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銀河中心部を見よう~夏の夜空は特別

"言い伝えでは、神々の女王の乳房から数滴の乳がしたたり、それを受けた空の部分を白く染めた。「乳の道」という名はそこから由来し、つまりこの白さの原因を示しているわけだ。私たちとしては、むしろ、多数の星が集まって焔の帯を構成し、ひときわ濃い光を放っている ー つまり輝く多数の天体が集まってこの部分を光らせていると考えるべきではあるまいか。" 
マルクス・マニリウス(1世紀)アストロノミカ, 有田忠郎 訳, 白水社, p67

「銀河系を体感できる天の川だから」
夏の夜空が特別な理由だ。
星がいちばんシャープに見えるのは冬。気温が低く、乾燥しているほど大気の揺れが少ない。それでも夏を推すのは銀河の体感にある。

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銀河
上は有名なアンドロメダ星雲(M31)、僕たちの天の川銀河のすぐ隣にある。天の川銀河の形は少し違い、棒渦巻銀河(ぼううずまきぎんが)と呼ばれる姿をしていることが最近になり分かった。中心部は長細い光のかたまりで、そこからのびる腕は四本。そのなかのひとつ「オリオン腕」に太陽系はあり、中心部から見るとやや外側に位置している。下は天の川銀河の全景想像図。

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参照 https://www.afpbb.com/articles/-/3280166

天の川はこの銀河系を真横から見ている姿だ。それに気づいている人は意外と少ない。SF映画やアニメで見る鮮明な姿であれば、だれでも気づくのだけど実際に目で見る銀河は光がずっと弱い。下は実際に見る天の川。街明かりが少なければこれくらいの光が見える。都会では殆ど見えない。場所は五月中旬の甲州山中。

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雲間でひときわ輝く星はさそり座のアンタレス。その左側にうっすらと淡い光が雲状に見えるのが銀河系中心部だ。北半球では五月から九月にかけて見える。
この日から三週間後、同じ場所から見た姿はより鮮明だった。

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射手座
雲状の光がいちばん明るい中心部には射手座がある。部分的に暗いのは暗黒ガスだ。オーストラリアのアボリジニ族には星の伝承が多い。彼らは暗黒ガスの形にも星座と同じ様な意味と名前を与えている。
さて一ヶ月後(七月)、房総半島南端へ出て水平線と直交する銀河系を眺めた。

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下は木星と土星と一緒に見る銀河系。明るいのが木星、少し右側が土星。中心部付近には多くの星団があり、望遠鏡や双眼鏡でその姿を楽しめる。撮影時のシャッターは15秒、画像ソフトを使い光を増幅している。でも十分に暗く、空の状態が良い場所では人の目に勝るものはない。

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天頂に向かって伸びる光の腕。中心部はこの左下にある。晴れていて、暗い場所に行けば、肉眼でも暗黒ガスと光の違いは分かる。

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銀河の中心部が西に沈んだ後の天の川。八月深夜。

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星の色
これを数十分間の星の光跡として写す。すると星の色の違い(白、青、オレンジ、黄)が明瞭になる。空気が澄んだ山中ではこうした星の色の違いも楽しめる。

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古代の人たちは毎晩こうした色の違いを見ていた。だから恒星の占星術的意味が色味と光度によるところが大きいのも頷ける。

次の季節へ
さて、一晩中星を眺めていると季節を先取りする瞬間が訪れる。八月中旬、深夜一時を過ぎると東の空から冬の星座が現れる。おうし座のスバル(プレアデス星団)の登場だ。

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もうすこし粘れば薄明と共に三つ星を携えたオリオン座が昇る。ヘリアカル・ライジング(太陽が昇る直前、その年初めて東の空に見える星)の感動体験を味わうこともあるが、その話は別の機会に譲る。

さて、夏場に見える天の川銀河中心部を駆け足で紹介した。1970年代までは都会でも天の川がなんとか見られたが、街の夜空は明るくなる一方で天上に広がる光の帯を見る機会は減ってしまった。中心部を見られる時期は9月中旬まで。見られれば銀河系の中心部を向いて立つ自分が、銀河系の一部であることを体感できると思う。

天の川銀河中心部を見るには…
・新月の前後1週間を狙う(月が出ていると淡い天の川は見られない)
・暗闇に目を慣らすまで5〜10分必要(目を暗さに順応させる)
・南側が開けた場所を選ぶ
・南側に街明かりの少ない場所を選ぶ

アンドロメダ星雲
下図で冒頭のアンドロメダ星雲を円で囲った。双眼鏡があればボーッとした淡い光の固まりが見られる。冬場はオリオン座のM42大星雲が有名だが、望遠鏡が発明されるまで星雲と星団との違いは分からなかった。星雲や星団に目の病、目が悪くなる等の占星術的意味が与えられている。これは天体観測者にはピンとくる解釈でもある(理由はどこかで解説したい)。アンドロメダ星雲は秋から冬にかけて見える。都会では双眼鏡が必要だが、山中では満月大に広がる淡い光を見られる。250万年光年も離れているが、天の川銀河の隣にあり、遙か先の未来やがて二つの銀河は衝突し融合する。

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天の川の影
本来の天の川は遙かに明るいという話で本稿を閉じたい。冒頭で紹介する1世紀の詩人マニリウスが残した占星詩歌にあるように、天の川の正体は長く謎につつまれていた。彼の「恐らく星の集まりだろう」という予想が実証されるのは、ガリレオが望遠鏡で観測した1600年代。昔は現代の様な光害は無い。天の川はずっと明るく、人々の好奇心と想像力をかきたててきた。現代も街の明かりが一切無い場所に行けば、当時と同じ明るさの天の川を眺めることができる。「天の川で影が映る」と僕に話してくれたのはオーストラリアに行った天文家だ。新月で天頂に銀河中心部がある晩、地面にうっすらと映る自分の影を見たという。オーストラリアでは銀河中心部が天頂に現れる。これを聞き、一度で良いからオーストラリアに行かねばと思っている。
同じ話は2021年8月に出版された「古代文明と星空の謎」(渡部潤一著)にもある。彗星ハンターで有名な故百武氏にオーストラリアで見る影の話を聞き、現地での天の川の明るさを積分するとマイナス3等(星の光の強さを表す単位)。実際に赴き、白い紙にうっすらと映る手の影を見たという。そこで思った。マイナス3等は木星が発する光だ。天の川の分布はずっと広大で木星と比べることはできない。でも、ひょっとすると国内の高山でも新月の星明かりで影が見られるのかも知れない。


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