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第2話 アストロマイニング計画始動

いがみあっていた各国はここにきてようやく団結し、「国際地球復興協力会議(通称:協議会)」が発足。様々な方策が検討されたが、最終的には地球外に活路を見出す方針を決定した。具体的には「人類の居住可能な惑星への移住」、あるいは「レアメタルが豊富な天体からの採取」のふたつの可能性が検討されることになった。

この時代、宇宙探査技術は恒星間航行も夢物語ではない水準に達していた。しかし、それも地球に暮らすすべての人間、数十億人を輸送するとなるとまったく別の話だ。最高性能の宇宙船をもってしても、太陽系の「お隣」の恒星系であるアルファ・ケンタウリ星系へ到達するには10年以上の長旅になる。長期間の航行ともなれば、それだけ乗客達の生命を維持する食料や物資、インフラも莫大なものになる。必要なペイロードは天文学的な量になり、まったく非現実的だ。他惑星への移住計画は早々に破棄され、計画はレアメタルの採取に一本化された。

人類を救済しうる元素が豊富に埋蔵される天体を探すべく、各国の天文学者、地質学者、工学者…あらゆる分野の科学者達が総動員された。いくつか発見された天体の中から、現実的に往復できそうな距離にあることなどを条件に3つの惑星が絞り込まれ、発見された順にそれぞれ「プロスペリティ」「グローリー」「ホープ」と名付けられた。これらの惑星に宇宙飛行士を派遣し、レアメタルを採掘、地球に持ち帰る壮大なプロジェクト「アストロマイニング計画」が始動した。

恒星間航行が可能な宇宙船、必要な機材の開発、クルーの選定と訓練――多岐にわたる研究開発が急ピッチで進められた。人類滅亡までの明確なタイムリミットがあるわけではなかったが、協議会は「今世紀中に地球の温暖化を解消する」という目標を打ち立てていた。本計画では、単純に採掘先の惑星まで行って帰ってくるだけでも3、40年はかかる。現地で十分な量のレアメタルを採掘するにも数年間はかかるだろう。そうなると事前準備に使える時間はそう多くはない。旧世紀の米ソ宇宙開発競争のごとく、資源と労働力、そして予算はおよそ無制限と思えるほど注ぎ込まれた。

計画始動からわずか10年あまりで恒星間航行船「アストロマイナー号」の一号機が完成した。巨大な宇宙船のため、建造作業はほとんどの工程が地球の軌道上、つまり宇宙空間で行われた。旧来のロケットは、地上から宇宙空間へ打ち上げる段階で大部分の燃料が消費されてしまう。建造から発進までを宇宙空間で完結させることによって燃料を大幅に節約し、その分を恒星間航行に充てられるという寸法だ。

アストロマイナー号は最新鋭のレーザー核融合エンジンを主な推進力にしている。燃料である水素の同位体に強力なレーザーを照射して核融合反応を起こし、放出される莫大なエネルギーにより前進する。構想自体は旧20世紀からあったものの、技術面やコスト面から実用化されてこなかったものが、ここにきてようやく日の目を見た形だ。

搭乗員は、宇宙飛行士、科学者、技術者、医師が各国から選抜され、9名で1チームとなって各惑星へ派遣される。人類の未来は、このわずか27名の若者達に託されることになったのだ。ジョージ・H・カークランド船長以下9名は、惑星「ホープ」に派遣されることが決まった。

事前の観測と解析により、ホープは地球から約8光年の距離にある恒星系に属する惑星で、火星程度の大きさの天体であることがわかっている。採掘目的のレアメタルをはじめ重い元素の含有率が高いため、サイズのわりに質量は大きく、重力は地球より若干小さい程度。いわゆる「ハビタブルゾーン」に位置しており、大気の組成も地球と似通っている。人類にとっても快適な環境の「良物件」と言える惑星だ。

――大気中に猛毒の硫化水素が高濃度で含まれていることを除けば、だが。

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