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第9話 対峙

「――それで、その、“宇宙ネコ”対策ですが、私に考えがあります」

ミキオが手を挙げた。

「彼らをはじめ、この惑星の動物はほとんどが夜行性で、暗い環境に適応しています。眼が大きいのはそのためでしょう。これを逆手に取れば、彼らを傷つけずに遠ざけることができるかもしれません」

後日、ハンスとミキオが夜の地表への降下を開始した。

「……」
「……」

二人とも無言のまま、緊張した面持ちでコンソールを見つめている。ハンスの頭には前回の襲撃がよぎり、ミキオは自分の“作戦”が上手くいくかを案じているのだ。

夜は“原住民”達も活動する時間だ。上空からも暗視カメラ越しのモニター映像で宇宙ネコやその他の動物の姿が確認できる。降下船の姿と爆音に驚いてか、こちらを凝視するもの、威嚇のような動作をするもの、逃げていくものなど様々だ。

「もう少し、もう少し降りて……今だ!」

地表まで数十メートルと近づいたところで、降下船に搭載したサーチライトをすべて点灯させた。真っ暗な地表が昼間のように明るく照らされるやいなや、地上の動物達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。その後もしばらく降下船はホバリングしながら地表を照らし続けたが、動物達は近づいてこない。

「おお……!これなら大丈夫そうか?」
「たぶんね……着陸してみよう」

着陸後、ハンスとミキオは格納庫からローバーに乗り込み、そのまま降下船を出た。これなら襲われることがあっても身体やEVAスーツにはダメージが及ばない。

「前回もこうやって着陸していればソンミンは……」
「……仕方ないよ。あの時は誰も知らなかったんだ」

ローバーで降下船の周囲を慎重に徐行する。動物達はやはりローバーのヘッドライトを忌避するようなそぶりを見せた。

「外に出てみよう」

ミキオはバッテリー式の投光器をいくつか携え、ハンスはその後ろから武器――つまり手頃な手持ち工具を握りしめて続く。人類の叡智と技術の粋を結集したガジェットを全身に装備しながら、結局“ケモノ”から身を守る術が灯火と鈍器というのがなんとも滑稽であるが、これが今彼らに講じることのできる最善の策なのだ。

数体の宇宙ネコが逃げ出さずに留まっていた。距離はほんの数メートルといったところ、投光器の明かりに照らされて、顔体つきや毛並みがはっきり見える。今にも飛びかからんという体勢で、目を細めながらもこちらを凝視している。

「よし……いい子だ……そのままじっとしててくれよ……」

ミキオは宇宙ネコ達を刺激しないようにゆっくりと投光器を地面に置いて後ずさった。宇宙ネコが襲いかかってこないことを確認して、次の投光器を携えて場所を変え、地面に置く――これを繰り返すこと十数回、最終的にベースキャンプの敷地をぐるりと囲む「光の結界」とでも言うべき代物が出来上がった。

「やったなミキオ!」
「今日のところはね……これで数日間様子を見て、動物達が入ってこなければ作業を再開してもいいと思う」

ハンスとミキオは再び降下船に乗り込み、地表を後にした。ミキオは、惑星ホープの真っ暗闇に煌々と浮かび上がった光環が遠ざかっていくのをモニター越しに見つめていた。

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