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第13話 暗雲

“壁”の建設とその内側の施設の整備が同時並行で行われていった。時に原住動物に妨害されながらではあるが、工事はおおむね順調に進み、ベースキャンプとそれををぐるりと囲む高さ4メートルほどの石の壁が出来上がった。これでクルーと施設が原住動物に脅かされる心配はかなり減った。また副次的な効果として、昼間の砂嵐の影響もある程度は抑えられるようになった。

しかし一方で新たな問題が発生した。壁に阻まれるのは何も原住動物や砂嵐だけではない。クルーや資材も同様に、壁の内側と外側の行き来が困難になってしまった。限られた資材で大掛かりなゲートなどは作ることができず、行き来をする際にはフォークリフトをエレベーター代わりにするという力技。当然これではクルーの移動はできても重機や資材の搬入出は現実的ではない。当然の帰結として、メタルの採掘は地表の露天掘りではなく、壁の内側から地下へ坑道を掘ることになった。言うまでもなくこれは露天掘りに比べて非常に効率が悪い。大掛かりな重機は使うことができないため小型のハンドツールを使う手作業が増えたうえに、採掘環境は地表にも増して劣悪だ。

「まったく誰だよ壁を作ろうなんて言い出したのは」
「でも壁がなければキャンプは荒らされ放題だし、機材は1日で砂まみれだぞ」
「ふん、原住民なんて一匹残らず駆除してしまえばいいんだよ」

こんなやり取りがたびたび聞かれるようになるほど、クルーの不満は日に日に高まっていった。唯一の救いといえば、地下のほうが地表に比べてメタルの含有率が高いとみられて頻繁に鉱石が発見されることだが、やはり坑道内での作業は根本的に生産性が低い。

「――本任務は地表での作業を前提に計画されている。地下作業にあたる諸君の不満は正当なものだ。この状況を改善したいと思う。意見はあるか」

作業が一旦中止され、クルー全員参加のミーティングが開かれた。

「露天掘りに戻すべきだと思います。露天掘りなら大型の重機が使えて効率的に採掘可能です」
「宇宙ネコ対策はどうするんだ」
「蹴散らせばいいだろ。あんなヤツら」
「一匹ならなんとかなるかもしれないが、群れで来られたら厄介だぞ」
「僕は反対です。我々の都合でこの惑星の生物に危害を加えるべきではありません」
「そもそも蹴散らすったって武器がないじゃないか。またパイプレンチで殴るってのか?」
「……」
「……」

「――我々はすでに貴重な人員を一人失っている。危険を冒してこれ以上犠牲者を増やすわけにはいかない」
「じゃあどうすればいいってんですか」
「……」
「……」

「――よろしいですか」

重苦しい沈黙を破り、ドクター・ファンが手を挙げた。

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