バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(その1)

「自転車の物理」を標榜していながら、このnoteで意図的に避けていた話題があります。それは、

自転車がなぜ真っ直ぐ走るのか?

という問題です。なぜ避けていたかというと、難しいからです(汗

この手の話は、マックス・グラキン著の"Cycling Science" (2013)を見ると大概、書いてあるのですが、この本にして「よくわかっていない」と書いてあります。

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自転車は人が乗っていなくても、ある程度真っ直ぐ走ります(いつかは倒れますが)。あるいは手放しで走っているときに試してみるとわかりますが、意図的に身体を振ってハンドルを振っても元に戻ります。もし、手放しで身体を真っ直ぐにしているときに、バイクが勝手に右や左に曲がっていてしまう、あるいはハンドルがぶれて真っ直ぐ走れないとしたら、それはバイクに何か問題があります。ショップに相談しましょう。

さて、今回、解説を書いてみようと思ったのは、国際的に権威あるScienceという雑誌に載った、2011年のこの論文を読んだからです。

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オランダの科学者による論文で、「自転車はジャイロ効果あるいはキャスター効果がなくても自己安定できる」というタイトルです。これから何回かに渡って、この論文を読み解いていきたいと思います。Scienceに載るということは、タイトルが表している結論がこれまでの常識とは異なる、ということです。

なぜ、自転車が安定して走れるかという問題は19世紀末にはすでに認識されていて(脚で蹴る自転車の発明は1818年。ペダルがついたのが1861年)、Cavallo (1897)やWipple (1899)という論文がでています。その後、1911年にKleinとSommerfeldが自転車の安定性についてドイツ語の教科書を書いているようです(筆者は原著を確認していません)。

私達の常識では、自転車が安定性する原因の一つは、ホイールのジャイロ効果、だと思っているのですが、その常識はどうやらこの教科書に端緒があるようです。ジャイロ効果はホイール軸を手に持って回してみると感じる、あの力のことです。物理の用語では角運動量保存則のことです。

自転車を安定化させるもう一つの要因は、キャスター効果、と言われています。図を見た方が早いですね。

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Kooijman et al. 2011 Fig.1 から

普通、バイクのフロントホイールが地面に接している点(図のQ)は、ヘッドチューブの延長線と地面が交わる点よりも後ろにあります(図の c が正)。図のcがいわゆるトレイルです。

このトレイルに関しては、Jones (1970)という論文があって、 トレイルが正でないと自転車は安定しない、ということを示しています。彼はこんな変なバイクを作って自分で乗ったり、理論的に考察したりしています。

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                               Jones (1970) Fig. 1より

(つづく)



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