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第1話 人類の危機

人類紀元121XX年(旧暦22世紀)、地球は前世紀から深刻化していた温暖化の影響により、およそ人間が快適に居住できる環境ではなくなっていた。ほとんどの地域で夏季の平均気温は40度を超え、毎日のようにどこかが甚大な水害や干ばつに見舞われる。極地の氷山が融解したことによる海面上昇でいくつかの沿岸地域は浸水し、なすすべもなく放棄された。

北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアの先進各国の主要都市は地上を捨て、生活の場を地下に移していた。地下都市では気温が快適なレベルに保たれ、災害の影響も旧来の地上生活に比べれば皆無に等しい。一方で、莫大なコストのかかる地下都市を建設・維持する力のない国では、過酷な環境の中で前世紀と変わらない生活が営まれ、数えきれないほどの死者を出し続けていた。

地下都市に逃れた人々の生活も安寧とは程遠い。太陽の光をめったに浴びない巣篭もり生活と極度の人口密集は人々の心を荒ませ、暴動や略奪は日常の風景となっていた。人類の行く末には、文字通りかつてない閉塞感が重くのしかかっていた。

そのような状況においても、一部の人間たちは地上での生活を取り戻す希望を捨ててはいなかった。研究者たちの努力が実り、温暖化の原因である温室効果ガスを大気中から回収し、固着させる技術が確立した。固着した温室効果ガスを地中に埋め戻すことで徐々に温暖化を解消する目処が立ったものの、この方法には致命的な問題があった――材料が足りないのだ。この処理に必要なレアメタルは地球上ではレア中のレア、きわめて希少であり、とても温暖化を解消できるほどの埋蔵量は見込めなかった。

人々が失望している間にも、地下都市を維持するために排出される温室効果ガスはさらに温暖化を加速させ、攻撃性を増した自然災害はいよいよ地下都市生活をも脅かし始めた。ここまできて、ようやく世界の為政者たちは「人類滅亡」を現実的な未来と認識した。

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