(番外編)指数関数的増加の恐ろしさ
コロナ禍において、こういう図をよく見ます。縦軸は感染者数です。
出典:Googleの統計情報から
これは日本全国の感染者数の推移ですが、4つ山があるのが明確で今(6/25)は4回目の谷になっていることがわかります。ピークと谷の高さは徐々に大きくなっているようにみえます。沖縄と東京はそれぞれ以下です。
しかし、こういうプロットは相互に比較したり、時間的な変化の傾向を見るのに2つの点で適していません。一つは縦軸の単位が「人」になっていることです。東京と沖縄、全国では人口が全然違うので、直接比較できないのです。例えば、10万人あたりとか100万人あたりの感染者数のように、単位を揃えないといけません(「規格化」と言ったりします)。
もう一つ問題なのは、縦軸は「線形目盛り」だということです。つまり、0から始まって、100, 200, 300,... と等間隔に目盛りが振ってあります。
それの何が問題かというと、一つには山が小さいと過小評価する、ということです(もっと本質的には後述)。増え始めが目立たない、という問題もあります。全国のプロットをみると、第1波と第2波の大きさは第3,4波に比べるとはるかに小さく見えます。つまり、何かファクターXがあって、第1,第2波は被害が小さかった、ように思えます。
しかし、それは間違いです!下の図は縦軸を人口100万人あたりと正規化し、さらに、対数でプロットしてあります。東京、沖縄、北海道、愛知、大阪、全国を比較してあります(第2波以降)。
出典:https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/
この図からわかる大事なことは2つ。1)各波の高さや周期が良く似ている、2)ピークの高さが直線上に右上がりになっている、ことです。それの何が重要なのか?下の図をみてみましょう。これは全く同じ関数を縦軸を線形(左)、対数(右)でプロットしたものです。
オレンジ色が指数関数(exp(a x))、青色が振動を表すために exp(a x) * sin^2(b x) (a, bは適当な定数)の関数です。
まず、オレンジの線に着目しましょう。左の図では、最初の方はちょっとしか増えていないのに、x = 40くらいから急激に大きくなっているようにみえますね。一方、右の片対数プロットでは、指数関数(オレンジ色)が直線になっていることがわかります。別の言い方をすると、関数の性質としては、 x が小さいところでも、大きいところでも同じ、ということです。左の図で、オレンジの値が急に増えているように見えたのは単に見かけだけということです。
青の曲線は、振動しつつ、指数関数的増加するという関数です。感染者数の波がだんだん大きくなっていくというのを定性的に表したのですが、左の図では、波が最初小さくて目立たないのに、4番目の波では急激に大きくなっているように見えます。しかし、片対数の右図をみると、どの波も同じように増減していて、高さが指数関数的に増加していることが見て取れます。
以上の話は、単にグラフの書き方を変えた、という以上の大事なことを含んでいます。つまり、片対数グラフで直線状に増えていくというのは、すなわち指数関数的に増えている、ということを意味しています。わざわざ、指数関数でフィッティングしなくてもわかるのです。
なので、よくみる感染者数の時間変化のプロットのように縦軸が線形だと本質がつかめないのです。
指数関数的増加、というのは、簡単にいえば「ねずみ算的に増える」ということです。一人の感染者が何人かに感染させ、感染した人がまた何人かに感染させるという性質がある感染症では、感染者数の増え方は感染者数自体に比例します。つまり、
(感染者数の増え方)= a 感染者数、 aは、a>0の定数(比例定数)。
ということです。式の方がわかりやすければ、感染者数を yとして、時間をxとして、
dy/dx = a y
です。こういうのを微分方程式、といいますが、この方程式を解くと、その答えは、
y = A exp (a x), Aは定数
です。つまり、感染者数の増え方は感染者数自体に比例するとき、感染者数は指数関数的に増える、ということです。これが自然の摂理です。
コロナが感染症である限り、この摂理からは逃れられません。なので、基本的に感染者数は指数関数的に増えますが、上で見たきたように、プロットの仕方によってはその性質がみえにくくなります。
これまで日本では4回大きな波があって、単純に指数関数的に増えていないように見えますが、増減を繰り返しながらピークの値は直線的に増えていく(つまり指数関数)となっているのがポイントです。波が繰り返すたびにどんどん大きくなっていくわけです。
増減を繰り返している理由はよくわかりません。しかし、ファクターXなんてものはなく、ほっとけば指数関数的に増えていく、のは他の国でも日本でも同じでしょう。
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