ラストダンスの機会を寄越せ 騎士団長は剣を振るう
剣を振るう。
限界まで魔法で肉体強化を施し剣を振るう。
だが彼の剣が私の剣ごと私を両断した。
彼と出会ったのは女神が神殿に魔王の誕生を告げた次の日だった。
冒険者だった彼は、相棒の魔法使いの女性と食事中に女神の紋章が現れ、その場を見ていた店主や客が衛兵に伝え、翌日登城することとなった。
私も、騎士団長いや、一人の戦士としてその日集められた。
初めて彼を見たとき、彼は慣れない礼服を着させられ、どこか落ち着かない様子だったのを覚えている。
回避を重点、剣で打ち合うのを捨て、一撃離脱に変える。
しかし、彼が徒手の方の手を振るうと、一瞬私の傷が癒えたが、その次の瞬間私の内臓どころか全身が腐り出す。
その後彼は神殿に連れて行かれ、女神と聖女に会った。
そこで彼は己の使命を聞かされ、それぞれの大陸を巡ることとなった。
自爆覚悟で己の腕ごと彼の腕を爆破、聖剣を弾き飛ばす。
しかし私の腕が挽き肉に成り果てようとも彼の腕は健在、私の心臓を素手で引きずり出し、握り潰した。
そして彼と彼女の旅に私たちは着いていくことになった。
勇者の装備を得るための旅、魔王を倒すための旅。
今思えば順調だった。
各大陸を巡り、魔王の脅威に晒される人々を救い、在野の強者を仲間に加え、そして勇者の武具を手に入れる。
順調だった。
あの帝都奪還作戦までは…
世界各地で見た禁呪を体に施し、己を怪物と化し、挑む。
しかし人で無きモノに成り果てた私には聖剣のもたらす光は耐えられない。
一瞬で光に飲まれ、塵すら残さず消滅する。
彼を除くほぼすべてが失敗した。
ありとあらゆる人と魔の思惑が混じりあい、最悪の結果を産み出した。
その結果が今の彼だ。
彼を毒の霧で満たした部屋に誘きだし、戦いを仕掛ける。
しかし彼の魔法で毒は無意味と化す。
今の彼はもうかつての彼ではない。
人を救う者、世界の守護者、そのような称号は無意味と化した。
虐殺者、今の彼は敵からも、味方からもそう呼ばれている。
彼女の遺品を奪い、火山の火口に呼び出し、彼に襲いかかる。
しかし彼の逆鱗に触れた私は、呆気なく火口に叩き落とされる。
以前に部下の一人に勇者に魔王討伐後に即死する呪いをかけるべきだと進言されたことがある。
だが私はそれを聞き入れなかった。
何故なら―――――もうすでにそれは失敗していたから。
残された魔族たちと手を組み彼に戦いを挑む。
だが失敗した。
伝達役から王の手紙が渡され、それを読み驚愕した。
帝都奪還作戦の仔細を知った各国は同じ考えを持った。
魔王討伐後、彼が暴走する恐れがあると。
だから各国の選りすぐりの呪術師たちに彼に呪いをかけようとした。
しかしそれは失敗した。
それどころかカウンターとして呪術師全員が呪われ発狂し、狂い死んだ。
膝をつく。
一人、宿の屋上で剣を振るい続け、精魂尽き果てるまで何度も想像上の彼にありとあらゆる手段で戦い、どのような下劣な手を取ろうとも、彼を殺せない。
そして我が王は私に白羽の矢を立てた。
彼と共に戦い続け、彼の剣をよく知る私に、彼の抹殺指令が下された。
魔王討伐後、どのような手段や犠牲を出そうとも勇者を殺せと。
私は、そのような指令を下されずとも、ただ一人の人間として彼を殺そうとしただろう。
何故なら知っているからだ。
暴走どころではないから。
彼は女神に由来するありとあらゆる命、物体、存在を殺し尽くそうとするだろう。
何故なら彼は…
『この…この…!この邪神がぁ!』
『ごめん…なさい…ごめんなさい…!』
女神を―――――殺そうとしたから―――――