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不確実性への憧れについて

書き手;Haruna

アルゼンチンタンゴがマイナー趣味であることは百も承知しています。「タンゴ人口が増えればもっと楽しいし、周りの友達が始めてくれたら面白いけど、どうせ他人には理解されない」と諦めている声をよく耳にします。なぜタンゴを踊るべきなのか、タンゴの何が楽しいのか、少しずつ伝えるために、今日はタンゴの「不確実性」由来の面白さを解説してみます。


即興=improvisation 

ソーシャルダンスとしてのタンゴの醍醐味は即興にあります。リード&フォローの仕組みとコネクションの取り方を掴めば、とりあえず誰とでも踊れます。「いやいや、即興ったって、横に進んだら次は前とか、組み合わせがあるんでしょ?」と言われますが、答えはYesでありNo。男性を中心に女性が周囲を回るように歩く「Giro(ヒーロ・回転)」とか、「Baldosa(ボックスステップ)」とか、一応名前のついているステップもあるのですが、それも全てその場のリード&フォローで決まります。

音楽は「タンゴ」というジャンルが決まっているので、無数に新曲が生まれるということはあまり無いです。クラシックバレエとは異なり、曲ごとに振り付けが決まっているということもありません。その場で曲を聞いて、「ピアノのアルペジオでいこう」とか「この刻みバンドネオンは落とせない」とか、「ここは落ち着いてバイオリンのレガートを取ろう」という具合に音を拾います。男性がリードする形なので、どうしても男性優位になりがちなのですが、女性は男性を通して音楽を聴く、男性とは違う音を取って遊ぶ、もしくは「私はこっち!」と全身で主張、提案することもできます。この情報伝達が結構面白くて、「この人は耳が良いな、ミュージシャンなのかな」、「リードしつつも女性に合わせてくれるんだな」、「前回踊ったのはアップテンポの曲だったけど、メロディ系も楽しいな」とか、いつも新鮮な気持ちで踊れます。タンゴ音楽も、定番曲なら今までに何百回も聞いているのですが、今でも新しい音符や休符を見つけられます。

究極は「自然」?

以前、伝説級の女性ダンサーGeraldine Rojas のワークショップを受けたとき、彼女から教わったことはただ一つでした。「右足の次は左足、その次は右足を使いなさい」。「いやいや、それは分かってます」と言いたくなるのですが、実はこれって結構できていない。

他にも多くの先生が「呼吸を止めないで」「力を抜いて」「頑張らないで」「普通に道を歩くように歩いて」と言います。その『普通』『自然』『脱力』をフロアで再現するのが難しい。確かに、イケてるダンサー(プロアマ問わず)ほど動きが自然だし、力を抜いて動ける人と一緒に踊ると気持ち良いと感じます。

レッスンを受けて、自主練して、動画で研究して、求める先は「究極の自然体」??でもこれって、器楽や武道やスポーツも似たような感覚があると思います。例えばヴァイオリン、上手な人ほど腕が柔らかく、全身の動きが連動しています。個人的な経験でいうと、建仁寺で体験座禅をしたときと、最近ハマっているヨガで、「筋肉を緊張させずに骨で真っ直ぐ立てる(座れる)位置を探す」という感覚を覚えた気がします。


※本記事を書き溜めている時に、ちょうどSakurakoが「自然な動き」についての良記事を投稿していたのでシェア。


不確実性の先にある正解とは

タンゴを踊ると自己肯定感が上がります(断言)。タンゴには正解がないのです。見た目にしても、身長・体重・肌の色・髪の色・ファッション・国籍・年齢、みんなバラバラで、それぞれの美しさがあることを実感できます。パフォーマンスとしての踊りはやはり見た目の美しさが重要ですが、それをとっても、小柄なダンサーのスピード感あるアクロバットや長身カップルの流麗な動きなど、評価軸も様々で、100kgを超える巨体でキレッキレにステップを刻む人もいます。音楽性やステップのセンスも人それぞれで優劣が決まらないのです。目指すべき正解があるとすれば、踊っている2人が気持ち良いことかなぁと思います。

「踊ってる2人が気持ち良い」を作るのって結構ややこしいのです。ミロンガ(タンゴのダンスパーティ)では不特定多数の人とランダムに組んで踊ります。固定のパートナーがいたとしても、その時の自分の気分、体調、技量に加えて相手のコンディション、さらに二人の関係(喧嘩中とか)まで関わってきて、さらに知ってる曲や好きな曲、2人分の変数が入力されるので、不安定極まりないのです。

長年一緒に踊っているパートナーがいる場合は、ピッタリと合う感覚の精度を高め、再現可能な状態に近づけていきます。フリーで楽しむ人は、幸福な一期一会を楽しみにミロンガへ通います。どちらにせよ、不確実であること、わからないことを楽しむのがタンゴかなと自分なりに思っています。



伝説級ダンサーGeraldin Rojas と Javier Rodrigues の即興パフォーマンス。個人的には脳が喜ぶレベルで気持ちのいい動画。二人がそれぞれ違う動きをしながら一つの生き物になって音楽とも一体化しているのがめちゃめちゃ気持ち良い。


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