは、本当にこの島のためになるのか?」

「黙れ!」「グワーッ!?」市長は中年警官を殴打!「ゴンザレスゥ…!お前のガキといい、いつまでも私の邪魔をしやがって…!」「市長が暴力を振るったぞ!」「リコールしろ!」「ピエラに振られたのをまだ引きずってやがる!」住民らが市長に詰め寄る!

「暴動だ!市民を押さえろ!」「か、カカレー!」県知事の指示を受け、警察署長は警官隊に命令!警官隊は住民を取り押さえるために警棒を振るう!「邪魔するな!」「リコールスッゾ!」住民も警官隊を抑えるために組みつく!

「今の内に!」医師と看護師らは病院内へとストレッチャーを押す!「急いで手術室へ!」「ヒェッヒェッ!ゴンザレスゥ!随分傷ついてるのぅ!」待合室の老婆がストレッチャーの傍に近づいてくる。「おばあちゃん!診察はまだだから後にして!」受付嬢が椅子に座らせんとする。

「スゥーッ…ウゥーン…これはニンジャの血の臭いじゃ!」「ニンジャ?ニンジャなんているわけが」「ヒェッヒェッ!そんなに血や内臓をぶちまけながらまだ死なない!?ニンジャじゃなければなんなのかのう!デミアンはわかるかい!?」老婆は虚空に話しかける。

海難事故で息子を亡くしてから正気を失った老婆。彼女の言うことはとてもじゃないが信じられない。だが、ここまで失血しながら死なない人間を始めて見るのも事実。「…ご婦人、どうすればよいか教えてください」病院長が頭を下げる。「ヒェッヒェッ!わかってるじゃないかい!」老婆は上機嫌に笑う。

「治療を続けながらもう一つ作業を進めるよ!この雑誌に書いてあるんだよ!ニンジャはスシを食えば復活するって!」老婆は待合室にある雑誌から、陰謀やゴシップ、都市伝説が書かれたものを持ち出す。とても信じがたいが、今は老婆の言葉を聞かねばならない。ストレッチャーは進みだす!

「誰かスシを握れるかい!?スシを食わせるんだよ!ヒェッヒェッ!」手術室のランプがついた。マウイが救われるかは、老婆の狂気のみが知る。

レスト・イン・ピース・トゥ・ザ・ガーディアン・フロム・シヴィライゼーション#6終わり。#7へ続く。