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第15話 試行錯誤

ドクター・ファンの指示により、クルー達は惑星ホープの原住動物の“サンプル”集めに奔走することになった。動物の捕獲は地球上であっても困難だ。ましてここは異世界、そしてターゲットも未知の生物。しかしこれを遂行せねばミッションの前進はない。クルー達は必死で原住動物達と格闘した。3Dプリンターで出力した網を空中から投下したり、複数台のローバーや重機で追い詰めたり、時には原始的に徒党を組んで素手で挑んだり……

クルー達の奮闘の甲斐あって、いくつかの種の生体サンプル、つまり生きた個体を入手した。この星にも多種多様な生物が生息しているが、彼らの中でも陸上で生活し、四肢があり、ある程度の知性と社会性らしきものを備えているとみられるもの――要するに“なんとなく地球の哺乳類に似たもの”という、実に大雑把な基準で実験対象の選別がなされた。その中にはあの“宇宙ネコ”も含まれていた。

この惑星の生物には、地球生物と似通った遺伝子構造を持つ以外にもうひとつ“好都合な”特徴があった。それは、世代交代のサイクルが非常に早いことだ。種類にもよるが、中型の動物であれば生後2週間ほどで性成熟し、3ヶ月ほどで寿命を迎える。(もっともこれは生理的な寿命であり、実際にはほとんどの個体が寿命を迎える前に病気や被食などにより死亡する)逆に彼らからすれば、人間達はほとんど永遠に生きているように見えるかもしれない。

生体サンプルから採取した受精卵の遺伝子を編集して、産まれた個体から好ましい形質を持つものを選別し、さらにその個体から遺伝子操作された個体を産み出し、再び選別……地球生物もそうであるように、進化とは変異と適者生存の繰り返し――つまり試行錯誤だ。違うのはそれを途方もない時間をかけて自然に委ねるかわりに、極めて短い期間で人間が行っているということだけだ。進化の過程で“不適”であると判断された個体は躊躇なく処分された。地球で行えば間違いなく何かしらの罪に問われるであろうおぞましい生物実験の数々――しかしここははるか遠くの惑星軌道、アストロマイナー号の研究室。地球のいかなる法律も、ここでは意味を成さない。

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