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4年前はプロのタンゴダンサーになるなんて、思ってもみなかった。

5mほどの間隔で見つめ合っていたブロンズ像のように彫りが深い顔立ちの男女が、突如立ち上がり、距離を縮めていく。まつ毛の本数が数えられるほど、近くまで。男が女に向かって左手を差し出すと、女もそれに応えるように右手を伸ばす。バンドネオンの透明で物悲しい音が聞こえる。無言のまま、ふたりは見えない力に操られるようにぴったりと息のあったダンスを始めるー

書き手:Sakurako

とまあ、22歳になったばかりの大学生がこんなシーンを見たわけですが、始めに思い浮かべるワードはまあこんな感じなんです。「エロい」「近い」「ドレスがピチピチ」「曲線美」「髭」「おっぱい」(!)

だけど何だろう。そう、エロいんだけど美しいのです。顔を隠して、両手の隙間から見てはいけないものを指のすき間からそっとのぞき見るような高揚感。
パートナーと、音楽と、自分。3つがぴったりひとつに合わさったら、どんな感じなんだろうと好奇心がアクセルを踏みっぱなしでした。

そんな初体験から早4年。まさか自分がプロダンサーになるとは、あの時の自分に言ってやりたいです。「あなたはキャリアをゴミ箱に放り込んで、住所不定無職、自称ダンサーになるのよ!おーっほっほっほっほっほっほっほっほ」
(さすがに今は住民票も移して開業届も出しておりますが)

最近思うのです。22歳の自分は、あの瞬間、タンゴの「胡散臭さ」にハマってしまったのではないかと。
そう、なんだか油断ができない。
甲子園やオリンピックを見ても、アメリカンゴッドタレントやジュノンボーイコンテストを見ても見つからない何か。
気を抜くと行ってはいけないところに飛んでいきそうな危い感じというのでしょうか。
そう、訳の分からない胡散臭さ。
それがわたしにとっての、タンゴの魅力だったのだと思うのです。

この世界では、「3分間の恋」という言葉が使われます。
曲が流れている間は2人の関係が恋人だろうと、赤の他人だろうと、はたまた愛人同士であろうと関係ありません。(たぶん、ペアのいるプロダンサーはケンカでフラストレーションがたまって「恋もクソもないっ!」って方もいるでしょうが)

とにかく、何であれこの3分間は、たった2人のためだけの世界なのです。恋愛感情でも自分愛でも友情でも何でもいい。別にきれいじゃなくったっていいわけです。ときにはドロドロで、ときにはサラサラで、それらが合わさって、たまにものすごい一体感が生まれる。清濁合わせ持つ、なんてものじゃなくて、清濁混ざり合うことでしか生まれない世界なのではないかと思います。

あまりキラキラした話ができないですね。ちょっとダークで変態で、クスっと面白い。そんなわたしのタンゴの世界をこれから発信していきます。

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