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アイ・アム・ザ・ワン・フー・セレクツ・ゾーズ・フー・マスト・セーブドゥ#6&エピローグ

#6

かつて、ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジがアマクダリに戦いを挑んだ時のこと。アマクダリはフジキド・ケンジとその協力者のナンシー・リーを、加担した者たちをテロリスト、フジキド・ケンジ組織(FKG)として、「十二人」殺害の報復行動としてその存在を社会へ拡散した。

アマクダリの実質的首魁のアガメムノンと、「十二人」のアルゴスは、FKGの後追いの存在が現れるだろうと、確信めいた予想をしていた。実際、その時既にイッキ・ウチコワシとFKGがごちゃ混ぜになったような小規模組織がいくつか誕生していた。ハイデッカーにより壊滅したが。

アガメムノンとアルゴスはそれらを、鎮圧可能な小規模な混沌だと断定。再定義後まで放置しておくことにした。だが再定義は成されず両者は倒れた。結果、その小規模な混沌は残された。FKGの後追い。フジキド・ケンジを崇めるアナキスト、テロリストたち。その組織が生まれる下地が。

だが、それらの組織は謎のニンジャに。黒橙のニンジャによってすべて壊滅させられた。10年が経ち、フジキド・ケンジの存在も風化しFKG後追い組織は生まれなくなった、はずだった。

黒橙のニンジャは夢にも思わなかっただろう。10年前、一人の少年が国外に逃亡した。その少年がゲリラ組織を渡り歩き、ニンジャと化し、テロの技術を学び、カラテを鍛え、ネオ・アンタイブディズムという死にかけの思想を、テロ組織までに育て上げるなど!

アイ・アム・ザ・ワン・フー・セレクツ・ゾーズ・フー・マスト・セーブドゥ#6

アシュラフジキド・ケンジ像は三つの顔を持つ。一つは黙々と仕事に打ち込むサラリマンの顔。一つは愛する家族への眼差しを向ける父親の顔。一つは愛する家族を奪った相手への憎悪を宿した復讐者の顔。手にはそれぞれスリケンやヌンチャクが握られていた。

あ゛あ゛いえ!くりすますまるのうちすごいたかいびる…」そのアシュラフジキド・ケンジ像に、マサダは何らかのチャントをネンブツめいたリズムで唱えながら、祈りを捧げていた。カノープスはその異様さに圧倒され、クガイは困惑していた。

マサダは何故フジキド・ケンジを崇めている?「…ネオ・アンタイブディズムは、悪魔を崇めているんじゃないのか?」「いや。他のバカどもには悪魔を崇めろとだけ言っている。俺だけだ。彼を崇めているのは」マサダは、礼拝したまま己の手下たちを嘲る口調で答えた。

実際、10年前から継続し活動を続けているのはほんの一握りである。構成しているのは、殺人嗜好ヨタモノ5割。前後がしたいだけの者が3割。重度の電脳麻薬中毒者が1割数分。最後の1割にも満たない数人が純粋なネオ・アンタイブディズムの人間である。テロが可能なのがおかしな集まりだ。

その烏合の衆の頭は、最後に何かを呟くと、立ち上がり二人を振り返る。「そこの女は新顔だな。どうせ賞金稼ぎなり企業の犬だろう」「ドーモ、マサダ=サン。カノープ」「ああどうでもいい!数分後に死んでる無関係な奴のアイサツなんぞ!」なんたるシツレイ!カノープスは眉をひそめる。

「んなことより…クゼよぉ」カノープスから視線を動かし、マサダはクガイを睨みつける。「何故、お前は彼を崇めない?」「…お前は何を言っているんだ」「彼は俺達の救い主なんだぜ?お前が後生大事に崇めるブッダなんぞより、彼を崇めるのがスジってもんじゃあないのか?」

俺達と言っているが、マサダはまるで、フジキド・ケンジはマサダを救うためだけに事を起こした。そんな狂気にも似た確信を抱いている。会って数分にしか満たないカノープスですら言葉の節々から感じ取ることが出来た。

しかし、クガイは知っている。クガイの脳裏に、あの日見た赤黒いニンジャの像が浮かぶ。あの赤黒いニンジャがクガイの知っている存在であり、フジキド・ケンジなのであるのなら…!「マサダ」ブッダの事を貶したマサダへの反撃のため、クガイは口を開く。

「…お前は大きな勘違いをしている。フジキド・ケンジはお前を救うためだけにタダオ大僧正を殺したわけじゃない。彼は」「ニンジャスレイヤー、なんだろう?」マサダのその言葉と共に、映写室の映写機が動き出しアシュラフジキド・ケンジ像を照らす。

アシュラフジキド・ケンジ像に赤黒いニンジャが投影される。そのニンジャのメンポには恐怖を煽る字体で「忍」「殺」と書かれていた。「っ!」クガイは、息を呑んだ。フジキドがニンジャスレイヤーだと。何故、マサダがそれを知っていると。

「ニンジャ、スレイヤー…」呟いたカノープス。彼女の中のニンジャソウルが騒めく。裏の社会に関わる間に、そこに密かに伝わる伝説めいた存在をカノープスは知っていた。ニンジャを惨たらしく殺すニンジャ。ソウカイヤを、キョートのザイバツを、アマクダリを滅ぼし姿を消したニンジャ。

クガイも、ネオ・アンタイブディズムを追うために裏社会の情報を集めるうちに、ニンジャスレイヤーを知った。そのニンジャの風貌は、あの日見た赤黒いニンジャと一致した。だから、フジキドがニンジャスレイヤーだとクガイは考えることが出来た。

しかし、その時にマサダはいなかった。なら、何故フジキドがニンジャスレイヤーだと知っているのか。「フフフフ…タダオはニンジャで、アマクダリという組織にいた」口撃こうげきが不発に終わり困惑したクガイに、マサダは語る。彼の知らない物語を。

「フジキドは、アマクダリと敵対し、それを滅ぼした。だが、全てのニンジャを殺しきれたわけではない」いつの間にかマサダが握っていたリモコンのボタンを押すと、天井から吊り下げられた画面の一つが灯り、鳥めいたメンポのニンジャのニンジャを写す。

「ドードー。元アマクダリのニンジャ。奴とはあるゲリラ組織にいた時に会ってな。同郷のよしみで話をしたら、彼の話を聞けた」ドードーの顔にバツが描かれた。恐らく、インタビューを行われ既にこの世にいないのだろう。

「他にも世界中を探せば、元ソウカイヤに元ザイバツのニンジャも、それなりにはいた。そいつらから聞きだしたんだ。彼の伝説を」モニターが様々な水墨画を映す。

妖刀を使うニンジャと戦うニンジャスレイヤー。ラオモト・カンを殺すニンジャスレイヤー。ロード・オブ・ザイバツとカラテを交えるニンジャスレイヤー。得体の知れぬ装置を付けられ高速道路で疾走するニンジャスレイヤー。月を破壊し、アガメムノンを爆発四散させたニンジャスレイヤー。

「お前たちには理解できない領域だろう。だが彼は全てをカラテで成し遂げた」モニター全てに「忍」「殺」の文字が映る。「彼は、この世に降臨したカラテの化身。怒りの断罪者。だが、彼は最後の仕事をやり遂げなかった。この罪に塗れた街を完膚なきまでに破壊するという仕事を」

「この街の至る所にアマクダリの残滓が、爪痕が、規範が残った。何より、未だニンジャが蔓延り続けている。それらを片付けるにはどうすればいいか。簡単だ。この街を破壊し尽し、人間を一人残さず殺しつくせばいい」
マサダは、狂気の理論武装を捲し立てる。

「ソウルの憑依される人間が一人もいなくなれば、ニンジャが生まれなくなる。そうすれば、彼の求めたものがこの地上に生まれる。平和だ」確かに、人間が絶滅すればニンジャも消え、ニンジャに脅かされる人間がいなくなる。しかしそれは本末転倒どころではない別のナニかだ。

「嗚呼ッ!フジキド・ケンジよ!何故貴方はこの街を、世界を!破壊し尽さなかったのですかッッ!」マサダは舞台俳優めいた声色で両の手を広げながら回転する。「だから!俺は彼の後を継ぎ彼の最後の仕事を引き継ぐ!この都市を滅ぼし、そして!」「クッ」クガイの口から嘲笑の笑いが漏れる。

「何が可笑しい」ドロリと、マサダの周囲の大気が殺気で歪む。クガイはおかしくて仕方がなかった。マサダの正体が分かったからだ。

勝手にフジキド・ケンジの目的を妄想し、勝手にその彼の目的とやらに自身の悪意を同化させているだけ。あまりにも憐れな…ネオ・アンタイブディズムの指導者たる救世主だの、自称フジキド・ケンジの後継者だの、飾り立てたところで本質は変わらない。

「ブッダに縋ることが出来なかった男が、フジキド・ケンジの齎した混沌と破壊に縋っている」マサダのこめかみに血管が浮かぶ。しかし、すぐに怒りを飲み込み口を開く。「ブッダの教えだのを後生大事に守っていた人形が、ニンジャになってそれを投げ捨て殺戮に耽るザマはブザマの極みだ」

「クッ…ハハハハハ!」「ゲハハハハ!」両者は呵呵大笑しながら歩みを進める。そして、ワンインチの距離に。途端!両者の笑みは消え去り、憤怒の表情を浮かべた!「「殺す!」」

ガッ!両者は同時に頭突きをし、衝撃によりタタミ2枚の距離が空いた!「フーッ…どうでもいいが礼儀だ。アイサツをしてやろう」マサダの体が蠢き、異形と化し始める。そして、両の手を合わせオジギをした。「ドーモ、クガイ=サン。ドゥームズデイです。ニンジャも人も全て殺すべし!」

◆◆◆

「ガーランド=サン!後の事は頼みましたぞーッ!」180度のオジギ体形で、下半身と頭部が地面に飲み込まれたコグウィールは、両腕のサイバネハグルマアームを射出!それと同時に軟化していた地面が戻り、飲み込まれていた部分を切断した!「サヨナラ!」コグウィールは爆発四散!

「ゲゲッ…!」スワンプは潜り逃げるが、腰と首に巻き付いた強化テグスが切断できず、推進剤により加速し続けるサイバネハグルマアームを振り切れない!コグウィールの置き土産はスワンプを追い、地面を破壊し続ける!「こんな!ブッダが滅びし世界が目の前まで来ているのに!」

「こんなところゲーッ!?」スワンプの顔面と胴に、サイバネハグルマアームが命中!潜っていたスワンプを、骨を砕きながら上に弾き飛ばす!「待っていたぞ。スワンプ=サン」その先に、釣り下がった電気配線を掴み、スワンプのジツから逃れていたガーランドがいた。

何故!?奴は俺がどこにいるかわからないはず!?泥めいて鈍化した主観時間の中でスワンプは考える。答えは単純明快。サイバネハグルマアームが地面を攪拌したことにより発生した波紋から、スワンプがいる場所を予想。打ち上がる場所で待機していただけの事。

「その窮屈そうなものを取ってやろう」ガーランドの振るったクナイウィップが、スワンプの首に突き刺さり巻き付いた!「ゲ…!」スワンプがクナイウィップを引きちぎろうとするより前に、それはスワンプの首を切断した。「カスミ…!」「サヨナラ!」スワンプは爆発四散!

スワンプの胴に当たっていたサイバネハグルマアームは、爆発四散の影響を受け諸共に爆発!しかし、切断により残された頭部はそのまま天井へと飛び、破壊した!「うわああああああ!?」その破壊された穴から、一人の少年が落下!

ガーランドはその少年を見上げ、舌打ちをした。クダ・テンプル襲撃の生き残り。ガーランドは跳躍し、その少年をキャッチした。キャッチされた少年は、ガーランドを見上げ、ごくりと唾を飲み込んだ。ガーランドの左目の上の紋章を見て、ソウカイヤのニンジャであることに気が付いたのだ。

地面に着地したガーランドは、少年をぞんざいに投げ捨てた。「ぐぇっ!」少年は顔面から地面に激突したが、すぐに立ち上がり、ガーランドから距離を取る。「小僧、貴様クダ・テンプルのナダだったか」「そ、そうだ!」ナダ少年は、ガクガクと震える膝を何度も殴りつけ、立ち上がる。

「失せろ。ここにいれば死ぬぞ」「そ、そんな脅し怖くねえ!」そう言いながら、ナダ少年のズボンに失禁の染みが浮かび始める。「それに!あの人を止めるためなら、死ぬことなんて怖くねえ!」ガーランドが殺気を放ち、ナダ少年の失禁の染みが更に大きくなる。

しかし、ナダ少年は震える手でナイフを構えた。足の震えなんて先ほどよりもひどく、もはや立っているだけでも奇跡の状態。NRSで意識だって朦朧としかけているだろうに。それでも、ナダ少年の目から強い意志は消えていない。

ガーランドの目が細くなりナダ少年を、いや過ぎ去った昔日の何かを、ナダ少年を通して見ていた。CRAAAAAAAAAASH!その時!映画館があった方向の壁が破壊され、二つの巨大な存在が飛び出した!「Arghhhhhhhhhh!」「ゲハハハハ!!!」肉塊は吠え、巨人は笑う!

「イヤーッ!」巨人の肩甲骨の辺りから天使の翼めいて灰色の炎が噴き出し、肉塊を持ち上げ飛翔!天井を破壊し飛び去った!「ナダ=サン!?どうしてここに!?」破壊された穴から、カノープスが駆けてくる。「アンタ…やっぱりニンジャだったのか」ナダ少年はニンジャがアユミだと察した。

「その小僧は貴様の知り合いか。ボンズを止めるためにここに紛れ込んだようだぞ」「ナダ=サン!」ガーランドの言葉を聞いて、カノープスは膝を付きナダ少年の肩を揺さぶる。ニンジャの戦に常人が混ざるのは自殺行為に他ならない。まだ十二かそこらの少年ならなおの事だ。

しかし。「その小僧は貴様が連れていけ」「…正気?」カノープスはガーランドを睨む。「貴様が放置して奴らを追おうと、その小僧はまた奴らを追うだろう。貴様の知らんところで野垂れ死ぬやも知れんぞ」「ウッ…」

「なにより、小僧は既に覚悟を終えている。貴様も、覚悟を決める時だ」アユミは、ナダ少年の目を覗き込んだ。そして、ナダ少年の悲しき覚悟を感じ取った。「…私が連れて行くよ。けど、君はイクサが起きる隣のディストリクトにいて」「…ああ!」

「お前らだけ先に行っていろ。もう一つここでの指令を済ませる」ガーランドは破壊された映画館の方へ、歩みを進める。「ちょっと!」「一人、ソウカイヤから別のニンジャを送ってやる。そいつがある程度手伝いはするだろう。あとは貴様がどうにかしろ」

ガーランドは懐から携帯電話を取り出し、アンテナを伸ばした。かける相手は、ソウカイヤの電話番。「俺だ。今から言うディストリクトに一人向かわせろ。確か、この前組織に入ったカトン使いの小僧がいたな?」

◆◆◆

政府崩壊後、ネオサイタマの各ディストリクトはそれぞれの組織による統治や支配が行われている。そこにはその組織特有の気風というものが、表れるのだ。ただ、統治する旨味が少なかったりなどの理由があれば中立状態、かつてのネオサイタマのような状態の場所もそれなりにある。

そんなディストリクトの一つ。スーパーマーケットやファッションショップ、サイバネ医院などが多くあるそこは、休日ゆえに家族連れや若者たちが多い。ここで精神のヘイキンテキを保ち、日々の労働を耐えるのだ。

キィィィィ…「ン?」そのディストリクトの上空から、飛行機めいた音が聞こえ、人々は見上げた。ビリビリと衝撃が起こり、ただならぬ威圧感が辺りを包む。キィィィィィ!KABOOOOOOOOOOOOM!「「「アバーッ!」」」ディストリクトの真ん中に、隕石めいて謎の物体が墜落!

墜落により近辺のビルはなぎ倒され、一帯の窓が全て割れる!「ARGHHHHH…」墜落した物体たるクガイは、炭化した表皮を破壊しながらまろび出て唸る。GEBOBOBOBOBO!GEBOBOBOBOBO!「ARGHHHHHH!?」クガイが炎上!

「イーヴィルヤブはブディストを焼き殺します」倒壊を免れたビルとビルの隙間からイーヴィルヤブが姿を現し、火炎放射器でクガイを焼く!「ARGHHHHHHHHH!」「ピガガー!」クガイは絶叫しながら鞭めいて伸ばした腕でイーヴィルヤブを粉砕!しかし!

「ドーモ。イーヴィルヤブです」「イーヴィルヤブはブディストを殲滅します」新手のイーヴィルヤブが次々にビルとビルの隙間から姿を現す!ドゥームズデイは最初からこのディストリクトにイーヴィルヤブを向かわせていたのだ!

「ふむ。まあまあの数が死んでいるな」無事なビルの一つ。その屋上に巨人が着地した。その両の手にはペンキの缶。東南アジア神話聖獣めいた顔の巨人ニンジャ、ドゥームズデイは眼下の死にぞこなった人々を見下ろし、缶を開け頭部から赤と黒のペンキを被り全身に塗りたくる。

「ある程度の距離を取りながら炙り続けろ。いずれキレて飛び出してくるぞ」つま先まで丁寧に塗りながら、ドゥームズデイは腰の指令器でイーヴィルヤブに指示を飛ばす。「さて…」塗り終わったドゥームズデイは、ビルから飛び降りると、家族連れを踏みつぶし辺りを見回した。

「どれほど焼けばあいつが吸収できないかは知らんが、炭になるまで焼けばジツには使えんだろう」ドウ!ドウ!灰色の炎が噴き出し、両の腕をクロスし、拳に炎を移す。ドゥームズデイの目の前には生き残りNRSを発症した人々。「ゲハハハハ!」ドゥームズデイは飛びかかる!

「イヤァァァッ!」「グワーッ!」その時!炎を帯びた影がドゥームズデイを殴り飛ばす!ドゥームズデイはビルに突っ込み、そのビルは倒壊した!「Grrrrr…!」ドゥームズデイは怒りで唸り声を上げながら、倒壊したビルを跳ねのけ、己を殴り飛ばした下手人を睨みつけた。

クガイ。しかし、風貌が先ほどの袈裟を纏った肉塊ではない。全身に倒壊したビルの瓦礫を、筋繊維や血管で纏い、即席の鎧と化していた。「味な真似を。だが、炙ったことでだいぶお前が取り込んだ肉は減ったはずだ。あとどれだけその鎧は保てる?」

ドゥームズデイの指摘は正しい。クガイが取り込んだのは、いくつか襲撃した小規模のネオ・アンタイブディズムのアジトにいた信奉者ら数百人ほど。あとは情報を得るために取り込んだソウカイヤのヤクザが数名ほど。それらは半分以上消費されている。

「しかし無意味だ」ドゥームズデイは構えた。おお…ジュー・ジツの構えである。もしこの場にかつてアマクダリ・セクトに所属したニンジャがいるならば、NSRSを再び発症し失禁するだろう。「その鎧を全て剥がしお前の軟弱な肉を晒してやればいいだけだ」

「やってみるがいい!」クガイは四足歩行動物めいて駆ける!背中から生えた肉枝がビル空調のファンを高速回転させ振り回されている!いかなニンジャと言えど、その羽に当たればトーフめいて切り裂かれるだろう!

「ニュービーが。奇をてらうだけ自分が鍛錬不足であるということを露呈するだけだぜ?」ドゥームズデイはペタルらをぶつけることで既にクガイのカラテの力量を見抜いていた。圧倒的質量を持ったカラテは当たれば死ぬだろうが、同じくニュービーでしかないペタル程度にしか通じないだろう。

「イヤーッ!」眼前まで迫ったそれをドゥームズデイは灰色の炎を纏ったチョップで切り裂き、クガイの頭部を砕かんとする!「イヤァァァッ!」しかし、チョップが鎧を切り裂いた瞬間、中にあるはずのクガイは消え失せていた。

「モグラ・スマッシュか!いいだろう!」ドゥームズデイの八方から触手が生え、時間差で襲い掛かる!「一つ!二つ!」ドゥームズデイは炎を纏ったダブルポムポム・パンチで二本の触手を焼き切る!ドウ!ドウ!肩甲骨から噴き出した灰色の炎が三本目、四本目を焼却!

ドゥームズデイは数センチ跳躍し回転!拳の炎をつま先に宿す!そして着地し流れるように構えたその構えは…!ナムサン!メイアルーアジコンパッソ!灰色の軌跡が残りの触手を切り裂いた!「イヤァァァッ!」ドゥームズデイから畳1枚の距離よりクガイが飛び出し突撃!

「イヤーッ!」メイアルーアジコンパッソを繰り出した姿勢から無理やり足をクガイの頭部に合わせ、クガイの突進の勢いにより後方に跳んだ!「潰れろ!」「イーヴィルヤブはピガガーッ!」ドゥームズデイは待機していたイーヴィルヤブを掴むと両の手で潰した!

両の手を回転し開くとそこには、歪な形のスリケンがあった。ドゥームズデイは着地し、スリケンを構えた。スリケンは肩甲骨辺りから噴き出す灰色の炎を纏い、少しずつ飴めいて溶け始める!ドゥームズデイの背中、肩、腕にかけて縄めいた筋肉が浮かび上がる!まさかこれは!?

「ツヨイ・スリケン!イヤーッ!」ナムアミダブツ!ツヨイ・スリケンだ!ああブッダよ!この妄執者にどれほどまでのカラテの才を与えたのですか!?「ARGHHHHHHHHH!」クガイの片腕が切断された!しかし切断され炎上していない部分のみを再度取り込み片腕を再生!

「ゲハハハハ!やっぱり拳で炎を叩き込まなきゃ無理か!」ドゥームズデイは屈みつま先から拳に炎を移す!「イヤァァァッ!」クガイは四腕と化し飛びかかる!「ペタルと戦った時の半分以下の細さだな!その程度で俺をどうにかできるとでも!」ドゥームズデイは炎を帯びたチョップを繰り出す!

チョップにより四腕全てが切り捨てられる!だが!FLASH!「ウッ!」切り捨てられた腕全てから凄まじい発光!断面には倒壊ビルより回収した、ヨタモノ撃退用防犯閃光手榴弾!「イヤァァァッ!」クガイは二腕を復活させ、ドゥームズデイを掴むと背負い投げを決めた!「グワーッ!」

「イヤァァァッ!」背負い投げ!「グワーッ!」「イヤァァァッ!」背負い投げ!「グワーッ!」「イヤァァァッ!」背負い投げ!「イヤーッ!」「グワーッ!?」ドゥームズデイが背負い投げを返した!

「イヤーッ!」ドゥームズデイ!「グワーッ!」「イヤーッ!」クガイ!「グワーッ!」「イヤーッ!」ドゥームズデイ!「グワーッ!」「イヤーッ!」クガイ!「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」両者はタイヤめいてディストリクトを駆ける…!

◆◆◆

「アイエエエエエエエエエ!?」中年のサラリマンが叫び声を上げる!隣のディストリクトに隕石が墜落したという未確認情報を聞いた彼は、隣のディストリクトで通行止めが解除されるのを待っていたが、そこに巨大な色の付いた物体が回転し人々を蹂躙しながら迫っているのだ!

「ア」彼に逃げ出すという選択肢は頭の中に存在しなかった。突如暴れ狂うゾウが出現し、数秒後に己を踏みつぶす未来が確定。その確定した結末を前にして逃げ出すという考えが浮かぶ人がどれだけいようか。だが。「イヤーッ!」彼はそうならなかった。

「アイ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」気が付けば裏路地に立っていた彼の目の前に、女のニンジャが立っていた。「急いでこのディストリクトから離れてください!早く!」「アッハイ」失禁しかけながらサラリマンは逃げ出した。

「クッ…!ナダ=サンはどこに…!」ニンジャ、カノープスはナダ少年をここのディストリクトに降ろした後、隣のディストリクトまで移動したが既に二人は移動しながらカラテを繰り広げ、このディストリクトまで移動したのだ。ナダ少年はいるようにいた場所から既に消えていた。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」回転しながら人々を轢殺している二者。「イヤーッ!」「グワーッ!」その均衡はドゥームズデイの蹴りにより破られた。「イヤーッ!」上空に浮いたクガイにドゥームズデイはもう一度蹴りを喰らわせ、ビルに壁面に叩きつける!

「トドメだ!」ドゥームズデイはクガイに向け引き絞った炎の貫き手を放つ!「させない!」カノープスはドゥームズデイの顔目掛けスリケンを複数放つ!「チッ!」貫き手を放つのを止め、スリケンを払うことを強いられるドゥームズデイ!

「ドーモ、ドゥームズデイ=サン。カノープスです」「チッ…!ドーモ、カノープス=サン。ドゥームズデイです。邪魔をするなカノープス=サン!死ぬ順番を遅らせたいのならな!」「イヤーッ!」カノープスに視線を動かしたドゥームズデイ目掛けクガイは落下しながら拳を振り下ろす!

「イヤーッ!」ドゥームズデイは炎を纏った拳で難なく受け止める!「イヤーッ!」クガイは燃える腕を切り捨て、次にチョップを繰り出す!「イヤーッ!」ドゥームズデイは炎を纏った拳で難なく受け止める!「イヤーッ!」クガイは燃える腕を切り捨て、再生した腕でパンチを放つ!

ナムサン!ここに来て、クガイのカラテは行き詰まりを見せ始めた。ビルの瓦礫は無く鎧を纏えないクガイは、効かないとわかっていてもドゥームズデイの次の手を防ぐために絶望的なカラテラリーを仕掛けるしかないのだ!そしてそれは確実にクガイを消耗させる!

「イヤーッ!」カノープスはインタラプトのためにドゥームズデイの顔目掛け再びスリケンを放つ!「フン!」だがドゥームズデイは顔を動かしスリケンを躱す!見切られたことをカノープスは嫌でも理解させられた。

「何か手は…!」カノープスは、実直に鍛え上げたカラテとスリケンの技術が持ち味のニンジャだ。故に、特異なジツや己より格上の相手に対する打開手段に乏しい。

ザッ。その時、イクサに巻き込まれまいと建物や路地裏に住民が避難し閑散としていたディストリクトの大通りを、一人の男が歩き近づいてきた。スーツに眼鏡をかけた男。インテリヤクザめいているが、纏う好戦的で苛立ったアトモスフィアと合致していない。

「そこの人!これ以上近づいちゃ」ボボウ!カノープスの目の前に火花が舞う。男は苛立った目線を向けていたが、カノープスが黙ると歩みを再び進める。カノープスは理解した。あの男が、ガーランドの差し向けたソウカイニンジャなのだと。

◆◆◆

「チッ…なんだってこんなことになりやがった…」男がここにいるのは、不本意以外の何物でもない。ようやく小規模ながらもソウカイヤでのシノギを任せられ、やってやろうじゃねえかと気合を入れていたら、シノギを切り上げて上の後始末をやれと言われたのだ。

男が何より気に食わないのは、付け加えられたオーダーの内容だ。両方のニンジャを焼けと言われたが、劣勢側のニンジャはあまり焼かず優勢に立っているニンジャの方を重点的に焼けと来た。それも両者ともに殺さずに。両者ともに焼き殺してしまえば早々に片が付くというのに。

命じた上が、ガーランドがどのような絵図を描いているかはわからない。しかし彼も同じ組織、ヤクザという生き方を選んだ男。上からの命令は何が何でもこなすしかないのだ。それが正しいし、そうして使いっぱしりめいたことをしているという事実が男を苛立たせている。

「喰らえやオラアアアアア!」その苛立ちを発散するかのように、男は駆けドゥームズデイとクガイの両方を殴りつけた。カラテラリーの応酬に集中していた両者は男の存在に気が付かなかった。「「ARGHHHHHHHHHH!」」両者は同時に炎上した!

「言われた通りにやってやったぜクソがよぉ…!」あとは外部のニンジャとやらが解決する手はずになっているらしい。さっさと戻りシノギを再開しなければ。男、インシネレイトは足早に燃え盛る二つの炎柱から踵を返し歩き出した。

◆◆◆

「ARGHHHHHHHHH!」「ARGHHHHHHHHH!」ドゥームズデイとクガイは身を苛む炎に叫びを上げる!「ヌゥアアアアアア!」クガイは炎上した表面及び内部の大部分を放棄することにより炎から逃れた。

「イヤーッ!」ドゥームズデイはカラテシャウトを上げヘルタツマキめいて回転!体に纏った炎を辺り一面に巻き散らかした!近辺の建物が炎上!「アイエエエ!」「アイエエエ!」建物に避難していた人々は叫びながら窓から飛び降りてゆく!

「ハーッ…!ハーッ…!アンブッシュを仕掛けてきたカスはどこに行きやがった…!」ドゥームズデイは生きていた。しかしただではすんでいない。表皮の大部分に重度の火傷を負い筋繊維が見え、体内も焼かれ満足な呼吸も出来ない有様だ。

ひとえにマサダがアクマ・ニンジャクランのソウル憑依者であり、アクマに変身したがゆえに得られた耐久力によって生かされているのだ。その傷が癒えるまで相当な時間がかかるだろうというのは、誰の目から見ても明らかだった。

「イヤーッ!」「イヤーッ!」そしてそれを、クガイとカノープスは見逃しはしない!クガイは多腕を束ねた一撃を放ち、カノープスはドゥームズデイの回避する場所を潰すためにスリケンを投げ続ける!

「フン…!」しかし、ドゥームズデイの肩甲骨から噴き出す灰色の炎が全身を包む。クガイは多腕を切り捨て回避し、カノープスの投げたスリケンは飴めいて蕩け、力なく地面に落下した。「貴様らを殺す…!」ドゥームズデイは血走った眼をクガイとカノープスに向ける。

炎の化身と化したドゥームズデイの守りを打ち破るには、生半可な手段では不可能。クガイは、今までの巨人形態から体を、元の人間大の大きさへと戻した。諦めたわけではない。それは、カラテの構えを取ったことからもわかるだろう。

クガイのカラテのワザマエは、お世辞にも高いとは言えなかった。しかし、格上のドゥームズデイといくらか渡り合うことによって、そのワザマエは嫌でも高まった。そして、己のジツの別の使い道も。

「フゥーッ…!」クガイの全身から水蒸気が上がり、呼気は冬でもないのに白く、全身の筋肉が縄めいて浮き上がり、ぼこぼこと蠢く。「イヤーッ!」ドゥームズデイは炎上ボトルネックカットチョップを繰り出した!当たれば容易く首を切り裂き体は焼き尽くされるだろう!

パァン!しかし!クガイの体が消えた瞬間、ドゥームズデイのチョップはかちあげられた!「なにっ!?」ドゥームズデイの後方にクガイが現れ、再びカラテを構えた。「なんのカラクリを使いやがった…!」クガイの後方からイーヴィルヤブが迫る。「「ピガガーッ!」」一瞬で破壊!

その時、ドゥームズデイのニンジャ動体視力は少しだけ捉えた。クガイはイーヴィルヤブを認識した瞬間、残像すら殆ど残さずに移動。一撃でイーヴィルヤブを殴り倒し破壊したのだ。その脚力、軽く見積もって常人の10倍を優に超えるだろう!

だが!「フゥーッ…!」クガイの足がぼこぼこと蠢き、断裂した筋繊維がふくらはぎの辺りより吐き出された。「ゲハッ…!」ドゥームズデイは理解した。溜め込んだ人間の肉を、体を膨らませるなり多腕にするのではなく、極圧縮することにより出鱈目な身体能力を得たのだと。

しかし、ニンジャですら耐えきれないだろう肉体強化の代償があの吐き出された筋繊維。少し動くだけで断裂し吐き出さねばならない。耐えきれれば、ドゥームズデイの勝ちだ。

(だが…!)パァン!(今のこの体で…!)パァン!(どこまで耐えきれるか…!)パァン!ドゥームズデイの体はコマめいて回転し、カラテ衝撃を可能な限り受け流し耐久をしようと試みる。今だ炎は健在で、殴ればクガイの拳は燃えるはず。予想より耐久時間は短いはずだと予想していた。

その時、クガイの速度が緩む。早々に限界を迎えたかとドゥームズデイの視線がクガイの顔を捉え、そして全身の血が沸騰するような憤怒を覚えた。クガイの目は、マサダを哀れんでいた。それは下の者を見下して哀れむ男の目だった。マサダはその目に、覚えがあった。

…「フォホホホ。マサダ=サン。」『修業』を終えた後、横たわるマサダに向けてタダオ大僧正が語りかける。「いくら修行を重ねても、お前の中から獣は消えはしない…」修行後の特殊な精神状態によってか、タダオ大僧正はゼンめいた口調で語りかける。

「いずれ他の、私の部下のボンズたちと修業をして獣を打ち消すがよかろう…フォホホホホ!」サイバーサングラスで見えないが、マサダにはわかる。タダオの目は、己を哀れんでいると…「クソガアアアアアア!」ドゥームズデイは激昂する!「ソノメデオレヲミルナアアアアアアアアア!」

ドゥームズデイは飛翔!太陽の如き輝きを纏い、そしてディストリクトに向けて突撃した!KABOOOOOOOOOOM!KRA-TOOOOOOOOOOM!…「ゲハハハハ!勝った!」小さなクレーターの中で、ドゥームズデイは勝ち誇った。体力とカラテも尽きたのか、纏っていた炎も噴き出す炎も消えていた。

辺りは爆撃でも起きたような惨状で、生き残りはどれだけいるかわからない。「さて…あの人の所に戻って」ズン!「ア?」衝撃を感じ、ドゥームズデイは見下ろした。己の胸から腕が生えていることを認識し、血の塊を吐き出した。「オゴゴーッ!」

「ハァーッ!ハァーッ!完璧に消化しきらず残しておいたが…正解だったな」ドゥームズデイの後ろに立つクガイの肩から、脳と心臓のみの何かが生えていた。「アイ、ア、ア」そしてそれは爆発四散した。分解され切らずに取り込まれていた影のジツの使い手たるペタルは、ようやく爆発四散した。

影から這い出したカノープスは何が起きたかを振り返る。上空に飛翔し突っ込んできたドゥームズデイを回避しようとしたがクガイに捕まれ、影の中に引きずり込まれたのだ。

「お、オゴ…!」ドゥームズデイは再び灰色の炎を噴出させようとするも、火花程度しか出ずにクガイを焼くことは出来ない。「フン!」「アバーッ!」クガイは腕を横に振り、ドゥームズデイの体を投げ捨てた。

「ハハハハハッ!勝ったぞ!これぞブッダの意思だ!」クガイは、ドゥームズデイを見下ろしながら勝ち誇った。カノープスは、気づかれない様にスリケンを指と指の間に潜ませている。

「ここを、新たなテンプルとしよう!そして!」「おとうさん」クガイの鼓膜を、小さな声が叩いた。「おとうさん」クレーターの外から聞こえたそれに、クガイは目を向けた。「おとうさん」そこにいたのは、倒れた男性に縋りつく、小さな少年だった。

男性は、頭部が無かった。誰が見ても死んでいるのは明らかだった。クガイと、ドゥームズデイのカラテに巻き込まれて死んだのだろう。しかし、少年は気づいていなかった。意識が朦朧としているのだろう。全身が真っ赤に染まっていた少年は遺体を揺すり続ける。

「ア」クガイの口から、小さな声が漏れた。「アア」クガイの頭の中で、何かが騒めき、酷い頭痛に襲われる。「ア、アア」何か、忘れていた何かが頭の中で蘇ろうとしている。「ア」そして、父の顔が、最後の時が蘇った。

◆◆◆

「シネヤオラクサレボンズガッオラー!」クゼの養父である前クダ・テンプルの住職の死因は、ドス・ダガーで刺されたことによる出血性ショック死だった。

「ヒャハハハ!ザマアミロ腐れボンズが!お前のせいで俺はこうなっちまったんだぜ!ヒャハァ!」犯人は、かつてこのテンプルで保護され、テンプルの金を持ち逃げした少年が成長した青年だった。青年は明らかにラリった目をしており、逃げ出した後ろくな人生を送っていないことが窺えた。

「ナムアミダブツだぜ!ヒャハハー!」青年は駆けだし、テンプルから逃げ出した。「父上」クゼは、養父の傍に膝まづき、養父を見る。「…どうした、クゼ」養父は何事もないかのようにクゼに返事をする。しかし、口の端からは血が流れ、長くないことは明白だった。

「父上。貴方は失敗しました。これで、満足ですか?」クゼは、養父に最後の問いを投げかける。「私には、ブディズムというものがわかりませんでした」「ですが、この世にブディズムというものが合っていないということだけは、わかりました」

「今の彼が良い例です。彼は貴方を刺し悪びれる様子もなく、ナムアミダブツと唱えました。これで彼は死んでもジゴクに行くことはなく救われることが確定しました」「…」「そんな彼を作ったのは、貴方です。貴方が彼にブディズムを教え、彼はそれを悪用した。罪のやり得です」

「今の世には、そんな輩がごまんといます。ブディズムが、そんな彼らを作ったのです」「それに加担して、満足でしたか。父上」クゼは、養父に問いかける。「…なんだ。お前、そんな顔が出来るようになったんじゃないか」

「え…」養父は、クゼの目から流れ出ている涙を拭った。養父が見上げるクゼの顔は、涙を流しながら、それでも答えを求めんとする求道者の顔。養父の死を目前に耐えようとしている子供の顔。決して、人形の顔ではなかった。

「クゼ、ブディズムは、宗教はそんなに万能じゃねえ。ZBRやタノシイに溺れた奴らをシラフに戻す力も無ければ、悪事を働く奴らに思いとどまらせる力もねえ。それは変えられようのねえ事実だ」「…なら、なぜ人々はブディズムを学ぶのですか」

「この世界で清廉潔白に生きるなんてのは、無理な話だ。それでも、誠実に、真っ当に生きてえと願う人々のための添え木、道を歩くための杖が、宗教。ブディズムだ」「でも!なら何故ブディズムを学んだ人が罪を犯すのですか!」

「だから言ったろうが、添え木、杖だと。添え木だって折れる時は折れるし、杖があっても転ぶことはあるだろう。どんなに真っ当に生きようとしても、気づかずに踏み出した落とし穴に転がり落ちることだってある。あいつみたいにな」養父は、青年が走り去った出口を見た。

「俺はな。クゼ、この街を、人々を救いたかったんだ」「でも、ブディズムだけじゃ、駄目だってのはわかってた」「だから、俺の小さな手で救える人たちから、救おうと決めたんだ」「…それが、このテンプルで保護されたストリートチルドレンだったんですね」

「ああ。そうやって救った人たちが巣立って、また誰かを救って、その助け合いの輪が広まれば、いつかは暗黒メガコーポの頭たちも加わって変わるんじゃねえかと。まあ、馬鹿の思い付きだ」そして、その夢想染みた馬鹿な思い付きが招いた結果が、これだ。クゼは、ズビっと鼻水を啜る。

「クゼ、あいつを許してやってくれ。俺の思い付きに巻き込んだ結果、あいつはああなっちまった。俺が巻き込まなけりゃ、人を殺さない別の生き方があったかもしれなっただろうに」納得は出来ない。罪を犯した人間が償わずに生きるなんて。けれども「…はい」クゼは、聞き入れた。

「他の子供たちも、俺が死んだらほとんどが出て行っちまうだろうな」「…はい」養父が刺されたことを知ったクダ・テンプルの保護児童のほぼ全員が、即座にストリートチルドレンに戻ることを選び今も出奔している。衣食住が無くなるのなら、沈む船に居続ける人間なんてほぼいないだろう。

「クゼ…最後にお前の事だが…」「…」「好きにしろ」「え?」「ブディズムを続けてこのテンプルを継ぐも良し。ブディズムから足を洗ってどこか好きな場所で生きるも良し。自由に生きろ。しばらく生きるのに困らん金はある」それは、クゼにとって未知の領域に足を踏み入れることに他ならない。

今までのクゼは、タダオ大僧正の言うことを聞き、タダオの配下のボンズの言うことを聞き、そして養父の言うことを聞き生きてきた。自分で考えず、敷かれたレールの上を歩み続ける人生。それから放り出されるには、クゼの人格はあまりにも幼い。「ただ…」養父は、続けてこう言った。

「俺が一つだけ願うとしたら、人様に迷惑をかけずに、真っ当に、幸せに生きてくれ」養父の手が、クゼの頭を撫でた。「それが出来りゃあ…お前の…親父…は…まん…ぞ…く…」そしてその手は力なく、血だまりに沈んだ。「父上…父さん…!」クゼは、手を持ち上げて、握った。握り返してこない。

「チッ、遅かったか」その時、男の声が響いた。「ドーモ。デッドフレアです」ジュー・ウェアを着たニンジャが、出口に立っていた。「アイエエエ…」クゼは、NRSを発症し、ボンヤリとした表情になった。「チッ!誰か犯人が何処に行ったか知ってるやつはいないのか!?」

クゼは、デッドフレア本人が図らずして発症させてしまったNRSにより、養父との最後の語らいを忘却してしまったのだ。その後、周りからの声に流されるままボンズとなり、養父を真似た生き方をしていたのだ。

◆◆◆

「父さん…!」そして、クゼはそれを思い出した。父との最後の語らい。父の願いを。ここに、クゼという人間の人間性は完成を見た。タダオの下で積み重ねて壊され、父の下で積み重ねて壊されたもの。人としてあるための寄る辺。人の側に繋ぎとめる楔が。

瞬間、クゼは肉塊に沈む己を見出す。肉塊の中で取り込まれ、消化されている己を。クゼは知らない。それが己のローカルコトダマ空間であることを。「これは…うっ!」クゼの中に、肉塊から強烈な思念が流れ込む!クゼの中の憎悪を駆り立てる思念が!

それは複雑なものではないが単純で、膨大な、欲求だった。肉!虐殺!支配!クゼに憑依したニンジャソウルは人格を保てずとも、己のかつての野望の続きを、クゼにやらせようとしていたのだ!しかし。「やめろ!」クゼは、それを跳ねのけた。クゼを取り込もうとした肉塊がはじけ飛ぶ!

ドッ。現実空間のクゼの肉体に、小さなナイフが突き立てられた。クゼは、突き立てた犯人を見た。「ナダ=サン…」ナダ少年だった。「うっ…ひぐっ…」ナダ少年の片腕は割れた窓ガラスでズタズタで、そして肉体の痛みではなく、心の痛みで泣きじゃくっていた。

「クゼ=サン…もうやめてくれよ…これ以上、人を殺さないでよ…酷いことをしないでくれよ…!」クゼは、辺りを見渡した。

先程まで父親に呼び掛けていた少年は力尽き、もう動いていない。「イデェ!イデェよぉ!」ビルに下半身を押しつぶされた男がいた。「頼む!誰か助けてくれ!」子供が瓦礫の下にいる父親が助けを求めていた。他にも多くの…そして、全ての人々がクゼに恐怖と憎悪の視線を向けていた。

「私は…」そして、脳裏によみがえるのは今までの所業の数々。「私は…!オゴゴーッ!」その犯した罪の数々に、クゼは恐怖し、嫌悪感を抱き、嘔吐した。「クゼ=サン…」カノープスは、クゼが正気に戻ったことを悟り、そして天を仰ぎ見た。あまりにも救われないと。

「ゲハハ…」その時、三人の耳にクゼを嘲笑う声が響いた。「まだ生きていたの…!?」ドゥームズデイだった。「ゲハハ…正気に戻ったかクゼ…どうだった?ソウルからぶち込まれた憎しみで暴れて、人を殺しまくった感想は?楽しかったか?」

「あなた…もしかしてわざとここの人たちを巻き込むために…!」「ゲハハ…!過程なんぞ誰も見やしねえ…!結果だけを見ろ…!クゼ。これでお前も、俺と同じ立派な人殺しの屑だ…!ゲハハハハ!」ドゥームズデイは、笑う。嗤う。自分と同じところまで堕ちてきたクゼを嘲笑う。

「しかし、その後悔もそう長くは続かんがな」ドゥームズデイは、握っていたリモコンのスイッチを押した。「マサダ=サン…!何をしたんですか…!」「この街に仕掛けておいた爆弾を起動させた。15分後に爆発する」「なんですって…!」

「この街を吹き飛ばしてもお釣りがくる特別製だ…!あれだけのエメツを集めるのは苦労したぜぇ…!」「爆弾はどこにあるんですか…!」「無駄だ。解除は出来ねぇ…!ゲハハハハ!俺は、彼の仕事を完遂させたんだ!彼が全てを破壊するのだ!ゲハハハハ!」「黙っていろ」「ゲハ!」

いつの間にかドゥームズデイの横に立っていたガーランドが、クナイ・ウィップでドゥームズデイの動脈を切り裂いた。「ゲ、ゲハハハハ!ね、ネオ・アンタイブディズムは俺が死んでも止まらねえ!この街は狼煙だ!俺の遺志を継ぐ誰かが!他の都市も吹き飛ばすのさ!ゲハハサヨナラ!」爆発四散!

「さて、これで最後に残るのは貴様だけだ」ガーランドはクゼの方を見る。「ガーランド=サン!聞いたでしょう!爆弾が起動したって!」「それが嘘じゃない確証があるとでも?」「それは…」カノープスは答えに窮する。「いえ。彼ならば、やりかねません」クゼが、代わりに応えた。

ガーランドは先程の、アジトでの頃から打って変わった理性的な雰囲気に訝し気な目線を向ける。「彼は、10年前同じ年頃の被虐待児たちと脱走を企て、実行に移しました。失敗に終わりましたが…その頃の行動力が健在いや、強くなったのなら、爆弾の一つや二つ用意するでしょう」

「…だが、どこにある」「彼は最後に気になる言葉を言っていました。それが正しいのならば、爆弾のある場所がわかるかもしれません。行きましょう」カノープスが、ナダ少年の事を背負う。クゼは、周りの人々に一度ドゲザをし、走り出した。

◆◆◆

ネオ・アンタイブディズムアジト、救世主の部屋はカラテの余波を受け完膚なきまでに破壊されている。そこに、四人の人物が入ってきた。クゼたちだ。「マサダ=サンは『彼』と言っていました。彼で関わる者と言ったら、ここにあるこれだけです」クゼが、指差すのは破壊された木像だった。

クゼは、木像をさらに細かく破壊して行く。すると…!「ありました…!」そこにあったのは、巧妙に隠されていた爆弾!大量のエメツが詰められた袋と繋がっている!

「チッ!バンザイニュークだと…!奴めどこでそんな物を手に入れた…!」ガーランドの呟きを聞いて、カノープスは目を見開いた。小型戦術核バンザイニューク!それが、エメツと組み合わさることによりどのような効果があるかはわからない。

しかし、ドゥームズデイの言葉が嘘ではないかもしれない。それを、三人は嫌でも実感した。「解体…いやバンザイニューク自体が解体を考えられた代物ではない…!特殊な空間を持つニンジャはソウカイヤにはいないのか…!」ガーランドは、如何にして処理するか頭を悩ませる!「誰だ!」

その時突如、ガーランドは部屋の入り口に向かって叫んだ。「あ、アイエエ…私は、コグウィール=サンの部隊の者です」両手を掲げながら部屋に入ってきたのは、コグウィールが着ていたものと同じ装備の兵士だった。数少ないスワンプのジツから生還したものである。

「何の用だ…!今こちらは貴様に構っている余裕はない」「コグウィール=サンは脳に指示用のUNIXを付けていて、それから、部隊に最後の指示が出されていたんです。もし、事態が解決していないのなら。ガーランド=サンの手助けをせよと」兵士が向けた通信機器に、そう書かれていた。

「爆弾の解除が出来ないのならば、爆弾自体をネオサイタマの外まで運べばよいかと…勝手ながら、弊社が所有しているVTOLを呼んでいます。それに乗せて運べば、何とかなるかと」「…間に合わん」爆弾のタイマーは既に7分を切っている。VTOLだけでは、爆破はネオサイタマまで届くだろう。

「…私が、爆発の範囲を押えます」「クゼ=サン!?」クゼが、前に進み己の体内に爆弾を取り込み始める。「限界まで強化したニンジャ筋力による耐久力なら、数秒は耐えられるでしょう。それで、ネオサイタマまでは届かないはずです」それは、余りにも希望的観測に満ちた皮算用だった。

「駄目だよ!クゼ=サン!」ナダ少年は、クゼに抱き着き顔を振る。「ナダ=サン。私は許されない罪を犯してしまいました。ケジメにもなりませんが、やらなければいけないんです。いいですよね?ソウカイヤの方」ガーランドは、首を振らずに腕を組み、クゼを見る。

「でも!」「ナダ=サン」クゼは、優しくナダ少年に語り掛けた。養父が、最後にしたように。「クダ・テンプルの生き残った子供たちの事を、出来る限りよろしくお願いします。あの子たちの怪我が治るまで、そばにいてあげてください」「…嫌だ」

「お金のことは…申し訳ありません。ダンカさんから支援が受けられればいいんですが、受けられなかったら、テンプルの燃え残ったものを売って、当面の生活費にしてください」「無理だって…!」

「最後に、ナダ=サン」「……」「貴方は、私のようにならず、他者を傷つけず、真っ当に、幸せに生きてください。そうなってくれたのなら、私は、幸せです」「駄目だよ!そこにアンタもいなきゃ」

ナダ少年が引き留めようと口を開いた瞬間、クゼは伸ばした触手でナダ少年の延髄を軽く叩き、気絶させた。カノープスが崩れ落ちたナダ少年を受け止め、クゼを見た。「…本当は」カノープスが、後悔に満ちた目でクゼを見る。

「本当は、私も貴方を引き留めなければいけないのに…私は…」カノープスの、アユミの脳裏に、育て親のワモンの残した孤児院。そこに生きる子供たち。そして、マスラダ・カイの顔が浮かんだ。「いいんです」クゼは、凪いだ口調で答える。

「貴方は、貴方の大切な人たちの事を、守り続けてくださいね」カノープスが顔を上げる。既に、クゼとガーランド、兵士の姿は、部屋の何処にもなかった。

◆◆◆

ネオサイタマ湾、その上を一機の無人VTOLが時速666キロで飛行し、海上へと飛び立った。VTOLの上で座禅を組んでいたクガイは眼を閉じ、瞑想をしていた。その胸中にあるのは、後悔、反省、自分を責めたてるものばかり。

自分は、余りにも多くの人々を傷つけ殺しすぎた。ジゴクに落ちる他なし。その時、ある言葉が思い浮かぶ。唱えれば、アミダブツが西方極楽浄土に連れて行ってくれるという言葉を。クゼは一度口を開き、そして閉じた。

「私には…ぼくにはその言葉を口にする資格は、もう、ないんだな…ごめんね、父さん…」VTOLは進む。そして数分後、海中に落ち大爆発を起こした。

アイ・アム・ザ・ワン・フー・セレクツ・ゾーズ・フー・マスト・セーブドゥ#6終わり。そのままエピローグへ。



#エピローグ

「ご苦労だった」チバは、ソファに腰を深く沈めながらガーランドを労った。ガーランドは片膝立ちの姿勢のままで、その言葉を受け取る。チバは、報告書を捲り、事の結果をもう一度読む。

ネオ・アンタイブディズムは壊滅。残存する信奉者はそれなりにいれど、首魁たるマサダの兵器を仕入れるルートと、資金が無ければ烏合の衆でしかない。もはや大規模な活動は不可能。このまま放置で構わないだろう。

クガイこと、クダ・テンプルの暴走したボンズ、クゼは最後の最後で正気に戻り、コーポのVTOLに乗って爆弾の処理を行った。生死は不明だが、恐らく爆発四散したものと思われる。

エメツ搭載型バンザイニュークの爆破は、ネオサイタマに届くことはなかった。ネオサイタマから数十キロ離れた場所に新たな海溝を作った程度で終わる。

「それで、これが…」チバは、横に立つネヴァーモアの持つオボンの上の記憶素子を見た。「はい。ネオ・アンタイブディズムのトップが持っていた、デジ・ネンブツのオリジナルです」

チバは、ネオ・アンタイブディズムの金回りがやけに良すぎることに目を付け、ガーランドに調べさせていた。すると、ネオ・アンタイブディズムが活動を再開する少し前から、妙な電子ドラッグが流行り始めていたことがわかったのだ。

タダオと関わった男と電子ドラッグ。その二つから、チバはあることを思い出した。アマクダリ崩壊時に、タダオが保有していたはずのデジ・ネンブツのオリジナルがどこかに消え失せていたことが、数年後わかったのだ。

アマクダリに所属していたニンジャなり、暗黒メガコーポなりが持ち去ったのだと考えていたが、どのような変遷を経てかマサダの手に渡り、ネオ・アンタイブディズムの活動の資金源となっている可能性があった。それを、クゼマサダ両名の抹殺と共に、ガーランドに回収するように命じていたのだ。

「フン…」デジ・ネンブツは、作り替えようによっては強力な電子ドラッグとなり、多くの中毒者と引き換えに富をもたらすだろう。しかし。「オニヤス、やれ」チバの命を受け、ネヴァーモアは記憶素子を真っ二つに折り、暖炉の中に投げ込んだ。

チバの考えるソウカイヤに、あのような電子ドラッグは必要ない。仮にあれで儲けようものならば、ジゴクにいるタダオが喜びの声を上げ舌なめずりをするのは想像に難くない。そう考えての処置だ。

「次も期待しているぞ。ガーランド=サン」「は…」ガーランドは立ち上がり、しめやかに立ち去った。チバは葉巻を取り出し、ネヴァーモアに火を付けさせ咥えた。紫煙を吐き出しながら、チバは思う。これで、10年前の清算は一つ済んだと。

◆◆◆

屋敷の廊下を、ガーランドは歩く。その時、目の前から一人の男が歩いてきた。「ドーモ」インテリヤクザめいた格好の男、インシネレイト。「アンタの後始末のために、これからのソウカイニンジャの未来をしょって立つ俺の時間が浪費されて、シノギがうまくいかなかったんだよな」

「フ…」インシネレイトが任せられていたのは、小規模な闘犬ギャンブル施設だ。多少いなかった程度でどうこうなるわけではない。「ア?なにが可笑しいんだよ」インシネレイトはガーランドの前に立ちはだかろうとする。

しかし。「インシネレイトだったか。良いワザマエだった。覚えておくぞ」ガーランドはするりと横を通り過ぎ立ち去ろうとする。「アッコラ!?…クゥー!」ここはチバの屋敷。大声をこれ以上上げるのも、ジツを行使するのもご法度だ。インシネレイトは歯噛みをしながら見送る。

…ガーランドは歩きながら、次の任務の内容を考える。クゼが暴れたことにより、下部ヤクザクラン内でムーホンを考えているものがいることが判明した。

ヤクザは、野心を持たねば生きていけない。しかし、野心にも種類がある。今のソウカイヤが求める野心とは、シノギを大きく成功させ、上にのし上がろうという野心であり、決して頭を挿げ替えて乗っ取ろうという野心などではない。

ガーランドの調べにより、何人かのクラン内部のカシラや幹部クラスにムーホンを企んでいたものがいることがわかり、それらのケジメは既に終わっている。ガーランドは次に、ソウカイニンジャたちを調べた。すると、一名のニンジャが妙な動きをしていることが判明したのだ。

そのニンジャが何をしているか調べるのが、次のガーランドの任務だ。調べるべきニンジャの名は、メイレイン。

◆◆◆

「アッハハハ!似合わねー!」曇り空の下、子供たちの笑い声が響く。「ウッセ!まずは形から入るタイプなんだよ俺は!」そう話すナダ少年の髪型はボンズヘアーになっていた。

あの事件からしばらく経ち、入院していた子供たちは退院し、脱走した挙句大怪我をこさえてきたナダ少年は再度入院することとなった。そして、ナダ少年は退院後、ボンズヘアーとなり、子供たちの前に姿を現したのだ。

「ジャマダガキドモオラー!」そこに、肩に木材を担いだヤクザが歩いてくる。ヤクザ大工だ。子供たちはそこをどき、ヤクザ大工を通す。ナダ少年らがいるのは、クダ・テンプルがあった跡地。そこでは、ヤクザ大工らによるクダ・テンプルの再建が行われていた。チバの支援によってである。

あの時、ナダ少年はクゼを刺した。図らずしも、ケジメを付けようとした形になり、チバはその点を買いテンプル再建の支援を行ったのである。そのことに関して、ナダ少年は複雑な思いを抱いていたが、受け入れたのである。己が、クダ・テンプルの後任のボンズになるという条件を付けて。

「で、ナダよぉ。本気でボンズになるのか?」「…ああ。俺が、あの人を殺したんだから」あの日、ナダ少年は確かにクゼを殺した。死に追いやった。もし、刺さなければクゼはマサダが生きていることに気づき、早々にとどめを刺して爆弾を起爆させなかっただろう。

もし、ナダ少年があの場にいなければ。正気に戻ったクゼがケジメをし、ソウカイニンジャの一員として今も生きていたかもしれない。あの日のナダ少年の全てが、クゼを死に追いやった。その罪を、ナダ少年は背負い続ける覚悟は、すでに終えていた。

「ナダ=サン。似合ってるよ」その時、かつて入口があった場所からアユミが歩いてきて、ナダ少年に声をかけた。「アユミ=サン。まだ形だけさこんなもん」子供らは突然現れたアユミが何者なのか知らず、ナダ少年の女かとひそひそ話をしていた。

「それと、ごめんね…このテンプルの再建費用、余り出せなくて…」アユミは、ドゥームズデイ討伐の成果をガーランドに押し付けられ、報酬を受け取っていた。その報酬の一部をクダ・テンプルの再建のために寄付したのである。

「まあいいさ。アンタのことだから、誰かのために必要な金なんだろ?」ナダ少年は気にしていないという口調で答える。アユミの性格から、そうなのだろうと考えたのだ。「それより!そんなにおめかししてどこかに行くのか?」アユミの恰好は、それなりに上等な衣服だった。

「ちょっとね…」「お!まさかデートとかか!」「そんなんじゃないよ!」アユミは両手を振り否定した。「ん?そのフロシキは?」ナダ少年は、アユミの手に握られたフロシキに気づく。「持ってきて欲しいって言われたもので…ア!時間が無いんだった!」アユミは振り返って駆ける。

「アユミ=サン!」ナダ少年は、アユミの背に呼び掛ける。アユミは首だけ後ろを向け、ナダ少年を見た。「また来いよな!次来るときは立派なボンズになって、びっくりさせてやるからよ!」「…わかった!」そして、アユミは駆けて行った。

それが、ナダ少年とアユミの最後の会話だった。

◆◆◆

時が、ほんの少しだけ流れた。

「あの地震は海中でニンジャが爆発四散しただ?それにソウカイヤのニンジャが関わってた?嘘くせぇ話だな。情報源はどこだ?」暗い部屋で、ハーフガイジンが画面を眺めながら呟いた。その時。ビガー!「ア?客かよ…めんどくせぇな」居留守を決め込むかと考えるも。呼び出しは鳴り続けていた。

「クソッタレ。今行ってやるよ!」彼は梯子を急いで登り、ドンデン・ガエシを通りトイレの中に現れた。「すまねえな。腹ぐらいが」「イヤーッ!」「グワーッ!」突如殴られ、ハーフガイジンは床に崩れ落ちる。

「よう!タキ=サン!」そこにいたのはヤクザクラン、デビルスカインド・キョダイのヤクザだった。「いきなり何しやがる…!」ハーフガイジン、タキはヤクザを睨みつけた。「この前、お前んとこから情報を買っただろ?アレに不備があったんだよ」

タキは、デビルスカインド・キョダイに売った情報を思い返す。確か、敵対しているヤクザクランの拠点の情報及び、構成員の人数などだったはず。「アレに間違いがあっただって?んなバカな…」「相手のクランにニンジャが居やがったんだよ!」「ア?」

「ニンジャがいたなんて情報は…」タキは何度も頭の中で売った情報を反芻するが、ニンジャがいたなんて情報はかけらもなかった。「…アンタらがカチコミかける前にニンジャになったんじゃ」「イヤーッ!」「アバーッ!」「ならその情報も含めろよ!」

「無理に決まってんだろ!カチコミ2時間前に依頼してきやがっただろうが!」「まあいい!ボスは、ストリングベンド=サンはお怒りだ!だから、お前に来てもらうぞ!」「ア!?いやオイオイ待て話し合いで解決しようじゃねえかなんなら仕事一回無料で」「イヤーッ!」「アバーッ!」

…「オハヨ。タキ=サン」意識を取り戻したタキの目の前に、殴って意識を刈り取ってきたヤクザがいた。タキは立ち上がろうとするが、椅子にワイヤーで固定され動けない。首に違和感。生体LANを使えなくされたらしい。

「どうやら、説明が多少省けたみたいだな」「アー…ここは」「99マイルズだ」「マジかよ…」タキは、ここが奴らのアジトで、意図せず里帰りをしたことを理解した。「ストリングベンド=サンはお前と話をする準備中だ。じきに」「タイヘンダオラー!?」突如、部屋にヤクザが飛び込んできた。

「なんだ騒々しい!」「誰かがカチコミを仕掛けてきやがった!」「はあ!?コーストウィンド=サンは!?戦闘ヘリは!?」ヤクザは首を振る。ニンジャと戦闘ヘリがやられた。そのことを知ったヤクザたちは動転している。タキは、静かに事の成り行きを見守った。

「お前ら全員でそいつを捕まえろ!」「オニイサンは!?」「俺も出るに決まってんだろうがバカ!」ヤクザらはタキを放置し部屋から急いで出て行った。…それから30分ほど、タキは脱出をするために色々試したがどれも失敗に終わった。

「フゥーッ…」手詰まりであることを察したタキは、目を瞑り、気を紛らわせるためか、それとも発狂したのかは定かではないが、頭の中で居もしない誰かに話しかけた。

誰か、聞こえているか。オレの名前は、まあ、タキとでも呼んでくれ。

【アイ・アム・ザ・ワン・フー・セレクツ・ゾーズ・フー・マスト・セーブドゥ】終わり。

ニンジャスレイヤー、エイジ・オブ・マッポーカリプスシーズン1、トーメント・イーブン・アフター・デスに続く…かも?