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アイ・アム・ザ・ワン・フー・セレクツ・ゾーズ・フー・マスト・セーブドゥ#5

地下に作られたショッピングモール。ネオサイタマジオフロント計画の第一段階として作られたそれは、地下7階に広さは小さなディストリクト並みとかなりの力の入れようが窺えた。もしオープンされたのなら、そこには子供や家族の笑顔が、活気が、未来があったのだろう。

しかしオープンされずに打ち捨てられたそこに今いるのは、ネオ・アンタイブディズムの信奉者たちだった。マネキンが飾られるはずの場所には殺されたボンズやブディストの死体が飾られ、空きテナントは悪魔儀式的前後のための部屋に。そこかしこに象徴とするマークの旗。悪魔の巣窟。

カノープスは、そのショッピングモールの成れの果てを見て、眉を顰める。侵入後、信奉者の一人を気絶させ、着ていたローブを奪い、変装をしているのだ。そこかしこで嬌声や血の臭いが漂い、気分が悪くなる。空中に橋渡された通路を歩き、反対側に渡ろうとする。

「アアアダブ」横を通り過ぎようとした信奉者の男が、カノープスに向けて何らかのアンタイブディズム的単語を話す。「アアアダブ」意味は理解できないがカノープスも同じ単語を話す。男は満足したように頷いてどこかに歩いて行く。何度か同じようなことが起きたがやり過ごすことは出来た。

この施設の地図は目にしたが、ネオ・アンタイブディズムの首魁、救世主の部屋がどこにあるかは書いてはいなかった。これ以上長時間居続けたらボロが出る。早く見つけなければ…!「あら?貴方見ない顔ね」スルリと、カノープスの横にピンク色の髪の女が現れた。

カノープスは身構える。ペタル。得体の知れない傭兵ニンジャ。ブンシン・ジツの使い手ではないのに、同じ顔のニンジャが4人。「ええ。最近ここの活動に参加し始めたんです」「ンフフ、そうなの」ペタルは笑いながらカノープスの周りを歩き続ける。

「どうかしたのですか?」「ンフッ、誤魔化せると思ってるの?」横の手すりに手をかけ、下の階からもう一人のペタルが上がってくる。「貴方の中から、ニンジャソウルを感じるの。私の知らないニンジャソウルがね」「新しいニンジャが来るって聞いてないから、貴方は侵入者。でしょ?」

カノープスのニンジャ第六感が警鐘を鳴らす!回避せねば死ぬと!「イヤーッ!」側転回避!カノープスは空中に飛び出す!ザン!先ほどまでカノープスが立っていた場所を、地面から生えた剣が薙ぎ払う!後コンマ数秒遅ければ、カバヤキめいて切り裂かれることになっただろう!

「ンフフン、残念」先ほどまでカノープスが立っていた場所に残されたままの影から、剣を手にしたペタルが這い出す。侵入して直後にニンジャソウル感知能力に長けたペタルに捕捉され、いつのまにか影に潜むジツのペタルに追跡された。カノープスは落下しながらそう考え、頭上の人影に気づく。

「イヤーッ!」上から落下するペタル!既に断頭踵落としの構え!「イヤーッ!」カノープスは腕をクロスし断頭踵落としをガードする!「ぐっ!…イヤーッ!」断頭は免れたものの、カノープスは踵落としの勢いにより加速し地下7階へ落とされる!このままでは墜落する!

カノープスは体を丸めて回転!地面に頭を向け、手を伸ばしそのまま頭、首、背中、腰、足の順番に着地。前転である。前転により落下及び断頭踵落としの衝撃を殺しきったのだ!BRATATATATATA!

頭上から銃声!ペタルの一人が両手にマシンガンを構え、乱射しながら落下!「イヤーッ!」立ち上がりクラウチングスタート回避!「アバーッ!」「アババババーッ!」カノープスが走る先にいた信奉者らが跳弾死!「この人たちは貴方たちの雇い主の仲間じゃないの!?」

「ンフッ、契約書に侵入者との戦闘中に巻き添えで殺しちゃ駄目って書いてないもの」「この人たちも彼のために死ねるなら本望でしょ?」カノープスは歯ぎしりをする。ペタルらは理屈をつけて殺人欲求に従い、出さなくていい犠牲を捻出しているだけである!

「みなさん逃げてください!」カノープスとて理解はしている!この場にいるのはテロリストの集団であると!多くの人々を死に追いやった者たちであると!しかし、巻き込んで死なせていいわけではない!だが!

「侵入者!」「ブッダの手先!」「殺せ!」信奉者らはサスマタやチャカを片手にカノープスを追う!BRATATATA!「アババババーッ!」「アババーッ!」そうなればペタルの餌食になるだけだ!「ンァハッハハハ!これはいいわ!ボーナスゲームみたいで!」高笑いする銃装備ペタル!

牽制のためにスリケンを投げようと構えたカノープス!「うっ!?」その構えた腕を、木の枝が絡めとる!銃装備ペタルの後ろで不敵に微笑むボー装備ペタル!カノープスはチョップで枝を切り落とし、銃撃を回避!再び走り出す!

逃走しながら、カノープスは訝しむ。あまりに連携が出来すぎている!ブンシン・ジツならばここまでの連携が可能だろうが、四人の内三人がそれぞれジツと思しき力を発揮している!例えカラテ特化ペタルがブンシン・ジツの使い手だとしても、これでは理屈が合わない!

ブゥン!影が足元を通り過ぎ、カノープスが踏み出さんとした足の下に非人道兵器マキビシがバラまかれた!「イヤーッ!」どうしようもなく、カノープスは前方に跳躍をした!しかし、四方にペタルが待ち構えていた!「「「「これで!オーテ・ツミよ!」」」」ペタルらは勝ち誇る!

「っ!」しかし、いつの間にかアンタイ・ニンジャ・ライフルを装備していたペタルが頭上を見上げる!「頭上注意!ヤバいのが来る!」頭上、ブッダをサヨナラファックする悪魔のステンドグラスに影が生まれ、そこから巨大な何かがステンドグラスを突き破り、エントリーをした。

「イヤーッ!」カノープスは無理やり体を捩じり、落下物を蹴って圧死回避!5人のニンジャは、近くの手すりにつかまり、落下物を注視する。「…ここが、アジトか」それは、肉の塊だった。脈動し、しかしその表面に苦悶に苦しむ人面祖が多数あった。いや、それは人面祖ではない。

「アバッ、アッババ」「コロし」「アイエエエ…」それぞれが、喋り死を嘆願し、苦しんでいた。「「「アイエエエエエエエ!!!」」」近くでカノープスを射撃せんとした信奉者らNRSにより失禁!あれは、生きた人間だ!生きた人間がニンジャに取り込まれている!信奉者らは一瞬で理解した。

肉塊は、蠢きだし、人の形を取る。それは、袈裟に酷似したニンジャ装束のニンジャだった。「ドーモ。ネオ・アンタイブディズムの皆さん。我が名はクガイ。貴様らを滅ぼすために遣われたブッダの使徒だ」手近の、信奉者の頭上へブッダの怒りを騙る拳が、振り下ろされた。

◆◆◆

ババババババ…「これより、テロリスト殲滅作戦を行う!」飛行する武装家紋ヘリの内部で、イタツキ・ボコ社の上級社員が檄を飛ばす。他に乗り合わせた兵士たちは、カマボコ・ツートンカラーのアサルトライフルを構えながら、上級社員の言葉を一言一句聞き逃さないようにしていた。

「目標はテロリストの首魁及び掴まれたと思われるイネクスペンシブの本来の成分表のデータの消去である!」ナムサン。イタツキ・ボコ社は狙われた理由が、本社ビル内部にテンプルがあったからということに気づかず、自社の看板商品が狙われたのだと考えていた。

「そして、存在する可能性のある他社の機密情報の奪取も任務に含まれている!」イタツキ・ボコ社の武装家紋ヘリの周りに、いくつか別の暗黒メガコーポの武装家紋ヘリが飛来している。全てがネオ・アンタイブディズムに狙われ、そして、機密を奪い合うライバルである。

『目標アジト上空。降下せよ』パイロットのアナウンスが響き、兵士らはヘリボーンの準備をする。「諸君!成功をいのアババババーッ!?」窓から飛び込んできた銃弾が、上級社員の頭部を貫通した!『アイエエエエ!?』パイロットが叫び、ヘリは回転しながら落ちてゆく!

「脱出!」兵士らは一斉に装備を手に掴みヘリから脱出。装備したパラシュートを開く。「「アバーッ!」」兵士が二人、回転する羽根に巻き込まれゴア死!残りの兵士は真っ赤に染まりながら、落下してゆく。

「ブッダの手先だ!」「撃ち落せ!」それを発見した地上警備信奉者らは弓矢を構え、頭上に射る!BRATATATATA!「「アババババッババー!」」当然ながら、兵士らに射殺された。「あそこにある穴から侵入する。催涙ガスの準備をしろ」隊長格と思しき兵士の命令を受け、数名の兵士が用意する。

割れたステンドグラスに、催涙ガスグレネードを投げ込み、そこからアジト内部に侵入する兵士ら。テロリストらの迎撃があるものだと考えていたが、一切銃弾が飛んでくることはない。催涙ガスの煙がもうもうと立ち込める地面に着地しようとする。ブゥン!「アババーッ!?」

暗がりから、巨大な肉の柱が振り下ろされ兵士が一人圧死!BRATATATA!暗闇から飛び出したピンク色の髪の女がマシンガンを乱射!「アババババーッ!」巻き込まれ数名の兵士が死亡!「アイエエエ!?何が!?」一人生き残った隊長格兵士は、天井から差し込む光の外に飛び出し辺りを確認する。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」目が慣れ、兵士の目に飛び込んできたのは、理外の戦いだった。「Arghhhhhhh!」荒れ狂う巨人の異形ニンジャに、四人の同じ顔のニンジャが襲い掛かり、夜空のような闇色の装束のニンジャが、その四人の内一人にカラテで妨害を仕掛けていた。隊長格兵士は即座に理解した。ここは、自分たち人間がいて良い場所ではない!

◆◆◆

「イヤァァァァッ!!」クガイは叫ぶ。四腕だったその巨体は更に変形し、六腕と化す!「センジュ・ケン!」それを五人のニンジャ目掛けて叩きつけんとする!「「「「「イヤーッ!」」」」」五人は跳躍回避!CRAAAASH!!通路と柱が粉砕!

「アババババーッ!」「アイエエエエ!?」飛び散った瓦礫が信奉者らに直撃!「ヌゥン!」クガイは残された一本の腕を砕かれていない柱に向け、それを力任せに引き抜く!「イヤァァァァッ!」その場で回転!小さな竜巻と化す!無論、運良く生き残った信奉者らもこれでミンチと化す!

「やめてくださいクゼ=サン!」カノープスはクガイに呼び掛ける!ナダ少年から聞いていた風貌により、カノープスはこの荒れ狂うニンジャこそがクゼであると判断!しかしナダ少年から聞いた慈悲深きボンズと、目の前で荒れ狂うニンジャが同一人物であると、カノープスには信じがたかった!

「何者だ女。貴様もネオ・アンタイブディズムの輩か?」クガイはぎろりとカノープスをねめつける。「ドーモ。クゼ=サン。カノープスです。私は!」「お喋りをしている暇があるのかしら!」ボー装備ペタルがカノープスの頭蓋を叩き割らんとボーを振り下ろす!

「イヤァァァァッ!」クガイは、両者を叩き潰さんと六腕全ての手を叩きつけんとする!「「イヤーッ!」」カノープスと、ボー装備ペタルはそれを察知!ボーを叩きつけた勢いと、ガードした衝撃により、上下回避!パァァァン!「グッ!」「ウッ!」まるで突風の様な衝撃波が両者を襲う!

「イ、ヤーッ!」しかしカノープスは落下の衝撃に耐え再び跳躍!クガイの目の前に跳ぶ!BRATATATATA!銃装備ペタルの弾丸が飛来!カノープスはきりもみ回転回避!「私は!賞金稼ぎのニンジャ!今回の事件の調査で!ナダ=サンに会いました!」ピタリと、クガイの動きが止まった。

「奴が…ナダ=サンは生きていたのか?」先ほどまでの悪鬼ようなクガイの顔から憤怒が消え、どこか理知的な光が目に宿る。「他の子も何人か、生き残っています!」「そう…なの…か…」カノープスは、ニンジャ第六感で理解していた。クゼは、ニンジャソウルに誘導されているのだと。

カノープスは、幾度か仕事で出会ったことがある。ニンジャソウルに憑依されたばかりの、ソウルからもたらされる殺人衝動や暴力、破壊への誘惑に導かれるまま暴れたニンジャたちに。クゼも、そのニンジャたちと同じ。ソウルからもたらされたそれに操られている。

テンプルが焼かれたという日。その日に抱いたクゼの憎悪が、怒りが、最初の凶行の発端だったのかもしれない。だがそれ以降は、ニンジャソウルから供給された怒りに、憎悪に支配され、凶行に及び続けた。怒りが収まることもなく、憎悪に導かれるまま多くの人々を傷つけた。

子供らの生存を知ろうともしなかったことがその証明だ。それほどまでに、今のクゼの眼は曇らされている。「今もあの子たちは貴方の帰りを待っているんです!これ以上暴れては」ZZTT!「ARGHHHHHHHHH!」クガイは突如痙攣し叫び始めた!これは!?

「ンフッフフフ!やっぱり!いくらカラテを振るっても手ごたえが無いわけね!」いつの間にか、ペタルの一人がクガイの肩に乗っていた。「実体のないものなら肉体を変形させたりできないものねぇ!」その手に握られていたのは、施設の電気配線だった!それをクガイに押し当て感電させている!

「みんな!火炎放射器を持ちなさい!」「「「ええ!」」」残りのペタルらは、近くにあった信奉者の残骸から火炎放射器を回収。クガイにノズルを向け引き金を引いた!GEBOBOBOBOBO!「ARGHHHHHH!」クガイの体が燃え上がる!体の表面が焼けこげ、ボロボロと崩れてゆく!

かつて、古事記から失われた一節があった。ヌリカベ・ニンジャクランのアーチ級ニンジャの一人が、あるジツに目覚めた。モータルを、ニンジャを己の肉体に取り込み変換し、肉体を自在に変化させる恐ろしきジツ。ニクカベ・ジツ。

そのジツの使い手たるニンジャは、暴走をした。多くのモータルを飲み込み、追手であるニンジャすら飲み込んだ。最も他者を取り込んだ時は、肉の津波が小さな村を飲み込み跡形もなく消滅させたほどである。それが肉壁という言葉の始まりでもあった。

そのニンジャは傲り高ぶり、ヘーアンキョ・キャッスルに向けて進撃した。結果、ニンジャはどうなったか?ヘーアンキョ・キャッスルの地を踏むことなく討たれた。理由は単純。カトン・ジツやコリ・ジツなど非実体の攻撃方法を持つニンジャの連合によって、容易く肉体を破壊されたのだ。

カラテを仕掛けて来るならば取り込めるが、炎は取り込めない。遠距離武器を使うならば肉体を変化させて回避できるが、雷は躱しきれない。氷は容易く肉体を凍らせ破砕して行く。そのことに、爆発四散する最後までそのニンジャは気づかなかった。その容易い対処法故に古事記からも抹消された。

そして現代。その失われた一節が打ち捨てられた地下ショッピングモールにて再現されようとしていた!「ARGHHHHHHHH!!!」燃え上がりながら叫ぶクガイ!「やめなさい!」カノープスは近場の火炎放射器を持ったペタルに向かって走る!しかし火炎放射器の照準がカノープスに!走行回避!

「イヤァァァァッ!」炎の中の影が、シャウトをする!影の中から、一回り小さくなったクガイが飛び出した!炎上した肉体表面を破棄することにより脱出したのだ!「おのれキンタロスライスめいた邪魔者共が!」クガイの顔が再び憤怒に歪む!

「くっ…」カノープスの顔に影が差す。ペタルらの妨害で再びクガイは、ニンジャソウルの支配下に置かれてしまった。説得をしようにも、ナダ少年らの事は話してしまいネタ切れ。ペタルらも排除せねば、いくら説得しようとネオ・アンタイブディズムへの怒りでニンジャソウルに囚われてしまう!

「ウオオオオオオオッ!」叫ぶクガイ。手近なペタルに向かって駆ける!狙われたペタルは火炎放射器を構えるが、頭上からニンジャソウルを感知し、見上げた。クガイの首に、クナイウィップが絡みつき、首にクナイが突き立てられた!

「…イヤーッ!」そして、頭上から落下してきたニンジャは、クナイウィップを手元に引き寄せた!クガイの首をずたずたに引き裂き、血しぶきが飛ぶ!ムチ・ドーのワザ、カスミである!生半可なニンジャならば、これだけで首が切断され爆発四散するだろう!

「イヤァァァァッ!」しかし、クガイは残された取り込んだ肉を動かし首の傷を塞ぐ。「仕留めきれんか」着地したニンジャは呟いた。「ドーモ。クガイ=サン。ガーランドです」左目の上のクロスカタナのエンブレム。ソウカイ・シックスゲイツの一人であるとクガイは気づく。

「ドーモ。ガーランド=サン。我が名はクガイだ。ソウカイヤのニンジャが、何の用だ?」「貴様を殺しに来た」ガーランドはクナイウィップを振るう。「貴様はソウカイヤの傘下のヤクザクランに幾度も襲撃をかけた。弁明は無いだろう」

カノープスは、目を見開いた。ソウカイヤの傘下のヤクザクランに襲撃を仕掛けたというのは知っていた。しかし、ここまで素早くエージェントが、それも、ソウカイ・シックスゲイツのニンジャが来るとは予想していなかった。鍛え上げられたカラテが見ただけで分かる。あれが、ガーランド。

「既に貴様の悪趣味なブディズムドージョーは潰し、爆弾の首輪も解除した」「ンフッ、ドーモ。ガーランド=サン。ペタルです。残念だけれど彼を殺すのは私たちよ。貴方はダァ~メ」「何を勘違いしている。そこの男を殺した後は、貴様らも殺す。貴様らの雇い主も同様にだ」

ヤクザの中には、信心深い者も多い。そういったヤクザらはテンプルのボンズらと深い関係を築く。クダ・テンプルがレッサーヤクザ共同墓地を設けたように、似たテンプルがいくつかある。

そのテンプルに墓参りしていたソウカイヤの傘下のヤクザクランのオヤブンが、ネオ・アンタイブディズムの襲撃に居合わせることがままあったのだ。チバはガーランドに、クガイの抹殺だけではなくネオ・アンタイブディズムの壊滅も命じていたのだ。

「ンフフン!私たちを殺すですって?」「ンフッフ」「そんなの無理よ」「貴方は私たちになすすべもなく殺されるの」ペタルはそれぞれ、エモノとカラテを構える。「…貴様らのタネは既に割れている」ガーランドは、懐からある物を取り出し、それを転がした。

「「「「アババババーッ!?」」」」ペタルらは痙攣し、獲物を手から落とす!ガーランドが転がしたもの、それは小型のEMP発生装置だった。「イヤーッ!」ガーランドは手近なペタルの目の前まで接近し、首を圧し折った!「アバーッ!サヨナラ!」首を圧し折られたペタルは爆発四散!

「「「アバババッイエエエエエエエエエ!?」」」残されたペタルらは更に痙攣及び失禁!「イヤァァァァッ!」クガイは片腕に肉を集中!巨大な腕を作ると、一人のペタル目掛けて振り下ろした!「アイ」叫ぶ間もなく、ペタルは手に飲み込まれ、クガイの腕と同化した。

「イヤーッ!」クガイと同じタイミングで、カノープスはスリケンを投擲!ペタルの一人の胸に、心臓に命中!「サヨナラ!」心臓を貫かれたペタルは爆発四散!

「アバババイエエエエエエエエ!」一人残されたペタルは、一目散に逃げだした!「嫌だ!こんな!彼女のためにここまでしたのに僕は!私は!」突然口調が不安定になるペタル。KABOOM!KABOOM!KABOOM!その時、近くの壁面が幾度か爆発!

「ムーブ!ムーブ!」そこから、兵士らが雪崩れ込んできた!兵士らは逃亡するペタルを確認すると、ペタル目掛け一斉に射撃を開始する!「アバババッババ!」撃たれ踊るペタル!「サヨナラ!」そして、爆発四散をした。

◆◆◆

ネオサイタマのとあるディストリクト。そこのカーテンが閉め切られた薄暗い一室。UNIXにLAN直結した小太りの女が、椅子に座ったままニューロンを焼き切られていた。この女こそがペタルらの司令塔にして、ある意味ペタルの正体でもあった。

10年前この世界に、アルゴスという存在がいた。アルゴスはアルゴスネットにより、ニンジャ同士の連携を強力に補助していた。女はそれと似たようなことをしていたのだ。コトダマ空間内で四人に分裂し、それぞれのペタルの脳内デバイス中でニンジャの感覚と同期し、連携をサポートしていた。

かつてネオサイタマのある大学で、あるサークルの華として持て囃された女。ニンジャになりたかったが、手に入れたのはコトダマ空間認識能力だった女。ニンジャになったサークルの男たちに、自分の事を想うならと整形に性転換を強要した女。ニンジャの感覚を疑似体験することに嵌った女。

四度の死を経験し、失禁しニューロンを焼き切られた女。それが、華になろうとした女の、醜い最後だった。

◆◆◆

「囲め!」爆破穴から出てきた兵士らは、クガイらを取り囲んだ。兵士の装備にはそれぞれ家紋や社章が刻まれていた。イタツキ・ボコ社と共にアジトに来ていた企業兵士ら。彼らはイタツキ・ボコ社の部隊が壊滅するのを確認すると、別のルートを探し、潮目が変わるのを待っていたのだ。

「ドーモ。ガーランド=サン。コグウィールです」その部隊らの内の一人が、一歩前に出るとガーランドに向けてアイサツをした。企業ニンジャ。「ドーモ。コグウィール=サン。ガーランドです」ガーランドもアイサツを返す。

「いやー感謝しますよ。あの女ニンジャたちと戦ったならば、私たちの部隊はかなり損耗していたでしょうから」コグウィールは心にもない言葉でガーランドに感謝を伝える。「そうか」ガーランドはどうでもいいと言わんばかりにクガイの方を向く。

コグウィールは肩をすくめ、兵士らに指示を出す。他の企業兵士の部隊も動き出し、遠目に眺めていた信奉者らの排除及び救世主の探索に動き出した。クガイも動こうとするが、ガーランドが牽制し、睨み合いが始まる。

カノープスは、叶うならばクゼの抹殺にマッタをかけたかった。クゼはただニンジャソウルの制御が出来ずに凶行に走ったのだと。しかし、ガーランドを止まらないだろう。クゼが傘下のヤクザクランに手を出し、恐らく死人も出している。

ガーランドが、ソウカイヤが求めるのは、ケジメなのだろう。片腕どころではなく命をかけたケジメを、クゼに。「獅子身中の虫を抱えたヤクザどもの使い走りめ。我に構う前に己の組織の立て直しに勤しんだらどうだ」「この仕事を終えたら調査を始めるとも」両者は構えた。

その時だった。「チィッ!?」ガーランドの足元に波紋が生まれ、足が地面に沈む!遠方から、捜索に動き出した企業兵士らの叫び声が聞こえた!同じように沈み始めているのである。「ゲゲゲ…」クガイの目の前の地面から、ヒキガエルめいた顔の男が浮上した。

「ドーモ。クガイ=サン。スワンプです」男のニンジャ装束には、ネオ・アンタイブディズムのマークが描かれていた。「ドーモ。スワンプ=サン。我が名はクガイだ。貴様も、ネオ・アンタイブディズムのメンバーか?」「その通り」「イヤーッ!」クガイは巨大腕を振り下ろす!

「ゲゲゲ」しかし、スワンプは地面に沈み回避!「いきなり攻撃するとはひどい…」そして別の場所から浮上!「救世主様がお前をお呼びだ…地下7階の映画館、元1番スクリーンの救世主様の部屋で、お前を待っている」スワンプが指差した先に、映画館が存在した。

「なんだ?我に懺悔し殺されたいのか?」「ゲゲゲ!わざわざお前なんぞを殺してくださるというのだ。感謝にむせび泣け」舌打ちし、クガイは駆ける。己とスワンプの相性が悪いのは、先ほどの攻防で理解した。マサダを殺した後に、スワンプを殺すとクガイは決める。

「貴方を行かせない!」カノープスはクガイの後を追う!「お前が行っていいと救世主様は許可はしてないぞ女ァ!」スワンプが吼え、地面に拳を叩きつけた!カノープスの足元に波紋が生まれる!「イヤーッ!」カノープスは跳躍し、残された柱と柱を蹴ってクガイを追跡する!

「ゲッ!」スワンプは痰をカノープス目掛けて吐く!回避…否!撃墜!己のニンジャ第六感の警鐘に従い、カノープスは痰をスリケンで迎撃する!ナムサン!痰に激突したスリケンは勢いを失い、落下しズブズブと地面に沈んでゆく。痰の飛沫が当たったものも同様だった。

「逃がすか女ァ!」カノープスを追撃しようとするスワンプ。そこに、クナイウィップが襲い掛かる!「ゲゲッ!」潜航回避!スワンプは攻撃の主、ガーランドを頭だけ出して睨む!「貴様にはこのジツを解いてもらわねばならん。逃がすと思うな」「貴様が逃げられると思うなヤクザニンジャァァ!」

◆◆◆

クガイは、己を説得しようとするカノープスを無視し続け、映画館に入った。クガイの頭の中に、先ほどカノープスが言った内容はもう存在せず、カノープスの話す言葉は所々フィルターがかかったように聞き取れなかった。そんなどうでもいいことより、せねばならないことがある。

スワンプの言う1番スクリーンの扉の前に立ち、それを勢いよく開き中に入る。1番スクリーンは、かつて映画館だったとは思えない作り替えられようだった。椅子はすべて撤去され、天井からはいくつも小さな画面が吊り下げられ、巨大な木像の周りを囲んでいた。その木像の前に、マサダはいた。

「マサダァァァァア!」クガイは叫び、ズンズンとマサダ目掛けて歩みを進める!しかし。「待て。クゼ」マサダは振り返らず、通る声でクゼに話しかけた。「今は礼拝の時間だ。あと一分待て」礼拝?ブディズムを攻撃している男が?クガイは何を礼拝しているのかと木像を見上げ、目を見開いた。

後ろにいたカノープスも木像を見上げるも、それが誰なのか理解していないようだった。恐らく、知らないか忘れているのだろう。クガイは、それがだれか理解しているし、困惑していた。何故、ここにこの人物の木像があるのだと。

…10年前、ネオサイタマであるテロリストが暴れた。タダオ大僧正を、ネオサイタマの名士を、政治に関わる者を、メディアに関わる者を、治安維持に関わる者を殺して行った。そして多額の賞金がかけられ、社会の敵だと恐れられた男。最後は誰にも殺されずに姿を消した男。

アシュラフジキド・ケンジ像が、そこに存在した。

アイ・アム・ザ・ワン・フー・セレクツ・ゾーズ・フー・マスト・セーブドゥ#5終わり。#6及びエピローグへ続く。