バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(その6)

前回は、単純化したバイク(ジャイロ効果なし、トレールゼロ)が力学的に安定である、という解析結果を紹介しました。これは、専門的には「線形安定性解析」と呼ばれる手法です。力学系に限らず、何かの物理現象が安定かどうか、不安定になるとしたらどういう条件で起こるか、というを調べる標準的な手法です。簡単に言えば、システム(今回の場合バイク)にちょっとした揺らぎ(今回の場合は、傾きやヨー角を揺らす)を加えて、それがどんどん成長するか(不安定)、揺らぎがゼロの方向に収束するか(安定)を調べる、というものです。

Koojimanのモデルバイクは人も乗っていませんし、非常に単純化して8個のパラメータしかありません。従来の説であった、ジャイロ効果もトレール効果も安定性には関係ない。それどころか、ヘッドチューブが逆に傾いているような変なバイクですら安定になる場合がある、という驚くべき結論でした。そうすると、結局、もともとの疑問

なぜ、バイクは自己安定するのか?

に戻ってきてしまいました。詳しい数理解析をしたのだから、何かヒントが得られそうです。というわけで論文の後半を見てみると、

Why does this bicycle steer the proper amounts at the proper times to assure self-stability? We have found no simple physical explanation equivalent to the mathematical statement that all eigenvalues must have negative real parts. なぜこの自転車は、自己安定性を確保するために、適切なタイミングで適切な量を操舵するのでしょうか?すべての固有値は負の実部を持たなければならないという数学的な記述に相当する簡単な物理的説明は見つけられなかった。

なんと! 簡単な物理的説明はない、と言ってます!思わず、わかんないのかい?と突っ込みたくなりますね(固有値云々は専門的すぎるので無視してください)。いくつか、必要条件になりそうなことがかいてはあります。例えば、バイクが傾いたときにハンドルが切れる、ということ。前回の計算結果でも、傾きとヨー角が一度大きくなってから逆方向に戻っています。そして、その揺り戻しみたいのがだんだん小さくなっていきます。

結局、自転車はホイールが回転しているということを除いたとしても、自由度が大きく、さまざまな要素が絡み合っているために、単純に一つの条件で安定・不安定が決まっているわけではない、ということです。

なんかすっきりしませんが、物理学ではしばしばこういうことが起こります。方程式を書いたとしても答えがきちっと決まる、というわけでないのです。

(次で、終わるはず)

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