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第8話 宇宙ネコ

カメラや各種センサーの搭載された空中ドローンや無人のローバーなど、ありとあらゆる観測機器を駆使して惑星ホープの生物群が調査された。この惑星の生態系は地球のそれとまったく同じ――すなわち、植物があり、それを食べる草食性の動物がいて、さらにそれらを捕食する肉食性の動物がいるという食物連鎖のピラミッド構造だ。

調査を継続するうちに、環境への理解も進んだ。恒星の光が地表に届く時間――つまり昼間はほとんど常に強い風が吹いており、砂塵で霞んだ状態になる。地球のように燦々と日の光が降り注ぐことは、時折降る雨の直後をのぞいて滅多にない。一方夜になると風が止んで、しばらくすると大気中に舞い上がった砂塵が落ちて星空が広がる。

このような環境に適応してか、動物のほとんどは夜行性で、昼間は物陰に隠れて眠っている。任務初日にハンスとソンミンが襲われたのは、彼らの睡眠を妨害したからかもしれない。

「こいつらだ!一瞬の出来事だったが……間違いない」

ドローンが撮影した動物の画像を見たハンスが証言した。

「ネコ科のサーバルなんかに雰囲気が似ていますね」
「地球の動物に似ているのは、おそらく収斂進化によるものだろう。環境や生態系における地位が似た者は、まったく異なる種でも似たような形質を得る現象だ」

動植物に造詣のあるミキオと、医務班の医師であり分子生物学者でもあるドクター・ファンが考察を述べた。

「へえ、じゃあソンミンはネコちゃんにやられたってわけか?20年も宇宙旅行した末に?」

オリバーはいつものように軽口を叩く。

「姿がネコ科動物に似ているというだけで、地球のネコとはまったく別物と考えるべきだろうな」

何しろ現実にクルーの脅威となっている動物、“彼ら”の生態調査はとくに詳細に行われた。しなやかな体躯、長い尾、大きな目と耳――たしかに一見すると地球のサバンナ地方に生息するサーバルやカラカルなどの中型ネコ科動物に似ているが、その習性はネコというよりはイヌに近い。数十頭から成る群れで行動し、鳴き声を使い分けて簡単なコミュニケーションを取りながら、たくみに大型の草食動物を捕獲して食料としている。群れの中には明確な序列があり、食料の量は序列や“戦功”によって配分が決められるようだ。

「つまりチーターのような敏捷性と、オオカミのような知能とチームワークを兼ね備えているというわけだ。“彼ら”が地球に生息していたら、間違いなく生態系の頂点に君臨する存在だろう」

「“彼ら”ってのはどうもわかりづらいな。何か名前でもつけたらどうだ」

「“宇宙ネコ(space cat)”、だな」

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