物理神はpush and pullを与えた

例によって、西薗さんの自転車ポッドキャストside by side radioのフォローアップですが、最新のep.90で、kossyさんが "プッシュ・アンド・プルはブランコと同じ" と言っていて、目からウロコが落ちました。

push & pullとはBMXやCX、MTBで凸凹のあるところを走るときに加速する技術です。その語感からなんとなく、ハンドルを押して・引く、みたいなイメージを持っていましたが、全然違って本質は重心を下げて・上げる、ということなんですね。

ブランコを漕ぐときに足を伸ばしたり・縮めたり、あるいは立ちこぎの方がわかりやすいと思いますが、膝を曲げたり伸ばしたりします。これがpush & pullです。それでなんで加速するか、ブランコならなんで振幅が大きくなっていくか、というのを物理的に説明してみます。

図1のように、凸凹をボールを静かに転がす場合、空気抵抗や摩擦を無視すると、ボールは加速・減速を繰り返しますが、凸凹を超えるたびにだんだん速くなったりしません。A点での位置エネルギーがB点での運動エネルギーに100%変わり、それがC点での位置エネルギーに100%変わる、、、ので、例えば、B点とD点での速度は変わりません。これでは加速したことにならない。

図1

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一方、図2のように、重りが上下しながら凸凹を滑っていくような場合、自転車で言えばライダーが膝を屈伸して重心位置を上下に変化させる場合、上下動と凸凹をうまくタイミングを合わせるとだんだんと加速させることができます。

 
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図2

これは、図のA点からB点に行くときに図1のA=>Bよりも位置エネルギーを稼げるためにB点での速度が大きくなるからです。さらに、B=>Cに行く場合重心位置を上げることで位置エネルギーを稼ぎます。しかし、A=>Bの軌道が固定されているので、B点での速度は図1の場合よりも大きくなります。これがプッシュ動作です。つぎに、B=>Cに行くときに重心位置を上げると位置エネルギーは図1の場合よりも稼げます。これがプル動作です。

結局、図2のように重心位置を可変させると、運動エネルギーに変換できる位置エネルギーは増やせるのに、A=>B=>C=>...の軌道が固定されているので、速度がどんどん大きくなる、わけです。

sxsradioでは、kossyさんが、平坦でも自転車漕がなくてもずっと走れるよ、って言ってたんですが、それはこのpush & pullの応用です。ただし、まっすぐ走っていては加速できません。図3のように蛇行するのがポイントです。そうすると、ターン内側に傾く・まっすぐ立つ、重心位置を下げる・上げる、がちょうど凸凹を通過する図2と同じことになります図3のピンクの点線のように重心が蛇行しつつ、上下動するわけですね。


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図3

このように、振動現象(この場合は凸凹を通過する自転車)に対して、外部から周期的に外力を加えるのを強制振動といいます。ブランコや振り子で重りの位置を変える、紐の長さを変える、紐の支点の位置を変える、足の曲げ伸ばし、上下動というのは周期的外力の具体例です。この強制振動の周期ともとの振動の周期にある関係がある場合、振動はどんどん大きくなります(パラメータ励振)。共鳴現象ともいいます。

自転車のpush & pullは、この共鳴現象の一つの例ですね。プッシュとプル、という名前の付け方はわかりにくいと思いますが、凸凹とプッシュ・プルのタイミングを合わせないと逆効果になる(減速する)のがわかると思います。

(了)

(補足)当たり前ですが、push & pullで加速していくのは無からエネルギーを取り出したわけではありません。重心位置を上げ下げするのにライダーがエネルギーを使っています。それを重力の助けを借りて、速度にうまく転換していってるわけです。

(追記 3/23/2021)  push & pull よりも、squat & stretch の方が用語としては適切な気がする。

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